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014話 別れ

何故か短くなるのですが、どうしましょうか。

 子供の目の前に居る女性は白髪金眼の妙齢な見た目で、スイカの如く立派なモノを持っている。白色の着物を着て、愛おし気に目を細めて優く柔らかく微笑みながら子供を見ている。


 零畏と話している間は殆ど表情を変えていなかった子供は、驚愕に目を見開き言葉を失っている。


 と、その時、不意に女性が口を開いた。


「本当に久しぶりね。私が誰か......分かる?」

「分からない筈、無いだろう......母さん......」


 呆然とした様子で、それでも口にした言葉で漸く実感した。目の前に居る女性が、自分の母親だと、漸く理解することが出来た。


 それでも、涙は出てこない。だが、感動はしていた。出来ていた。それが嬉しくて笑みを浮かべる子供。そんな子供を見て、女性は悲し気にその整った眉を歪めた。


「ごめんね。アマル。私が、私達が守れなかったから、こんな......ごめんね。ごめんねっ」

「母さん......違う。俺が弱かったからこんな姿になったんだ。何も母さんが謝る事は無いんだ」


 泣きそうな、実際目尻に涙を溜めた女性は子供の事をアマルと呼び、抱き着きながら何度も謝る。だが、アマルは極力優しく聞こえるような声音にしながら否定する。


 それでも謝る母親に何と声を掛けたらいいのか分からず、数分間困惑したまま抱き着かれていた。


 落ち着いた女性はゆっくりと身を離して、優し気な垂れ目に真剣さを宿してアマルに対して口を開く。事の本題を、アマルに会いに来た理由を話そうと。


「アマル。お願いがあるの」

「母さんが......?」

「この世界を助けて。貴方が、アマルが『ヒト』を嫌っているのは分かるけど、『ヒト』を助けて欲しいんじゃないの。この世界を、アマルと私達の思い出の詰まった世界を救って欲しいの」

「俺が、世界を救う? 滅ぶのか? あの『負』は俺がパンドラの函を開けたから発生しただけで、他に問題は無い筈だ」


 困惑したまま確かめる様な声音で言うアマルに、女性はゆっくりとかぶりを振った。


「神が、アマル達を呼んだ神が世界を滅ぼそうとしているの」

「神......?」

「そう。私は死んでからもお父さんの力を借りて魂を留めておいたの。私達が死んでからアマルが何をしてたかは分からないけど、アマルが倒された後から神って名乗る者が現れたの。神託を下して世界をあっという間に手中に収めた神。名前が......」

「マルヴェランス」

「......知ってたの?」

「違和感があったから覚えていただけだ」

「......なら、言いたい事は分かる?」


 アマルは女性から目を逸らした。雰囲気からも感情が読み取れず、無表情で瞳からも何を考えているのか分からない。だから、女性はアマルが唯一助けるだろう事を言った。


「竜人族」


 その言葉に逸らした目がほんの少し揺れた。


「私達、アストラル族は滅びたけど、他の一族は隠れているわよ。もし、世界が滅んだらその竜人達も――」

「助けてやる」


 女性の言葉を遮る様にアマルは口を開いた。無表情だが、瞳に強い光を宿している。


「母さんの頼みを(ないがし)ろには出来ないからな」


 変にツンデレったアマルに女性は堪らず噴き出した。そんな女性から顔を逸らした。


「じゃあ、アマルがレイとして死んだ日から十三年前に飛ばすわ」

「そんなことが出来るのか?」

「私の魂を使えば可能よ」


 それを聞いたアマルは雰囲気を変えて却下した。


「レイが死んだ日に俺を飛ばせばいいだろう。何も母さんが魂を削る必要は無い」

「......ありがとう。アマル。でも、今のアマルを戻せば、殺されてしまう。力を失った今のアマルでは、何も救えないわ」

「だがっ!」


 尚反論しようとするアマルに、女性は人差し指をアマルの唇に当て、優しく微笑んだ。


「アマル。これは私が、レンカ・アストラルとして決めた事よ。竜人族の誇りにかけて、枉げられないわ」


 アマルはそれ以上何か言う事は無かった。レンカの決意が宿った眼を見た事も原因ではあるが、竜人族の誇りと言われれば、アマルには何も言う事は出来なかった。


「......やるわよ。アマル」

「......好きにしろ......」


 不貞腐れた様に顔を逸らしたアマルに、心の中でごめんねと謝りながら魔法を発動するレンカ。


「アマル。貴方の『力』は神聖国レリギオンと魔国エクスピシオン、デファンス亜国にあるわ」

「......そうか」


 雰囲気が冷たいモノへと変わり、瞳に黒い光を宿しながら呟く。そんなアマルの様子に困った様な笑みを浮かべながらレンカが言った。


「アマル。あの時は言えなかったから、今言うわね。さようなら」

「......母さん」


 ほんの少し目を見開いて、どう反応すればいいのか分からないと言う様なアマルに、レンカは笑いかける。


「ほら、笑って! アマル。最後くらい、貴方の笑顔が見たいわ」

「......難しい注文をしてくれる」


 そう言いながらも笑みを浮かべる。そんなアマルを見たレンカは満足気に頷くと、眼に真剣さを宿しながら、アマルを送り出す。


「頼んだわよ。アマル。向こうに行ったら二歳程の見た目になるかもしれないけど、我慢してね。住民に違和感を持たせないようにする為だから」

「分かってる。演技は任せろ」


 二人の体を白い光が包み込んでいく。


「じゃあ、さようなら。アマル。この世界を救ってね」

「言われるまでもない」


 アマルの笑みと言葉にレンカは笑顔を浮かべながら頷いた。


 次の瞬間、二人の視界は白一色となり、空間から消えた。


 後に残った白黒の空間にも罅が入る。それは徐々に大きく増えて行き、音も無く粉々に砕け散った。


「......」


 闇となった空間の中、生気を感じさせない青髪の少女が佇んでいた。







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