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秋の短編2017

土曜日の小説

作者: 鷹枝ピトン

 締め切りは、あと三時間。頭に巻いたハチマキはきつく締め、俺、こと小説家、神童天才はパソコンを叩く。神童なにがしとは、もちろんペンネームである。こんな本名現実にはあり得ない。だが、自分の書く小説のなかにはこのような名の登場人物を多数出現させている。あいつら、あそこが現実だと思ってやがる。おもしろいことに。


 自分の物語は、あとから読み返すと、意味がわからないものになっていることが多い。だいたい、書いているときは変なテンションになっているから、シラフの状態だと、読むに堪えないのだ。たまに自作小説を読み返すときは、恥ずかしさを隠すためにも酒を入れて読む。そうすると、ある程度はページをめくれるようになる。


 俺は小説家として活動していることを、誰にも話したことはない。自分で読む以上に、知り合いに読まれるのは恥ずかしい。あれは中学の時だったか。初めて書いた小説を親に読まれたとき、俺はかおが真っ赤になって焼け死ぬかと思った。母ににやにやと笑われ、ノートに書き連ねた俺の世界は、しょせん井戸のなかであったと知り、俺は一度筆をおいた。


 しかし、パソコンを手に入れてからは指が踊るように文字を打っていくようになった。ここで作った物語は、自分の気分次第で公開したり、投稿したり、削除したりと思うがままだった。現実の知り合いに、世界を侵害されない。それが羞恥のかたまりである俺にはここちよかった。

 

 それから何年かたち、小説書きが金になるようになった。ペンネームもそこそこ名が知れるようになった。そうなると、もはや本名で活動しているのとなんら変わりがない。神童天才が書いた作品が叩かれれば、俺が傷つく。自分と切り離すために作った作家が、結局俺のからだと繋がっている。切るに切れない腐れ縁。腐り落ちてはくれないものか。


 登場人物を動かしていると、自分を神かと錯覚してしまうことがあるが、実は神童天才すらも、俺が作り上げた作家であるし、現実世界の俺はどこにでもいるタダの人間だ。くだらない。


 夢想して時間を無駄にしつつ、時計を見て、さらにタイピングスピードを上げる。誤字は編集やら校閲やらどこかのひとに直してもらえばいいか。出版コードに引っかかるなら、直してもらえばいいか。適当でもいい。この国では時間さえ守れば何をやってもいいいのだ。


 無音の部屋に、カタカタと音が響く。四畳半のボロ部屋。声をかけてくれるもの、お茶を汲んでくれるもの、邪魔をしてくるもの、誰もいない。


 俺はこの小説家の面を他人に隠しているが、世間体的には無職ではない。つまりは、本職もしっかりと持っている。それゆえ、小説を書く時間は限られており、毎日が忙しい。この原稿を完成させたら、次の土日はフリーだ。どこかに遊びにでもいくか。


 この間、知り合いから、空港での待ち時間にかったという旅行雑誌を渡された。三蛙町。しらない場所だ。見聞を広めるというほど大仰なことではないが、気分転換にはなるだろう。


 と、急に隣の部屋から、轟音が響く。


 とっさに壁を見る。耳を澄ますと、土足で人が入り込む音がする。なんだろうか。考えられるのは、アメリカ人のホームパーティーか、借金取りか。まあどんな目にあっても知らん。隣の優男はさらに隣の女子大生をたらしこんでいるようなので、もっと悲惨な目にあってしまえばいいのだ。


 気がそれた。飲み物でも取りに行こう。部屋に設置された小さな冷蔵庫。なかには買いだめしたミネラルウォーターが詰まっている。開けると、残量二本。近所のスーパー、コカドでそのうち買い足そう。あそこは特売日が多い。


 小説は、あとは数行で書きあがる。残り時間は、一時間半。十分間に合う。テレビでも見ながらやるか。


 チャンネルを付けると、ニュース番組であった。八月の終わり、行方不明になった少年の捜索について報道されていた。海に向かったというのだから、自然に思い浮かぶのは、波にのまれた可能性だろう。可愛そうだが、見つかる見込みはなさそうだ。


 学校の友だちはどう思っているのだろう。夏休みあけ、人が一人いなくなっている。自主退学とかではない、永遠の別れ。楽しい思い出が曇ってしまう。そういえば、俺もひとりいた。夏休み明けに、知り合いが一人死んだことが、あった。


 あいつは気のいい奴だった。天国では、先輩として少年を導いてやってほしい。そして、俺が死んだときにも、同じように。


 死んだら、どうなるのか。それは知らないが、とりあえずはなにか先があるということにしている。何故って、こちとら小説家だ。そのような設定は創作の幅を広めやすい。天国、異世界、地獄に来世。いろんな展開が用意できる。


 俺がいま書いている小説が完結したら、この登場人物たちはどうなるのだろう。死、とも違うような気がする。なんどでも読み返せるから、ループか?まあ、ループも物語の定番か。こいつらには、お似合いだろう。


 上から目線にいっているが、俺だって、さらに上の存在に作られたかもしれないのだ。こうして、小説を書いているのも、小説家によってやらされているのかもしれない。


 あとは自分がゲームのキャラクターという場合もあるか。ブチ消しによるデータ削除は勘弁してもらいたい。


 水で喉を潤し、快調に物語を紡ぐ。よし、よし、よし、……終わり、だ。


「お仕事終了っと。さー、データ送って寝るか」


 布団を敷き、寝っ転がる。じいいんと、からだがリラックスする。


 こんなことを考えすぎると、眠ることができなくなるだろうが。


「もし、これが小説だったら」


 目をつぶると、どうなるのだろう。


計7作品終了です。

シリーズはこちらからhttps://ncode.syosetu.com/s9948d/


冬になったらまた短編書くかもしれないです。そのときはよろしくお願いします。


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