第十一話 家族
いつものように鳴り響く目覚し時計。
それをいつものように眠気眼で止める流。
いつもと変わらない朝。
毎朝しているようにベットの横にあるカーテンを開ける。
しかし朝日は差し込んで来ず、外はどんよりと曇っていた。
「はあ……」
やる気を無くした様に大きなため息をつく流。
そしてベットから這い出ると、だらだらと着替え、部屋を後にした。
いつもと変わらない日常のはずなのに何処か違っている。
そう、それはまさに今目の前に居る少女のせいだ。
「おはよう……」
眠そうに目をこすりながら朝の挨拶をするヨウ。
そのまま寝たのか昨日と同じ格好をしている。
「……っていうか、お前着替えは?」
「………へ?」
少し……というかかなり間をおいてからヨウが訊き返す。
朝に相当弱いのか、頭が働いていないようだ。
「キスしてもいい?」
そうと分かった流はにやりと笑いながらヨウに訊く。
「………うん」
素直にヨウが頷く。
それを訊いた流は呆れた表情で首を振ると、力いっぱいのでこピンをヨウに放った。
「……ッた!」
突然に痛みに悶絶するヨウ。
「昨日の仕返しだ」
目を覚ましたのを確認するまでも無いのか、流はそのまま台所へ向かった。
朝食を作り、それらをテーブルに並べ終えた頃、顔でも洗ってきたのか顔をタオルで拭いているヨウがようやく食卓に姿をあらわした。
「はあ……何もこんなに早く起こさなくても」
ダルそうに呟きながら食卓に座るヨウ。
流は小さくため息をつくと、自分もヨウの向かいの席に座った。
「飯はあったかいうちの方が美味いだろ?」
そう言って流が箸を掴んで食べ始める。
「これ、お前が……?」
「ああ、そうだぞ。安心しろ。睡眠薬なんて入れてないから」
食卓な並べられた食事を見渡して驚くヨウに流はゆっくりと食べながら答える。
「お前、家族は?」
ふと、気が付いたようにヨウがその言葉を口にする。
訊かれたくなかったことなのか、一瞬流の箸が止まった。
「両親は死んだよ。ずっと前に交通事故でな。あと、兄貴が居るが今は理由あっていない。金のほうは親戚から仕送りをしてもらっている」
再び食事を再開する流。
「……ごめん。変なこと訊いて……」
気まずそうにヨウが呟く。
しばらく気まずい沈黙が流れ、黙々と食事が続けられる。
そして先に口を開いたのは流だった。
「言っておくが、お前は全く悪くないからな。家の事を訊くのは普通だし、それに何より居候となる身だからな。俺も今日言っておこうと思っていた」
「………流」
「何だ?」
「お前って、ナンパ者にしてはなんか優しいよな」
「ナンパ者はみんな優しいんだ」
「いや、そういう意味じゃなくてだな。なんて言うか……普通の奴とは違うっていうのかな?」
「意味の分からないこと言ってないで早く飯食いな。俺はもう学校に行くから家の事は頼んだぞ」
すでに食べ終わっていた流が椅子から立ち上がると、近くに置いてあった鞄を持ち上げて玄関まで歩いていった。
靴を履きかえると、いつの間にかヨウが後ろに立っていた。
「私だけ家に置いて出て行っていいのか?」
「?」
疑問の表情を浮かべながらヨウの顔を見る流。
「当たり前だろ?お前は今日から家族なんだから」
「ここの家の有り金全部を持って逃げ帰ってしまうかもしれないぞ?」
ヨウがそう言うと流は呆れたように小さくため息をついた。
「あのな……お前は可愛い女の子。それだけで俺の中では信用に足るんだよ」
「………」
「で、家族が他の家族を家から見送るとき、決まって言う言葉がある」
そう言いながらドアのノブを回しドアに体重をかける流。
ドアはゆっくりと開かれていく。
「ああ、知ってる」
そう言ってヨウが笑顔を作る。
そして小さく息を吸って
「もう帰ってくるな」
と、その一言だけ言い放った。
その言葉を聞いた瞬間、流は体でドアを押し明け、思わず外に倒れこんだ。
「違うだろっ!それただ俺が追い出されてるだけろうがっ!」
すぐに起き上がると流はすぐにそう叫んだ。
「ははは。冗談だ」
笑いながらそう言うヨウ。
「ったく……じゃあ、本当に行ってくるからな」
「ああ、行ってらっしゃい」
そう言ってヨウは笑顔で流を送り出した。