第二十三話 反撃
「なあ、菜月ちゃん。俺水月に話があるからちょっと待っててくれな」
秘密について迫られた後、他にも色々と質問されて精神的に限界が訪れ始めて流はそんな事を提案した
「ええ〜。そんな事言わないでください。もっと話したいです〜」
菜月が流の腕を掴み揺さぶり始めた。
「揺するな!」
「だってまだまだ訊きたい事いっぱいありますもん」
「長すぎる!って言うか揺するなって……頭痛が起きる」
流は必死で訴えかけるが、依然として菜月は止めない。
しばらく揺すられていると流は突然、菜月の肩を掴みその動きを止めさせた。
「よし分かった。そっちがその気なら俺にも考えがある」
そう言うや否や、流は菜月の腰に手を回し、軽く抱きかかえた。
「わっ、わっ!」
この行動に驚いたのか菜月は手足をじたばたさせるが、それも無意味に終わる。
「食らえ!必殺っ、トルネードバスター!」
「きゃー!」
奇妙な技名を口にすると、流はその状態のまま自分を軸にしてぐるぐると回り始めた。
抱きかかえられている菜月も一緒に回っているため、ぐるぐると回転しているが、楽しそうに笑っている。
二人が回り始めてから約30秒後、流に限界が訪れたのか、その場で菜月を下ろすとふらふらと目的もなくその辺りを歩き始めた。
「どうだ…参ったか……これが必殺……おえ……トルネードハリケーン……だ」
どうやら相当参っているらしく、先程の技名まで変わってしまっている。
「ハラリレラレ〜〜」
菜月もかなり目が回っているのか、流と同じようにそこら辺を彷徨っている。
そしてしばらく彷徨っているとやがて菜月は力尽きたように水月の胸に倒れこんだ。
「全く……自業自得よ」
呆れた表情で水月が呟く。
辺りを見回すと、皆ちらちらとこちらの様子を窺っている。
流の隣にいればこんなことは日常茶飯事だ。
水月も相当慣れているのか、小さくため息をつくと未だ吐き気と戦っている流のもとへ足を運び出した。
流は本気でまずくなってきたのか、壁に手をついて口を抑えている。
「う……ヤバイ。本気でやらなきゃよかった……」
そう呟きながらも倒れそうになる体を必死で支えている。
(こんな所で倒れたら本物の馬鹿になってしまう……)
本人に馬鹿という自覚がないのか、本気で焦っているようだ。
吐き気と戦っている中、不意に後ろから肩を叩かれた。
振り返るとそこには菜月を担ぎつつ、笑顔で立っている水月。
「そういう訳でこの娘あんたに興味持っちゃってるみたいだから、よろしくね」
菜月はだらりと完全に水月に体重を預けている。
少々やりすぎたようだ。
「興味って言っても、あれだろ?恋愛感情じゃないだろ……」
「そ。ただ単純な興味。この娘が誰かを好きになったところなんて見たことがないしね」
「……可愛いのになあ」
残念そうに流が呟く。
その声が聞こえているのか聞こえていないのか、菜月はその状態でハヒ〜とうめき声をあげた。
まだ具合の悪そうな流だが、大分治ったのかよろよろと自分の足で立って水月のほうに体を向ける。
「分かってると思うけど、この娘相当しつこいわよ?」
「フッ……それだけ俺の事を思ってくれていると言うわけだ」
「まあ、恋愛感情じゃないけどね。しかも始めて見る物に惹かれる、見たいな興味の持ち方だしね」
「いや、そういうのもいつかは恋愛感情に発展していくものなんだよ」
「確かに普通の人ならそれはあるかもしれないけど……」
水月がじっと流の顔を見る。
「あんたに限ってそれはないわね」
ふっ、とため息をつきながら首を振りつつ呟く水月。
と、その時学校中に次の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「あっ、流。私この娘教室に送り届けてから行くから先生にそのこと伝えておいて」
「……分かったよ。もともと俺のせいだしな」
「ううん、この娘あれくらいしないと止まらないからあれで正解よ」
水月はそう言うや否や菜月を背負って走り出した。
「……参ったな」
やや疲れ気味にそう呟くと、流は教室の中へと入っていった。