第一章 『被告人サンゴの裁判』④
高い位置から降り注ぐ日の光。時刻は、午後二時ごろであろうか。淡く陽炎の立つのも見える。
拝殿の近くの日陰に座りこみ、折れた木の枝で地面に何やら絵を描いているサンゴ。そこに、六人の小学生がやってきた。全員が男の子。サンゴの同級生である。
「お、サンゴもきてたのか。何してるんだ?」
六人の中で一番体格のよい少年がそうたずねると、サンゴは、やけに慌てた様子で答えた。
「あ、マサヤ君。う、うん。えっと、……絵、描いてる」
「絵かぁ。俺、図工苦手なんだよな。まぁ、いいや。俺達さ、これからかくれんぼやろうと思ってるんだ。絵を描くのに飽きたら、お前も一緒にやろうぜ」
「う、うん。ありがとう」
一瞬、サンゴはうれしそうに微笑んだ。
「じゃあさ、いつでもいいから声をかけてくれよ」
そう言うとマサヤは、五人の待つほうへと走り去った。
「もういいかい?」、「まあだだよ」、「もういいかい?」、「もういいよ」六人の少年達がかくれんぼを始める。
サンゴは、右手に折れた木の枝を握り締めたまま、ただうらやましそうにそれを見つめていた。
「ここから先はあまり変化がありませんので、飛ばしますね」
コーリーが早送りボタンを押す。
目にも留まらぬ速さで動き始める少年達と、その場からまったく動かないサンゴ。
あっという間に時は流れて、夕方。子供達は家に帰る時刻となった。
「じゃあな、また遊ぼうぜ」
六人の少年達が、それぞれの家へと帰って行く。
結局、サンゴは、拝殿の近くの定位置から一歩も動くことなく、最後までかくれんぼを見つめ続けた。
やがて境内から少年達の姿はなくなり、サンゴも家路に就こうと動き出す。
すると、
「おーい! サンゴ!」
鳥居の先から大きく手をふって、マサヤが走ってきた。どうやら、一度家に帰ろうとしたのに、わざわざ戻ってきたようだ。
名を呼ばれたにもかかわらず、まごまごしているだけのサンゴ。
そんな彼の前に立ち、マサヤは言った。
「サンゴ。お前さ、俺達がかくれんぼしてるの、ずっと見てただろ? 絵は全然描いてなかったし。それなのに、どうして一緒に遊ばないんだよ?」
「……ごめん」
「ごめん、って何だよ。それって、俺達と一緒に遊ぶのが嫌だってことか?」
マサヤが少し怒った声になる。
サンゴは、大慌てで首を横にふった。
「違う。そうじゃないよ」
「じゃあ、どういうことだよ」
「そ、それは……」
サンゴは言葉に詰まった。
「まぁ、いいや。とにかく、俺達を嫌ってるとか避けてるとか、そんなんじゃないんだな?」
「もちろんだよ」
これだけは誤解されたくないと、サンゴは何度もうなずいて見せた。
「そうか。それを聞いて安心したよ。じゃあさ、次にここでかくれんぼをやる時は、お前も参加しろよな」
「うん」
再びサンゴがうなずく。
マサヤは、真剣な顔をして続けた。
「実はさ、俺、前からお前のこと気になってたんだ。だって、お前、転校してきてからずっと独りで、寂しそうだったから」
「あの、……心配してくれて、ありがとう」
サンゴはぺこりと頭を下げた。
「いや、礼を言われるほどのことじゃないよ。俺はただ、独りでいるより皆といたほうが楽しいだろうと思っただけで。まぁ、お節介かもしれないけど……」
「ううん、そんなことないよ。ありがとう」
「そうか。じゃあ、次に会った時には約束だぞ。かくれんぼ」
「うん、約束する」
「よし。じゃあ、また今度な、サンゴ」
最後にうれしそうな笑顔を見せると、マサヤは、鳥居のほうへと元気に走って行った。
「うん、また今度」
サンゴが小さく手をふる。その顔は、この街に越してきてから一番の笑みであふれていた。
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