第百四話 条件
「そう言えばさっきから全く話題にでき来てないんだけど、あんた結構人気高いのよ。知ってた?」
注文したパフェを口に運びながら水月が流に尋ねる。
「へぇ……」
「『へぇ……』ってなんか反応薄いわね」
「まあな」
前の流ならば喜ぶ素振りをしただろうが、今となってはそう言う行動をしようとしてもうまく行かずに失敗するのが目に見えている。
「あんたなら飛んで喜ぶと思ったのに。……こう、ビューンって」
「いやいや、俺空飛べないし」
「何言ってんのよ。例えよ。例え」
「いや、例えで擬音語使うなよ。分かりにくいだろうが」
流が突っ込みを入れると、水月は複雑な表情で何かを考え込み始めた。
「どうした?」
「ううん。何でもない」
「………まあ、いいや。っと、ちょっと話は逸れるんだけどな」
「何?」
「次のテストでさ。一緒にテスト勉強しないか?俺と」
流の突然の提案に水月は驚き……ではなく呆れた表情を浮かべた。
「……あんたねぇ。私とあんたが何組か分かって言ってるの?」
「あ、ああ。A組だろ?」
「そう、A組よ。で、何でA組の私たちが一緒になって勉強しいなきゃいけないのよ?」
「いや、ほら、油断大敵って言うじゃないか」
「油断?言っておくけど私はもう今回の試験範囲であろう部分は勉強し終えているわよ?」
「菜月ちゃんを交えてさ」
「菜月?」
水月が怪訝な表情を浮かべて固まる。
「何で菜月なのよ?」
「いや、菜月ちゃんも教えてあげようかなぁって」
頬を掻きながら流が呟く。
その言葉を聞いて水月が腕を組んでしばし考え込む。
「言っておくけど、あの娘は本当にあんたに恋愛感情は抱いてないからね?」
「分かってるよ」
「本当に?」
「ああ」
流が頷くと水月が再び考え込み始める。
しばらくして水月は何か思いついたのか悪戯っぽい笑みを浮かべて流の方を見た。
「お前……絶対良くないこと考えてるだろ?」
「ううん。そんなに大したことじゃないわよ?」
水月がその表情のまま首を振る。
「ねぇ、さっきの提案、ある条件を飲んでくれれば受けてあげてもいいわよ」
「条件?」
「うん。『今回の試験で負けた方は勝った方の言うことを何でも聞く』。どう?シンプルでしょ?」
ニヤリと笑いながら流に問いかける水月。
一方で流は額に人差し指を当てて悩んでいる。
「なあ、水月。先に言っておくが、お前は俺に試験で勝ったことなんてほとんどないんだぞ?考え直した方がいいんじゃないか?」
流としてはこの条件はあまり飲みたくない。
水月に流が試験で勝ったのはあくまで『ほとんど』であって『全く』ではないのだ。
「大丈夫。今回は本気でやるから」
「第一相手は俺だぞ?何命令するかわかんないぞ?」
「それも大丈夫。今の流ならそんな大したこと言わなさそうだし」
水月は全く条件を変えるつもりはないようで流の提案に全く応じない。
流は疲れた表情でため息をつき、
「分かったよ。それでいいから勉強会をしよう」
「本当!?やった!」
流の承諾を聞いて水月は手を叩いて喜んだ。