自意識のある幽霊
突然だが、僕はバカだ。バカなのだが、別にテストの点数が悪いとか、小学生並みの精神年齢をしているとかそういった類のものじゃない。そう、賢くないという意味でのそれだ。
それだけだとわかりにくいと思うから具体的な話をしていこう。
自分のことを話すのはすこし恥ずかしいから一人称を彼に統一して話す。
彼は只の中学ニ年生だ。家庭事情も交友関係も全く問題なく、学校でも真面目な生徒で本当に普通の少年だ。しかし、彼には一つ欠点がある。例えば、君も一度は係か何かの仕事でプリントをクラスメイトか誰かに配布をしたことがあると思う。君が配るプリントはきっちりと整っているがたくさんの席に配るために効率よく分けなければならない。そんな時、普通の人ならきっとプリントの束を円状にこすったり、何回も折り曲げたりなんかして一枚ずつ数えやすいようにするだろう。しかし彼は、そのまま配ってしまう。
他にも、周りの人が大きな長細い三角形のような形のファイルを雪崩のように崩れないように一つ一つ反対向きにして積むなか、彼はそのまま積む。
今、話したようなことが彼にはたくさんある。勿論そんなことだから先生やクラスメイトも彼に指摘をして、そのことを自覚していて注意深く考えるよう意識はしているのだが、やはり同じようなまま。
あるときクラスメイトの一人が、友達と喋っている何気ない言葉が耳に入ってきた。
頭は良いけど賢くないひとっているよね__別に彼のことを話しているわけでは無いのは会話の前後の文脈からも理解しているが、それが自分に言われているかのように錯覚して深く傷ついてしまう。
はぁ、自分のことを話して自分がますます嫌になった。オチもないし笑いどころすら見当たらない話。嘲って欲しいぐらいだ。こんな自己満足を書き綴ってる自分は一体何だろう。
そこにコンコンコンとドアをノックする音がして、声がドアの隙間から少しきつめの声が聞こえる。
「入ってもいい?」
いいよ、と返事をすると石鹸のようにすべすべした長い黒髪をした女性は部屋に入って来た。
「何のよう? お母さん」
「もう、また部屋を散らかして。昨日渡してきた三者面談の紙のことなんだけど」
あぁそういえば渡してた気がしなくもないかも。
「お父さんに来てって頼んどいたからお父さんの予定に合わせて書いて今自分で持ってる」
「あっそうなの。じゃあ私は行かなくていいのね」
「そう、もう用はないでしょ」
そう言うとお母さんはぎしぎしと音が鳴る階段を下ってリビングに戻っていった。
はぁ、裏を返せばこんなもんか。
僕は深くため息をついてノートパソコンを閉じた。