表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かくれんぼ  作者: 直井 倖之進
21/23

第三章 『“なかよし動物園”でかくれんぼ』⑦

 教室に元どおり動物達が戻った。サンゴとリンゴも一緒である。

 突然人間の言葉を奪われ、動物園の檻や柵の中に入れられた動物達は、ある者は泣き、ある者は怒り、それはそれは大変な騒ぎになっていた。

 その怒っている側の一匹、ミケコが、ラビ先生に言った。

「先生、ひどいと思います。私達に何も教えてくれずに、あんなことをするなんて」

 だが、ラビ先生はひょうひょうとして答える。

「まぁ、いいじゃないの。サンゴ君とリンゴちゃんのお陰で、こうして無事に帰ってこられたんだから」

「でも……」

「いいからいいから。それより、サンゴ君の裁判の判決、皆に意見を聞かなくていいの?」

「聞きますよ! 聞けばいいんでしょ、聞けば!」

 まだ怒り(しず)まらぬ様子でそう返事をするとミケコは、教室の動物達へと体を向け直し、裁判官の仕事を再開した。

「それでは、最後の判決です。私は絶対に反対なのですが、サンゴ君の死刑に反対の方は、挙手をお願いします」

 結果は、言うまでもなかった。

 ミケコとコーリーまでも含めた三十二の動物達全員が、手を挙げたのである。

「皆、……ありがとう」

 サンゴが、動物達に頭を下げる。

 そこに声をかけたのは、検察官のコーリーだった。

「サンゴ君。お礼を言わないといけないのは、僕達のほうですよ。貴方の勇気に、僕達は助けられたのですから。本当に、感謝しています」

 差し出されるコーリーの手とサンゴは握手を交わした。

 鳴りやまぬ(はく)(しゅ)と歓声の中、ミケコが告げる。

「判決を言い渡します。被告人、青井サンゴは無罪! 以上、閉廷します!」

 こうして、摩訶不思議な世界でのサンゴの裁判は終わった。


 晴れて無罪となったサンゴが、教室の机の間を通り、タイガの前に立つ。

「あの、タイガ君……」

 そう何かを告げようとするサンゴを、大きな肉球のついた手で制し、タイガは言った。

「礼ならいらねぇぞ。俺も、お前に助けられたんだからな。それより、動物園の檻の中でお前の話は聞いてた。まぁ、俺みたいになるのは無理でも、それなりの男にはなれるかも知れねぇな」

「うん、がんばるよ」

 にやりと笑うタイガにそう答えると、サンゴは、廊下側の席へと足を向けた。

 レオの(そば)へと行くと、動物園での約束どおり彼は伝えた。

「レオ君、最初から最後まで、本当にありがとう」

 それに小さくうなずいて見せ、レオは口を開いた。

「サンゴ。もうお前は大丈夫だ。教室を出れば、元の世界に戻ることができる。だが、挨拶をしておかないといけない者には、最後にきちんとそれをすませてから出発するんだ。忘れるな」

「うん、分かったよ」

 そう返事をし、サンゴはレオに別れを告げた。

 レオが言った「挨拶をしておかないといけない者」のこと。それは、彼にも分かっていた。

 サンゴは、ラビ先生の前に立った。

「あれ? どうしたの? サンゴ君は、もう元の世界に帰っていいのよ」

 相変わらずの優しい口調で、彼女は話す。

「それが、最後に先生にどうしても伝えておかないといけないことがあって」

「へぇ、何かしら?」

 ラビ先生は、きょとんとした顔をサンゴに向けた。

「先生が、動物達を動物園に移し言葉を奪ったのは、裁判を終わらせるためだったんでしょう?」

「あら、どうしてそう思うの?」

「謎となる部分が、“又田病院”の時と比べて簡単だったんです。まるでそれは、かくれんぼだと言いながら、見つけられるのを望んでいるかのように」

 くすりと笑って、彼女は答えた。

「私は、別に易しくしたつもりはないわよ。だけど、もし、サンゴ君がそう思ったのならば、それは、その時点で君に十分な勇気が備わっていた証。そう、それこそ、裁判なんてする必要がないほどのね。まぁ、私は裁判には参加できないし、こうするしかなかったというのは事実だけど」

「でも、そのせいで、先生が悪者になってしまいました。すみません」

「何を言ってるの。先生というのはね、子供達が“大切なこと”に気づこうとしている時には、悪者にだってなる必要があるの。そして、その中で、今回の彼らは“助け合いの心”を学んだわ。全ては、サンゴのお陰よ」

「そんな、僕は何も……」

 首をふるサンゴの前でラビ先生は、自分の口元に手を当てて続けた。

「あ、でも、このことは、みんなには内緒よ。子供達を知らないうちに学ばせる、気づかないうちに成長させる。それが、教師のやるべき本当の仕事なんだから」

「はい」

「それでは、もう行きなさい。貴方のいる場所はここじゃないわ。元の世界に戻って、たくさんの友達を作って、たくさん遊ぶの。もう二度と、ここにこなくてもいいようにね」

「はい。……さようなら」

「元気でね、さようなら」

 手をふるラビ先生に背を向けると、サンゴはリンゴに向かって言った。

「リンゴ、帰るよ。元の世界に帰るんだ」

「う、……うん」

 ミケコと話をしていたリンゴが、少しためらいがちにそう返事をする。彼女も、教室の皆との別れが惜しいのだろう。

 「それは僕だって同じだ。でも、帰らないと」そう自分に言い聞かせ、サンゴは教室の引き戸へと歩いた。

 それに気づいたリンゴが、急ぎ足で彼の隣に並ぶ。

「ねぇ、ミケコちゃんと何の話をしていたの?」

 そうサンゴが問うと、リンゴは、

「私の態度は大きくない、って怒られてた」

 と、つぶやくようにそう答えた。

 「ミケコちゃん、意外と根に持つタイプだったんだな」そんなことを考えるサンゴに、今度はリンゴがたずねた。

「ねぇ、サンゴ君。私のこと、好き?」

「え? あ、あの、それは……」

 あまりにもいきなりでストレートな質問に、サンゴは大きく動揺した。

 もちろん、答えは頭の中に浮かんでいる。

 だが、大勢の動物達の前でそれを告げるのが恥ずかしかった彼は、

「その返事は、元の世界に帰ってからするよ」

 と、何とかその場をごまかした。

「そう。じゃあ、お願いね」

 いつもの澄んだ瞳でリンゴが微笑む。

「うん。約束するよ」

 サンゴは、彼女の手を取り、指切りをした。

 それからそっとその手を離し、ゆっくりと引き戸を開く。

 二人の前に、あの真っ暗な空間が現れた。

 「サンゴ、向こうの世界でもしっかりな」、「助けてくれてありがとう、サンゴ」彼を見送る動物達の声が、教室のあちこちから聞こえてくる。

 それに笑顔で応え、サンゴは、

「行くよ。リンゴ」

 とひと声かけてから、暗闇へとその身を飛びこませた。

 ところが、

「ど、どうして……」

 落ちゆく体を反転させながら、サンゴが教室の引き戸を見上げる。

 そこには、こちらへと向かって大きく手をふるリンゴの姿があった。

 ご訪問、ありがとうございました。

 次回更新は、9月19日(火)を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ