004話 ステータス
ステータスを確認した瞬間、零畏の動きが止まった。いや、よく見ればその頬がピクピクと引き攣っているのが分かる。
どうかしたのかと、四人は零畏がこうなった原因である手元のステータスを覗いた。
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レイ・イザヨイ 16歳 男 レベル:1
職業:呪者
筋力:F
体力:F
耐久:F
敏捷:F
魔力:F
魔耐:F
能力:呪福・全耐性・言解・パンドラの函
派生・発展能力:
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ステータスを見たアルフレードは顔を険しくさせ、ステータスの値が低い事にショックを受けていると思ったリア達三人が、一生懸命零畏を励まそうとしている。
「......ステータスについて説明して下さい......」
「......分かった」
かなり気落ちした零畏の声だが、元々どこか諦めた様な雰囲気があった為、それがより顕著になっただけとも捉えられる。アルフレードはそんな零畏の状態を見て、隠すよりは全て教える方が得策だと考えて零畏にこの世界のステータスに対する認識などを教えた。
この世界でのステータスは身分証の役割を果たす為、一般人でも手に入れることが出来る。ステータスを紛失した場合には、冒険者ギルドで再発行することもできる。
ステータスの表示で、職業とはその人の潜在的才能の様な物で、ステータス値は最低がG-で、人間の平均がF。そして能力は本人が持っている才能の事でこれ以上増えることは無いが、派生して元の能力に関連する別の能力が発現したり、発展して元の能力の上位能力が発現することがある。
そして能力の数は基本的に一から二個。派生・発展能力を発現させることが出来る者は騎士団や冒険者など、普段から戦いに身を置いた者や、生産系の能力を持っている者に多くいる。要するに、派生・発展能力を発現させるにはかなりの努力が必要だという事だ。
「......そして、召喚された者達は総じて戦闘職を持っていると言われてるんだが......」
「......明らかに、非戦闘どころか、忌子扱いされますよね。これ」
意気消沈どころか殆ど感情の窺えない声音で返事をする零畏。もし前髪が短ければ、ハイライトの消えた瞳が見れたことだろう。
だがそこは零畏。さっさと立ち直り、リア達のステータスはどうかと聞いた。
「私達はまだ貰っていません」
「ああ、この後の訓練の前に渡そうと思ってな」
「じゃあこれから訓練に行くんですか?」
「ああ、そうなるな」
「それなら僕も行きます」
「大丈夫なのか?」
「はい」
零畏はそう言ってベッドから降りて立ち上がり、四人に対して行きましょうと促した。そしてその足元に当然の様にシャタアルが歩いてくる。
アルフレードは頭を掻くと、零畏より先に部屋を出て、リア達は零畏と一緒に部屋を出た。勿論シャタアルは零畏の足元を歩いている。
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それから、訓練という名の座学が始まった。
零畏のクラスメイト全員が席に着くと、アルフレードが自己紹介をした。その際、零畏も聞いていなかったアルフレードの本音を聞いたが、本人は嬉し気に豪快に笑っていた為そこまで気にする人もいなかった。
また、訓練は騎士団長自らが付きっ切りで行う事も聞いていなかった為若干驚いたが、対外的にも対内的にも世界を救う勇者一行を半端な者に預ける訳にはいかないと考えれば納得できた。
アルフレードの自己紹介が終わると、零畏以外の全員に縦八センチ、横九センチ程の銀色のカード、ステータスプレートが配られた。
アルフレードが零畏を除く全員にステータスプレートが行き渡ったのを確認すると、部屋で零畏にした様な説明をした。
説明が終わる頃にはほぼ全員、特に男子陣の目がキラキラとしたエフェクトが幻視出来るほど輝かせ、興奮していた。が、一部の男子は零畏に向けて蔑む様な視線と嘲る様な笑みを誰にも気づかれない様にしながら向けていた。
当然の様に零畏の傍で丸くなっているシャタアルと零畏本人は気付いていたが、二人(?)共気にしていない。いや、零畏は現実逃避気味にシャタアルを撫でている。実はシャタアルが動かなかったのも、この零畏によるナデナデが原因だったりする。
そんな事をしている内にアルフレードによる説明が終わり、零畏以外の全員に針が渡された。
「その針を使ってステータスプレートの“魔法陣”に血を垂らしてくれ」
全員針を取り、指先にチクッと針を刺し、その痛みに若干表情を歪めながらステータスプレートの“魔法陣”に血を垂らした。
「よし。垂らしたな。今から確認するから、全員見せてくれ!」
本当に表示されたステータスに全員が興奮している中、アルフレードの声が響き、順番に皆が順番に見せて行った。
「おお~。流石勇者様だな。レベル1でこれか。能力の数も......ここまで規格外だと頼りがいがあるな!」
「い、いや~、あはは......」
アルフレードとそんな会話をしているのは神楽坂天樹だ。そんな会話が出来る彼のステータスは、
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アマキ・カグラザカ 16歳 男 レベル1
職業:勇者
筋力:C
体力:C
耐久:C
敏捷:C
魔力:C
魔耐:C
能力:全属性適正・全属性耐性・物理耐性・魔法攻撃耐性・複合魔法・剣術・
剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配察知・魔力感知・頑強・感覚強化・
詠唱省略・限界突破
派生・発展能力:
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勇者になっているとは思っていても、本当に勇者であり、更にこれだけの才能がある事には全員が驚き、流石天樹と口々に言う。本人は照れているが、満更でもない様な表情をしており若干浮かれている事が分かる。
(なんて理不尽......)
零畏がそんな事を内心で愚痴っていると、一人の男子生徒が声を上げた。
「そおいやよぉ零畏ぃ~。お前はどうだったんだぁ~?」
嘲笑交じりの声で零畏のステータスがどうだったのか聞くのは、青山泰我と言い、日本にいた時も零畏の事を呼び出しては暴力を振るったりする虐めの主犯格である。
そんな泰我の発言に、零畏を虐めていた男子達はステータスを見せろとせがんで来る。
零畏は仕方なくポケットからステータスプレートを取り出すと泰我に渡した。泰我はひったくる様にステータスプレートを奪うと、そこに表示されたステータスを見て大爆笑し、周りの男子達へと渡していく。
蔑みと嘲りの混ざった男子の笑い声が響く。
アルフレードは顔を顰め、リア、リナ、篠の三人は男子達を止めようと声を上げようとした。だが、それより先にシャタアルが動いた。
「グルァウ!!」
一メートル程の大きさになったシャタアルが威嚇を含んだ声音で一声、一括する様に吼えた。
それだけで笑っていた男子は黙り、零畏にステータスプレートを返してから席に着いた。
その様子を見ていたシャタアルは満足気に一声唸ると、体の大きさを元に戻して零畏の傍で丸まった。零畏は感謝を込めてその背中を撫でる。
「あ~、取り敢えず次は武器を選ぶからな。そこで自分に合う武器を選べ」
そう言ってアルフレードは皆を立たせ、座学をしていた部屋から出る。その後を追う様に全員が部屋から出る。
零畏は皆から少し離れて歩き、その足元にシャタアルが歩いている。
「......はぁ」
零畏は誰にも気づかれない様に小さく溜息を吐き、癖になりかけている現実逃避をし始めた。これから起こる事をなるべく考えない様にして、再び小さく溜息を吐いた。