第十二話 頼みごと
「明ーーっ!!」
「どはっ!」
後ろから思い切り抱きつかれ、そのままアスファルトに倒れ込む河野明。
その上に乗っているのはもちろん流だ。
「流っ、お前本当にいい加減にしろっ!毎朝抱きつかれる私の身にもなってくれ」
自分の腹の辺りに抱きついている流の頭を抑えながら明が嘆く。
しばらく明の体の感触を楽しんだ後、流は名残惜しそうに明の体から離れた。
「……ったく」
スカートについた土を払いながら明が立ち上がる。
「やあ、二人とも。朝から随分と楽しそうなことで」
後ろから楽しそうな声が聞こえ、流が顔だけ向け、明は体をそちらに向けた。
「当たり前だろ?俺と明は恋人同士なんだから」
流はそこに立っている人物、白井晴樹の顔を見て自慢げに笑う。
「待てっ!何で私が流の恋人になっているんだ!?」
「違うのか?」
「違うだろっ!どこをどう見たらそう見えるんだ!」
「朝から抱き合う仲じゃないか」
「それで恋人だったらお前にはいったい何人恋人が居ることになるんだ?」
「……ざっと1000人くらい」
「お前そんなこと言っているようじゃ、絶対に恋人出来ないぞ?」
「だから明がいるって」
「だからなんで私なんだ!?」
「おーい、お二人さん。仲が良い事はもう分かったから、早く学校行こうよ。遅刻になっちゃうよ?」
晴樹が痴話喧嘩をし始めた明と流の仲裁に入る。
「……ッ!先に行く!」
明は怒ったように背を向け、そのまま学校に向かってすごい勢いで歩き出した。
「あーあ。行っちゃった」
残念そうに言う流。
しかしその表情は何処か楽しんでいるようにも見られた。
「全く……相変わらず嫌われる天才だね。君は」
呆れたように呟く晴樹。
「まあ、良いじゃないか。これも人生って事で。……で?俺に何か用でもあったのか?こっちは遠回りだろ?」
「うん。実は我らナンパ同盟からの情報によると、かなり声を掛けづらい女の子が一年にいるそうなんだ」
「……で?」
「君にこの娘をナンパしてみてくれって訳」
「断る」
笑顔で言う晴樹に対して流は真剣な表情で断った。
「何でわざわざ声の掛けづらい相手をナンパしなくちゃいけないんだ」
「いやそれがさ、かなり可愛いらしいんだ。特徴はちょっときつい目つきに後ろの髪を全部右に回すサイドテール。そんで持ってその髪はかなり長いらしいよ」
「特徴いっても俺はそんな奴には話し掛けない」
そっぽを向く流。
「まあまあ。見かけたらで良いからさ。頼んだよ」
そう言いながら晴樹は学校に向かって走り出した。
その姿を見て流は小さくため息をついた。