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018話 盗賊

「あっぢぃー!」


 そう言って森の広場の真ん中に大の字になって寝転んでいるルイス。暑いのなら木陰に入れよと言いたいが、今のルイスにそこまで考える思考力は無い。


 この広場にはルイスの他に、アマル、ユーリ、アンナ、セリア、ジーナ、クリスと何時もの面子が集合している。と言っても、ルイスを除いて全員木の下の影に入っているが。


 アマルを除いて皆ノびてしまっているこの状況で遊ぶ気力も無い。森は風がある為幾分涼しいとは言え、暑いモノは暑いのだ。それを分かっているアマルは一つ溜息を吐いて、ボソッと小さく、されどルイス以外には聞こえる様に呟いた。


「......川に行けば少しは涼しくなるだろうな」


 明らかに他者に聞かせるための口調なのだが、それに気付かないのは子供だからか。真っ先に反応したのはジーナだった。飛び起きると何時もの如く、天真爛漫なジーナは声高に主張した。


「ジーナも行きたい! 川で遊びたい!」


 それに釣られる様にしてユーリ、アンナ、セリア、クリスもそれぞれ同意した。


「僕も川にいって遊びたいな。今日はあついから川はきもちいと思うんだ」

「ボクもいきたい。兄ちゃんもいくと思うから」

「わたしも行きたいな。アンナはどうするの?」

「アタシはいかないわよ。で、でも、どーしても、どーーしてもっていうならいってあげてもいいわよ」


 そうやって五人が騒ぎ始めてやっとルイスが気付き、騒がしく駆け寄って来た。


「おい! 何楽しそうにしてるんだよ! おれにもおしえろ!」

「ルイスおにいちゃん! アマルおにいちゃんがね! ジーナたちを川に連れてってくれるんだって!」

「ズルいぞアマル! おれも行くからな! キャッカってゆうのをされても行くからな!」


 『キャッカではなく却下だ』とか『ゆうではなく言うだ』とか訂正したくなるが、それは無駄だと分かっている。時間が矯正してくれる事を期待するしかない。


 アマルの瞳が完全に冷え切って据わってしまっているのだが、誰もそれには気付かない。そうなった瞬間に仮面をつけなおす。ヒトの意識に確実に存在するスキマ。それを見切る事が出来ればこんな事をせずに済むのにと考えて、思考を変える。何時かは出来た事、いずれ出来る様になる。


 それから、騒々しくしながら川へ向かい丁度真昼となった頃に村に戻った。アマルは濡れていなかったが、他の六人が全身びしょ濡れになっていた事にそれぞれの親は驚いていたが、特に叱るなどの事はしなかった。


 アマルは一人家に戻り、何時も座ったり丸まったりしている場所の床板を外し、土を掘り返す。深さにして十センチ程なので少し大変な筈なのだが、アマルは軽々と掘り終え、その穴の中から土の付いた革袋を取り出した。


 袋の中には銅貨が二十三枚入っている。それを確かめたアマルは土と板を元に戻し、神出鬼没・魔力支配・修復・破壊を発動させた。


 これらをしたのは夜まで待つ為だ。夜、村の者が寝静まった時に離れる。子供達を川に連れて行ったのはさっさと眠りに就く様にだ。まあ、無駄かも知れないが。


 今は一時を廻った所だ。大雑把に見積もっても後九時間は皆起きているだろう。九時間とは相当に時間があるが、問題ない。時間になるまでこの村を離れる際の計画を練ることが出来る。


 怪しい? 違和感ある? 不自然? そんなものどうとでもなる!! と言う勢いと心構えがあれば本当にどうとでもなる。


 ......何て事があれば楽だなとか思いつつ仮面(ペルソナ)を発動させ、隅の方で壁に背を預け寝ている様に見せかける。それは幻影が如くそこに視えていると言う錯覚。一括りに言ってしまえば欺瞞。見破りたければそれ相応の『眼』を持たなければいけない。


 それはそうと、アマルは夜には戻って来るつもりで『欺瞞体(ディセプションボディ)』とも言えるモノを設置し、家を出た。


 そして向かうのは『不帰の森』や『迷いの森』と呼ばれる森である。今では技術を高める為の反復特訓場と化してしまっているが、ヒトを基準としてアマルを見る事自体間違っているのだ。




――――――――――




 夜十時頃。家に戻り気配と魔力を探ると、案の定皆寝静まっていた。それだけならよかっただろう。だが、アマルの能力(スキル)はそこまで甘くない。アマル自身も、いや、能力(スキル)よりも尚強力なのだ。


 『感覚』を頼りに、神出鬼没による感知範囲を更に広げる。そして捉えたのは五十四名の盗賊。人数としては村の総人口の半分といった程度だが、質は盗賊の方が上。どう見ようとも盗賊が有利なのだ。このままでは村は壊滅してしまう。


 だからと言って助けるかと言えば否だ。唯一六人の子供達を助けようと思うだけである。それも、『子供だから助ける』のだ......勘違いしてはいけないが、アマルは別に特殊な性癖がある訳では無い。


 あくまで『純粋だから』。即ち『先入観から来る偏見による排除』をする可能性が最も低いからである。


 そう決めて、アマルは行動を開始する。極めて簡単な事をする為に。


 その空には三日月より尚細く、視認する事が難しい程細い月が村を見下ろしていた。それはさながら、これから起こる事に対し、薄く、冷たく微笑んでいるかの如く。




――――――――――




 村内は正に阿鼻叫喚。ある家は燃やされ、ある家は破壊され、又ある家は血の匂いで溢れ返っていた。更に、村の若い女達は一か所に集められ拘束され、老人と男は殺される。


 村の自警団の一部と狩人であるアルトとアルドは六人の子供を連れ、あの森の広場まで逃げていた。ほとぼりが冷めるまでこの場所に居るつもりなのだ。


 緊張感で場の空気がピリピリとしている中、小さく震えた声でルイスが聞いた。顔は青を通り越して白くなっており、全身が小刻みに震えて、今にもしゃがみ込んで泣き出しそうである。


「な、なあ......と、父ちゃんと......母ちゃんは、村の皆は............どうなったんだよ......?」

「......」


 その場に居た大人は全員怒気を発しながら黙り、子供達もその雰囲気に呑まれて黙ってしまう。泣く事も出来ない程重い空気のままその場に居る事数分。


「いやっはぁあー!!」

「ひゃははは!! こーんな所で何してんだよぉ!!」

「おらおらぁ!! オレ達も混ぜやがれぇ!!」


 三人の盗賊が大声を上げながら村の方向から走って来た。恐らくお預けを喰らい、暇になって森に来たら逃げて来た者達を見つけ、襲い掛かって来ているのだろう。迷惑極まりない。


「お前達、さっさと森の奥へ逃げろ!!」

「そうだ!! こいつ等は俺達が食い止めておく!!」

「ガキを守るのも自警団の務め!! 容赦しないぞ賊共!!」

「オレは狩人だ!! 森の中でオレに勝てると思うなよ!!」

「ほらお前等!! 俺達が抑えてる間にさっさと行け!!」


 大人達は怒鳴りながら子供達に逃げる様に促すが、当の子供達は動かない。否、動けない。恐怖で竦み上がり体が動かないのだ。


「ガアアアッ!!」

「ひゃははは!! テメエ等がおれ等に勝てる訳ねえだろぉが!!」


 動かない内に自警団の者が一人、また一人と殺されていく。それを目の前で見せつけられた子供達は徐々に後退り始めた。漸く動けるようになったのだ。それを見て、アルドが怒鳴りつけた。


「さっさと逃げやがれガキ共!! 死にてぇのか!!」


 その言葉を火切りに子供達は泣き声とも叫び声ともつかない声を上げながら、森の奥の方へ駆けて行った。


 それを見届けた大人達もまた、自身を鼓舞する為に雄叫びを上げながら盗賊に向かっていく。


「ひゃははは!!」

「おらおらぁ!! オレ達と遊ぼうぜぇ!!」

「いやっはぁあー!!」


 たった数分で、その広場には血の匂いが強く漂い、死体が散乱する場へと変化した。




――――――――――




 走る。走る。唯只管(ひたすら)に走る。その最中、何度も何度も村が盗賊に襲われた時の光景がフラッシュバックする。


 ルイスが先頭になり走る。六人の子供達の中で最も足が速く体力がある為に、自然とこうなっただけではあるが。


 恐怖のあまり脳が麻痺して叫ぶ事も泣く事も無いのは不幸中の幸いだろう。余計な体力を使わずに済む。


 何分走り続けたのか。頭の中が真っ白になり、体が限界に近付いた時、背後から声が聞こえた。


「ひゃっはぁあー!!」

「おらおらぁ!! 何処だガキ共ぉ!!」

「ひゃははは!! おれ等から逃げられると思うなよぉ!!」


 明らかに先程の盗賊の声である。それを聞いた途端、体の疲れも忘れて叫びながら、無我夢中で走り始めた。


 極限状態の人の力はたかが子供だと舐められない程である。全身にかなりの負荷が掛かるとは言え、疑似限界突破状態と言えるだろう。


 そのままま走り続け、気付いた時には川に居た。もう何処の川なのかすら皆目見当もつかない。盗賊の声が聞こえてからの記憶も全く無い。気付いたら此処に居たのだ。


 そう認識した瞬間、フッと身体から力が抜けて視界が暗転し、そのまま気を失った。

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