第二十五話 友達
小さな道を抜けて再び大きな道に出ると、流と林は今度は丁度川が綺麗に見える土手の上を歩いていた。
「そうそう。ここに来たかったんだよ」
そう言って流は林の手をとって少し横にずれると、無理やりそこに座らせた。
辺りには丈の高い草が生えている。
その中には春というだけあって綺麗な花を咲かせているものもある。
そんな風景を楽しむ様子も無く、林は不機嫌な様子で流を睨みつけている。
「しかし驚いたな。お前ここを通ってきているのか。じゃあ、ここの夕焼けの風景は知っているよな?俺はここの風景が好きでさ、良くここに来るんだ」
「……こんな所までついてきて、私に何の用?そろそろ本当の事を言ったら?」
流には目も向けずに林が呟く。
「だから、俺はナンパしに来ただけだって。林があまりに可愛かったからさ」
「貴方に言われても嬉しくない」
「またまたあ、心の中では嬉しすぎて躍っちゃってるくせに」
「……帰る」
「分かった分かった。真面目に話すよ」
帰ろうと立ち上がった林を流が慌てて引き止める。
「………」
林はしばらく流をじっと見つめるとゆっくりと隣に腰をおろした。
安心したように小さくため息をつくと流は態勢を変えて林の方に体ごと向けた。
「まずお前、今友達いるのか?」
「………貴方には関係ない」
相変わらず突き放すような話し方だ。
「いないんだろう?……まあ、あの性格じゃあ、まず友達は出来ないよな」
「………」
はっきり言う流に腹を立てているのか、林は流を睨みつけている。
しかし流はそれを気にした様子も無く、話し続ける。
「お前、そのままじゃクラスからあぶれていじめられるぞ?」
「……そんなの関係ない。いつもの事」
「やっぱり中学の時もいじめられてたのか……」
「………」
「まあ、そうだろうな。……何でそんなにぶっきらぼうなんだ?何か理由があったりはしないのか?」
「ない。もともとの性格」
「器量は良いのになあ。絶対お前のファンはいるって」
「関係ない。そんなの勝手にすればいい」
「髪だってこんなに綺麗なのに……」
そう言って林の纏められた長い髪を触ろうとした瞬間、林は勢い良く立ち上がって流から距離をとった。
その表情は真剣な表情で、まるで何かを嫌な事を思い出しているかのような表情だ。
「………」
「……やっぱり帰る」
林は流に背を向け、土手の上に上がり、そのまま歩き出した。
「……ごめん。髪、触られたくなかったんだな」
不意に流が呟くと林はそれに反応してその足をとめた。
そしてゆっくりと流の方に振り返る。
体勢はそのままで、しかし林を見ている目は真剣だ。
「最後に一つだけ……いいか?」
「………」
林はそのまま立っている。
「お前は今、友達が欲しいか?」
「………」
「……何も言わない…いや、何も言えないってことは欲しいんだな」
「………」
流はゆっくりと立ち上がると林の前まで歩み寄りゆっくりと口を開いた。
「人は一人じゃ生きていけないんだよ。……だから、俺がお前の友達になってやる」
そう言った流の表情は優しく、どこかその言葉を懐かしんでいるようにも見える。
それに対し、林は無表情のまま流に背を向けると再び歩き出した。
そしてしばらく歩いた後で足を止めると長い髪を揺らして流のほうに振り返った。
「貴方、名前は?」
「川瀬流だ。お前どうせ、『先輩』とかつけるの苦手そうだから川瀬でいいよ」
「そう………よろしく、川瀬」
それだけ言うと走って土手を降りていってしまった。
その姿が見えなくなると、流は踵を返し、歩き出した。