終章 『床下の少女』
終章 『床下の少女』
八月、盛夏。
「もういいよ」
その声を耳に入れ、神社の境内を、風を切ってかけるひとりの少年。
少年は、鳥居の裏にかくれる友達を見つけ、木の陰にかくれる友達を見つけ、瞬く間に五人の友達を見つけ出した。
ひとりの友達が、少年にたずねる。
「サンゴ。お前、見つけるの早すぎだよ。何かさがすコツでもあるのか?」
「うん、あるよ。教えてあげる。……あ、でも先にマサヤ君を見つけないといけないから、それが終わったらね」
そう答えるとサンゴは、拝殿の裏へと走って行った。
本殿の近くを、足音に気をつけながら慎重に歩く。
すると、
「いくらかくれんぼが得意なサンゴでも、ここはさがさないだろう。俺の勝ちだな」
そんなつぶやきが、本殿の中から微かに聞こえてきた。
そっと扉へと近づき、サンゴがそれを開ける。
「え、嘘だろ?」
がっかりとするマサヤに、彼は告げた。
「マサヤ君、見ぃつけた」
「あーあ、せっかくいいかくれ場所を見つけたと思ったのに、ここも駄目か。それにしても、サンゴって本当にすごいよな」
マサヤがしきりに感心する。
「いや、そんなことないよ」
そう答え、笑顔を見せたその時、サンゴはマサヤの後ろにあるべき物がないことに気がついた。
「ねぇ、マサヤ君。この部屋に、木でできた女の子の像はなかった?」
「いいや、何もなかったぞ」
マサヤが首をふる。
それを聞くや否や、サンゴは本殿を飛び出した。
君がかくれんぼをするのなら、僕はそれを見つけ出す。
きっとさがし出して見せる。
だって、君は僕の大切な……。
サンゴは、拝殿へとかけ戻った。そのままの勢いで、賽銭箱の左側、高さ六十センチメートルほどの床下のすき間を覗きこむ。
そこに、少女はいた。長い黒髪に大きな瞳、赤い靴をはいた少女が。
「きちゃった。サンゴ君のあの言葉、どうしても直接聞きたくて」
少女がはにかむような笑みをサンゴに向ける。
小さくうなずき、サンゴは言った。
「僕の大好きなリンゴ、見ぃつけた」
ご訪問、ありがとうございました。直井 倖之進です。
『かくれんぼ』、これにて完結です。
小説家になろうさんに置かせていただいている作品も、9作となりました。
更新が3日に一度となり、前回内容が途切れがちに。そんなことがあったやも知れませんが、それでも、投稿すればどなたかが読みにきてくださる。本当に、ありがたく感じております。
全投稿を終えた最後の場にて恐縮ですが、深く厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。
『かくれんぼ』のみならず、他の8作にしてもそうなのですが、拙作はそれぞれ、ジャンルも違えば、文章表現も違います。
そのため、読者の皆さんにとって、合う、合わないが、顕著に出ているのではないかと思います。
並べた拙作の中のどれかひとつでも、「まぁ、いいんじゃない」との感想を抱いていただけるものがあるのでしたら幸いです。
それでは、以下、次作のご案内です。
本日9月22日は、Seesaaさんで続けておりますブログ、『不惑+1 直井 倖之進の日常』を始めてからちょうど1年となる節目の日に当たります(場所は、http://yukinoshinnichijyou.seesaa.net/ です)。
そこで、日々ブログを訪問くださっている方々への感謝の気持ちを込めまして、こちら小説家になろうさんにて、これも節目となる10作目を捧げたいと思っております。
タイトルは、『春空を舞うライの鳥のように』です。
原稿用紙60枚ほどの短い作品。3度に分けて更新しようと考えておりますが、ブログ1周年記念のため、本日中に全ての投稿を完了する予定です。
普段はブログを訪問なさっていない皆さんも、よろしければ、お目を通していただければと思っております。
それでは、10作目『春空を舞うライの鳥のように』で再会叶いますよう祈りつつ、今回はこれで、失礼いたします。




