第十八話 感触
「そういう訳でこれを買ってきた」
そう言ってヨウの前に手に持っていた袋を手渡す。
「?……何だこれは?」
ヨウが手に持っていた袋を開封する。
そしてそれに手を突っ込んで中のものを引っ張り出すと、中からは青い服が出てきた。
「……本当に何だこれは」
畳んであったそれを広げるヨウ。
広げられた服には水玉の模様が入っており、全体的に生地が薄い。
「パジャマ。確かお前家に来てからその服しか着てないだろう?」
「まあ、確かにそうだな」
自分の服を見下ろすとヨウは今気付いたかのように頷く。
「そんで、ここに来たとき、お前の荷物はなかった」
「そうだな」
「……改めてお前何者だ?」
今までの事を思うとやはり普通には思えなかったのか流がまじまじとヨウを見る。
「……お前は何が言いたいんだ?」
どんどん話が逸れていってることに腹が立ったのかヨウが不機嫌そうに訊いた。
「ああ、そうだった。いや、その格好じゃ寝るときに寝苦しいだろうと思ってさ。お前用にそのパジャマを買ってきたんだ」
「……なんか妙な優しさだな」
ヨウが疑わしい目で流を見る。
「妙って何だよ?俺は別にお前の着替えを覗こうとしている訳でもなく、お前のパジャマ姿が何か見たいからとかそういうのじゃなく、善意で買ってきてやってるんだぞ?それを妙な優しさとか言われるのは心外だな」
「お前の考えは良く分かった。じゃあ、これは寝る直前にだけ着させてもらおう」
そう言って背を向けるヨウ。
しかしそこから歩を進めずに立ち止まっている。
「何だ?」
少し意地悪そうな笑みを浮かべながらヨウが振り返る。
その視線の先にはヨウのズボンの裾を掴んで倒れている流。
「せめて………せめて夕飯前には着て……」
目を潤ませながら流が懇願する。
相当ヨウのパジャマ姿が見たいのだろうか
それを見てヨウは呆れたように小さくため息をつきつつも柔らかな笑みを浮かべて
「分かったよ。折角買ってもらったものだしな」
と、そう答えた。
それを聞いた途端、流は明るい表情の顔をあげてヨウを見る。
「分かったからその手を離してくれ。着替えにいけないじゃないか」
「あ……ああ、そうだな」
そう言って流が手を離す。
「あっ、着替え覗いたらもう着ないからな」
「えっ!?駄目なのか!?」
「返す」
「嘘嘘っ!冗談だって。覗かない覗かない」
流が焦ったように首を振るとヨウが呆れた表情でため息をつき、自分に割り当てられた部屋がある二階へと向かい始める。
しかしロビーから出る直前でふと何かに気が付いたように足を止めた。
「こんなことを訊くのも気が引けるのだが………」
「?どうした?」
「お前、親戚から仕送りをしてもらっているといっていたな?」
「ああ、そうだな」
「いくら位もらっているんだ?」
「?…なんでそんなことを訊く?」
ヨウの意図がつかめないのか、流が様子を窺うようにして尋ねる。
そして言った後で何かに気付いたように流は納得したように頷いた。
「成る程、そういう事か。その点は安心していいぞ。一応、余分にはもらっている」
「でも、私は一円も持っていないんだぞ!私がここにいてもお前に得は無い」
申し訳無さそうに視線を落とすヨウ。
それを見て流はわざとらしく大きなため息をつくと、勢いをつけてソファから立ち上がる。
そしてヨウの目の前まで歩み寄りと、突然その体を優しく抱きしめた。
少し驚いた表情をしたヨウだが普段とは違う雰囲気を悟ったのか、大人しくその身を預けて目を閉じている。
「馬ぁ鹿。別に俺はお前からお金が欲しいからここに泊めている訳でもなく、それに損か得かで考えたら特に決まってるだろう。だって金髪の美少女が家にいるんだぞ。これはまさに得としか言いようが無い」
「……理由はともかく、そう言ってもらえると私も嬉しい」
流の体温を感じながらヨウがそっと呟く。
流は何も言わずにじっとヨウの体を抱きしめている。
そして何十秒経っただろうか、ずっと黙っていた流がようやく口を開いた。
「………お前、結構胸小さいな。体も小柄な方だし」
その言葉を聞いた瞬間、ヨウの表情が一変した。
気持ち良さそうに閉じられていた目も今では見開かれ、流を上目遣いに睨みつけている。
「お前も、こういう所さえ直していけば、十分モテると思うぞ」
笑顔でそう言ってヨウは用意していたでこピンを今度は加減無しで流の鳩尾に叩き込んだ。