第二十七話 提案
「そういう訳でお前を学校に転入させることにした」
家に帰ってきて着替えを済ましてソファに腰を落ち着けると、流は突然そんなことを言い出した。
「は?」
当然ヨウには意味が分からないようだ。
少しの沈黙。
「やはり一から説明しないと駄目か……」
「いや、明らかに今の一言じゃ、伝わらないだろ……」
呆れた表情でヨウが呟く。
すると流は体勢を変えてテーブルを挟んだ向かいのソファに座っているヨウの目を見ながら前に乗り出した。
「お前って17歳なんだろ?」
「え?……ああ、そうだけど」
少し戸惑った後ヨウが頷く。
「だったら高校とか行かなくていいのか?」
「………?」
「『?』じゃなくてだな……」
「??」
「『??』でもない。………分かった。じゃあ、質問を変えよう。今通っている高校はあるのか?」
「……いや、ない」
首を横に振るヨウ。
それを見て流は大きなため息を一つつくとソファの背もたれに寄りかかった。
「お前が何を隠していようと俺には関係ない」
「………」
「だけどな……17歳という年齢を考えると学校には大抵行っている年齢なんだよ。まあ、そのまま働いちゃうって人もいるみたいだがな」
「い……いや、えっと…家出だ、家出。私は家出をしてきて…」
「変な嘘はつかなくていい。って言うか理由は訊いてない。俺が言いたいのは学校に行かせるぞってことだけだ」
「学校……」
真剣な表情でヨウが呟く。
「お前まさか『学校』の意味を知らないんじゃないだろうな?」
「馬鹿にするな。それぐらいは知っている」
「じゃあ、何だ?今の意味深な呟きは」
流が訊くとヨウは下に俯いてしまった。
顔を覗き込んでも全く反応しない。
「何だ?何かあるのか?」
心配になって流が尋ねる。
しかしヨウは首を横に振って
「いや、何でもない」
とだけ答えて顔を上げた。
その表情には先程の曇りは無く、元の明るい顔になっていた。
「で?いつ転入するんだ?」
「あ?ああ、そうだな……GW明けでいいか?」
「分かった。それまでに準備しておけばいいんだな?」
「ああ」
答えると流はソファから勢い良く立ち上がり、伸びをした。
「よし、明日はお前の服でも買いに行くか」
「……服?」
「ああ、そうだ。パジャマは買ったけど、まだ普段着は買ってないだろ」
「ああ…確かに」
「そんで俺は明日は休日。だから買い物行けるんだ」
「でも、いいのか?でも、私一銭も持ってないぞ?」
気まずそうにヨウが尋ねる。
「俺が出してやるよ」
「でも、学校の方も出してくれるんだろ?」
「ああ。もちろん」
「そんなの…悪いじゃないか」
上目遣いにそんなことをヨウが呟く。
それを見てため息をつくと流はヨウの金髪の髪の上に右手を置いた。
「そんなこと無いさ。デートのときは男が女に奢るもんだし、お前は家族だ。教育費を出すのも当たり前だ」
そう言いながらヨウの髪を撫でる。
ヨウは流のそんな態度を見て小さく笑った。
「やはりお前はただのナンパ者ではなさそうだな」
そう言いながらヨウは流の左手を握った。
「!」
「と、言いたい所だが、やはりただのナンパ者……いや、変態のようだな」
ヨウが流の左手を掴んでいる位置、それはヨウの尻に触れる数センチ手前。
「覚悟は……出来ているんだろうな」
「ヨウ……なんだかその笑顔が恐いんだけど」
この後流がでこピンを食らったのはいうまでもない。