表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かくれんぼ  作者: 直井 倖之進
8/23

第二章 『深夜の廃病院でかくれんぼ』①


           第二章 『深夜の(はい)病院でかくれんぼ』


 夏の夜。焼けつくような真昼の太陽とは対照的に、やんわりとした月明かりが地面を照らす。遠く三十八万キロメートルの彼方(かなた)から、遮るものなく地面を照らす。

 しかし、(とつ)(じょ)そこに(あわ)(かげ)が落ちると、時を同じくして、月光は(ひと)(がた)を映し始めた。

 (ひと)(がた)は少しずつ色味を帯びていき、やがて、それはサンゴの姿となって地上に現れた。

「……ここ、どこ?」

 室内から屋外、昼から夜という急な場面転換についていけず、サンゴはほうけたように周囲を見回した。

 正面には、車も通れるほどの広さのアスファルトの通路が、(ゆる)やかな右カーブを(えが)く上り坂となって先へと続き、行き着くであろう場所には、三階建ての建物。屋上には大きな看板がかかっていた。

 ふり返ってみても同じアスファルトの通路だ。こちらは、正門へと向かって真っ直ぐに延びていた。

 結局、差し当たって目につくものといえば建物の看板だけ。サンゴはそれを声に出して読んだ。

「えーと。何とか……た、びょういん」

 おしい。正確には“又田病院”、“まただびょういん”である。

 “田”は一年生、“病院”は三年生で習ったため知っているのだが、“又”は中学生になってから登場する漢字。小学四年生のサンゴにはまだ読めなかったのである。

 まぁ、それでも、ここが病院の(しき)()(ない)だと分かったのだから小学校に通っている()()はあったというもの。彼は、これからについての(さん)(だん)を始めた。

 先ず、既に夜も()けてしまったこの時刻では、何をおいても家に帰らねばならない。そのためには、ここから家までの道のりを誰かにたずねる必要があり、人のいそうな場所まで移動しなければならない。そうしなければならないのだが……。

 では、移動するとして、いったいどちらに向かうべきなのか。病院に行くのか。それとも、正門より外に出て、民家なり交番なりを探すのか。

 サンゴは、(そう)(ほう)の距離を目測してみた。

 病院までは上り坂で約百メートル、正門までは十メートルほどだ。(あっ)(とう)(てき)に正門のほうが近い。民家か交番を探すことに決めると、彼は、さっそく正門へとその歩を進め始めた。

 ところが、

「あれ?」

 正門から一歩を()み出そうとしたところで、サンゴはその足を引っこめた。

 門を境に、こちら側と向こう側で明らかに様子が違ったのである。

 様子の違いは、正確には明るさの違いにあった。こちら側は地面を月明かりが照らしているのに対し、向こう側にはそれがない。真っ暗闇だったのである。

 まるで、この世とあの世とを(へだ)てる見えない(かべ)があるみたいだ。そうサンゴは感じた。

 つまりは、こちら側にいれば“生”で、向こう側に行けば“死”、である。

 「行く先で何があろうとも決して逃げるな。逃げ出せば即刻この場へと戻され、それは、同時に死刑を意味することになる」サンゴの脳裏に、そんなレオの言葉がよみがえる。

 ひょっとして、この病院の敷地から出た時点で、逃げ出したとみなされるのだろうか?

 ふと浮かんだ推測を確かめようと、サンゴは、右手を正門の向こうにそっと差し出してみた。

 答えは、すぐに結果となって表れた。彼の手首から先が、闇に()けこむように消えてしまったのである。

 恐らく、消えた手首の行き先は、動物達のいるあの教室だ。

 サンゴが右手を引き戻すと、消えていた手首も元に戻った。

「……おや?」

 手の平が何となく黒くなっているように感じ、彼がそれを見つめる。

 そこには、油性のマジックで大きく“先に行け!”と記されていた。

 「これは、レオ君からのメッセージだ」何の(こん)(きょ)もないのだが、サンゴはそう思った。同時に、急に心が温かくなっていくのを感じる。

 “先に行け!”というのは、きっと“あそこに行け”という意味だろう。

 正門に背を向けると、サンゴは、坂の上にある“又田病院”に目をやった。

 そして、決意を固めるように右手を一度ぎゅっと握り締めると、彼は、アスファルトの通路を歩き出したのだった。

 ご訪問、ありがとうございました。

 次回更新は、8月11日(金)を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ