第二十四話 誘い
帰りのHRが終わると、一年生の教室はもう仲のいいグループが出来上がっているのか、あちこちで何人か固まって仲良さそうに話している。
そんな中、久澄林は誰とも話さずに無表情のままで横に纏めてある長い髪を揺らしながら立ち上がり、鞄を手に持った。
帰りのHRは終わったので、すぐに帰宅する生徒も少なくはない。
しかし一人でという者はそうそういない筈だ。
そんな事を気にした様子もなく、林は帰宅しようとする。
「久澄さん」
後ろから声を掛けられ、林はゆっくりと振り返った。
そこにいたのは何度か話し掛けてきたことのある女生徒。
友達にでもなりたいのか、林にしきりに話し掛けてきていた。
「何?」
林が抑揚をつけずに返事をする。
「あ……えっと…い、一緒に帰らない?」
少し戸惑いながらもその女生徒は林を誘った。
何人か林の方を見ている女生徒が彼女の後ろにいる。
おそらくこの女生徒も後ろにいる彼女達と一緒に帰るのだろう。
そこに林を誘っているのだ。
「いい、一人で帰る」
林はぶっきらぼうにそう言うとその女生徒達に背を向け、そのまま教室を出た。
「ぬおっ!」
一年A組の教室に入ろうとした途端に誰かとぶつかった。
制服からすると女子のようだ。
流はその謝りもしないで先に行こうとする女子に見覚えがあったため、その手を反射で掴んだ。
「……何?」
その少女、久澄林は流の方にぶっきらぼうに振り返る。
「君、久澄林だろ?俺、川瀬流。折角だから一緒に帰ろうぜ」
「……いい、一人で帰る」
そう言うや否や、林は流の腕を振り解き、そのまま速歩きで歩き出した。
流もそれにあわせて歩きはじめる。
林のスピードは意外に速く、中々に疲れそうだ。
校内を猛スピードで歩く男女。
またしても流は校内の注目を浴びている。
靴を履き替え、校舎内から出てもそのスピードは変わらなかった。
しかし校門まで来たところで林は不意に足を止めた。
そして流のほうに振り返り、きつい視線で睨みつける。
「私に何の用?何もないならついてこないで」
その声は静かな声ではあるものの、何か突き放すような言い方だ。
「だから、一緒に帰りたいって言ってんじゃん。俺は君と一緒に帰りたいだけなの。要するにナンパだな」
「だったら他の女を当たれば問題ないはず。わざわざ私に付きまとう必要はない」
「あるある。そんないい容姿をしてるんだ。それをナンパせずにいるなって言う方が無理だな」
「………」
突き放すのは無理と判断したのか、林は流の背を向け、再び歩き出した。
流もそれに続く。
しばらく歩くと、商店街の入り口まで来たところで不意に流が口を開いた。
「なあ、あっち行かないか?」
見ると流は入り口の前を曲がったところにある小さな路地を指差している。
流の家は商店街を抜けた先にあるはずだ。
林は黙ったまま流の前を通り過ぎて流の指差している方向に足を運んだ。
「おっ、無視してるわりにはノリが良いな」
そう言ってから流が走って林の隣に並ぶ。
「私の家がこっち。それだけ」
無表情のまま呟くと、さらに歩く速度を上げた。