第二十二話 質問攻め
「さてと……」
小さく呟いて立ち上がる川瀬流。
喧騒の中教室の出口へと足を運ぶ。
向かう先は1年A組。
先日は会えなかった久澄と言う女の子に会うためだ。
前に顔は見たが結局のところ話し掛けられなかった。
だから今回は少し急ぎ足で1年の教室に向かうのだった。
「ん?」
流が急いでいるはずの足をとめ、ある一点を見ている。
その先には湖上水月。
そして一緒にいるのは見知らぬ女の子。
水月とは違い、髪は短く後ろで一つにまとめている。
上履きに入っている筋の色は一年生を示す緑だ。
二人はお互い向かい合い、仲良さ気に話している。
(水月の知り合いってことは俺も話し掛けやすいな……)
1年の教室に向かうのは後にし、流は二人の方に歩み寄っていった。
「よう、水月。その娘誰?」
水月の肩を叩き、流がナンパする気満々で尋ねる。
肩を叩かれた水月は振り返らずにあからさまに大きなため息をつきながら、流の方に体を向け、人差し指を流の胸に当てる。
「この人がさっき言ってた最重要危険人物の川瀬流。この人が近づいてきたらまず身構えなきゃ駄目だからね」
そして後ろの女の子に何か忠告をしている。
「で?その娘誰なんだ?」
「あ、流。いたんだ?」
「お前今俺の事指差しただろ?それで気付かないなんてあからさまに不自然だ」
先程から無視されているためか、流は不機嫌そうに答えた。
「まあまあ、怒らない怒らない」
笑いながらなだめる水月。
「……ま、いっか。で?その娘は?」
怒っても意味がないことを悟ったのか、流の表情は不機嫌なものから普段のものに戻った。
自分の事だと気付いたのか今まで水月の後ろにいた女の子がピョイと軽いステップで水月の横に出てくる。
「うん。あまり気が進まないけど紹介しておくね」
「気が進まないって何だよ……」
「まあまあ。それでこの娘は私の妹の……」
「湖上菜月っ!よろしくお願いします、川瀬先輩。……あっ、でもこういう場合ってやっぱり姉妹で揃えた方がいいんですかね?う〜ん……流先輩。うん、これにしよう。流先輩でいいですか?」
「あ……ああ。別にいいけど」
「あははっ。良かったあ!じゃあ流先輩。流先輩のご趣味とかって何ですか?」
笑いながらにじり寄ってくる菜月。
流は想定していなかったためか、かなりおされ気味だ。
「あ……ええと、ナンパとか……だな」
「わあっ!お姉ちゃんが言ってたことって本当だったんですね。私も実際聞くまでは疑ってたんだけど、でも実際にこうやって聞いちゃうと納得せざるを得ないですもんね」
「………」
流が思わず苦笑いで水月の顔を見る。
水月も苦笑している。
「俺、こんなに人懐っこい奴、始めて見た……」
「うん、だから気が進まないって言ったじゃない。……ほら、まだ話し終わってないみたいよ」
「流先輩っ!聞いてます?」
「ふぁい!」
顔を捕まれ無理やり菜月のほうに向けさせられる。
突然の行動に妙な声をあげてしまう流だが、しっかりと笑顔は保っている。
「それでそれで、流先輩には誰か好きな娘とかいたりとかしちゃうんですか?」
「フッ……可愛い女の子なら全員好きだな」
「うわっ、本当に言った。お姉ちゃんの言ったとおりですね……」
「お前何吹き込んでんだよ……」
呆れた表情で流が水月を睨む。
「別に♪」
微妙に笑みを浮かべつつ、窓の外を見る水月。
あの様子だと他にも色々と吹き込んでいそうだ。
「それでそれで、流先輩。何か人に言えないような秘密とかってないんですか?」
「無いよ」
流が呟くと菜月が大きく一歩踏み込んできた。
「あるでしょう?……いえ、ある筈です。人には何か一つくらい何か秘密と言うものがあるはずです」
「だから無いって……」
「いえ、必ずあるはずです!何か一つでもいいので教えてください!」
そう言いながらずいずいと詰め寄ってくる菜月。
その圧迫感に流がたじろぐ。
「水月〜〜」
あまりのしつこさに水月に助けを求めるが、水月はさっきの状態のまま窓の外を眺めている。
つまり完全にこちらの話を無視に決め込んでいるのだ。
助けを失った流は力尽きたようにぐったりとうなだれた。