第二十六話 おごり
「よっ!」
商店街を歩いていると流は突然後ろから肩を叩かれた。
振り向くとそこには見慣れた顔、並川洋平が立っていた。
「何だ、洋平か」
「何だとは何だ。それが親友に対して言う言葉か?」
「あー、はいはい。分かりました。ごめんなさい」
「何だ?やけに元気無いじゃねぇか」
「……色々あってな」
「まあ、あれは格好つけすぎだったもんな」
「ああ……って、聞いてたのか!?」
流が焦ったように洋平の顔を見る。
「まあな。何となく嫌な予感がしたし。土手の裏側に隠れてたんだが、意外と気付かれなくてな」
「チッ……!やられたな。……で?どう思う?」
「どう思うも何も格好つけすぎだって言ってるだろ?それ以外に何もいえないって。それにあの言葉」
「言葉?」
「ああ、言葉だ。ほら、『人は一人じゃ生きていけないんだよ。……だから、俺がお前の友達になってやる』って言っただろ?あれ、むかし俺がお前に言った言葉そのまんまじゃねえか」
「そうだっけ」
もう気付いているのか、流は笑いながら洋平から視線を逸らしている。
そんな流を見て洋平は大きく呆れたようにため息をつくと、流の肩に手を置いた。
「まあ、あの言葉は女に言ったら相当効くだろうよ。それこそ告白ぐらいの威力はあるだろうな」
「マジでか?」
「ああ、マジだ。これは相当だな」
横に首を振りつつ洋平が答える。
「はあ……どうするかなあ」
「まっ、カツサンドでも奢ってやるから元気出せよ」
「本当か!」
洋平が言うや否や流はすぐに明るい顔を洋平に向けた。
「立ち直りが早いな……」
「いやあ、今お金に困っててさ。もう、居候がいるし大変なんだよ」
「?……今なんて言った?」
「へ?居候が……あっ、そうか。まだ言ってなかったか」
しまった、という風に流が自分の額を叩く。
すると、続いて洋平が流の額を叩いた。
「いって!何すんだよ!」
「いや、叩いて欲しいのかと思ってさ……」
「そんなわけ無いだろう!ジェスチャーだジャスチャー。……ったく」
流は赤くなった額を抑えながら、洋平を睨みつけている。
「悪い悪い。で?その居候って?」
「ん?ああ、水名ヨウって言ってな。歳は17才。これが料理作るのが上手いのはいいんだが、この前って言うか昨日か。大量に作りやがってさ……それで今金欠になってんだよ」
「……お前、そいつってもしかして女か?」
洋平が真剣な表情で流に尋ねる。
「え?ああ、まあ……そうだな」
「いいのか、お前は」
「あ?お前さっきから言っていることが……あっ、そういうことか。ああ、そのことに関しては大丈夫だ。俺が保証する」
「本当にいいのか?」
「ああ、大丈夫だ」
「……分かった。お前がそこまで言うんなら大丈夫だろう」
そう言うと洋平は小さなため息をついて元の表情に戻った。
「しかし女と二人屋根の下って、どんだけ良い生活してるんだ、お前は……。で?その娘は可愛いのか?」
「え?ええと、まあ……かなり可愛いな。うん、俺が言うんだから間違いない」
「で?いつ転入して来るんだ?」
「へ?」
「だから、転入してくるんじゃないのか?この辺で高校っつったらうちの学校しかないだろう?」
「……そうか。そうだったな。ええと……たぶんそろそろだと思うけど」
「そうか。その時はちゃんと紹介しろよ」
そう言うと洋平は小銭を何枚か財布から出し、それらを流の手に握らせた。
「?……どうした?」
「いや、俺この後用事があってさ。ちょっと急がなきゃいけないんだ。あっ、それ、カツサンド代。じゃあな!」
「あ……ああ、じゃあな」
戸惑いながらも流は手を挙げてそれに答えた。
そして小さなため息をついて流は青い空を見上げた。
「……高校ねえ」
そして小さく呟き、家路に着いた。