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012話 『負』

や......やっと書き終えた......

 通路の入り口を塞いでから走り出し、直ぐに最後尾に追いついた。最後尾を走っていたのは意外な事にリア達の三人だった。リナは兎も角リアと(しの)なら先頭を走っていても十分大丈夫だと思ったが、リナに合わせて走っているのだと考えて近付いて行く。


 リア達に追い付き速度を合わせて走る。前方には騎士団、ルイ、シャタアルが居るので例え魔物が出ても問題ないだろうと判断し、心配気に声を掛けて来るリア達に返事をしながら走っていく。時折前を走っている生徒がチラッと此方を向いたりするが、無視する。


 先頭の方へ意識を向ければ通路の出口が見えた。後方の者達は気付いていない様なので、もうすぐ出口だと声を掛けながら鼓舞(こぶ)する。その時、首筋辺りにピリッとする感覚が走った。生徒が半分通路を出た所だった。


 咄嗟に後ろを振り返ると、通路を埋め尽くしながら濁流の如く迫る(うごめ)く闇の様な影の様なモノが見えた。見えた瞬間、無意識の内に叫んでいた。


「もっと速く走って!! 助かりたかったらもっと速く!!」


 無意識に発動した、放出する魔力によって相手を威圧する能力(スキル)威圧と、それに共鳴するように発動した言解の一部の能力、言葉に魔力を乗せて命令する、又は威圧する魔言により、零畏(レイ)より前を走っていた者達は背筋を震わせ我武者羅(がむしゃら)に走り始めた。


 通路から出た零畏が見たのは奈落に架けられた岩盤で造られた橋だった。舌打ちを堪えながら通路の出口を蹴り壊し塞ぐ。その様子を見ていた者達が、安心しきって堪らず座り込もうとした時、崩れた岩の向こう側からドンッ!! と衝撃音がした。


「速く奥の通路へ向かって!!」


 一瞬で全身を強張らせた皆は零畏が言う前に既に動き始めていた。叫び声を上げながら橋の向こう側に有る通路へ向かって全力疾走を開始した。最早隊列なんて存在しない。だが、混乱する皆を治める者も居る。


「皆!! 落ち着くんだ!! こんなに焦っていたら逃げられなくなるかもしれない!!」

「そうだ!! お前達は今まで何をしてきた!! 此処は戦場だ!! 焦り、混乱し、真面な思考が出来なくなった者から死んでいくぞ!!」


 天樹(あまき)による鼓舞とアルフレードの叱責(しっせき)、更にリナが使用した魔法による精神的な回復もあり、ほんの少し落ち着き、しっかりと隊列を組んで通路に入りそこに有った階段を駆け上がり始めた。


 零畏はリア達の後ろを走りながら通路に入り、振り返る。否。振り替えざるを得なかった。


 ――ドガンッ!!


 爆発した様な凄まじい衝撃音と共に通路の出口を塞いでいた岩が吹き飛ばされた。そして黒いナニカは濁流の如く蠢きながら凄まじい勢いで迫り来る。奈落も橋も関係無しとばかりに空間全てを埋め尽くしながら迫り来るそれ。


 零畏は、もう足止めにすらならないだろうと思いながらも通路の壁を蹴り壊し、走り出した。階段を駆け上がり少しするとドンッ!! と衝撃音が響いて来た。後ろを振り返ると、まだ見える位置には来ていない様だった。


 上を見ればまだまだ上に着かない事が分かった。後方から迫る黒いナニカ、まるで『陰』の様な、否。まるで『負』の様な底抜けに冥いそれ。認識しているだけで己の死が視えてしまいそうになる『負』から逃げ続ける。


 少しして上を見上げると、終わりが見えて来た。先頭は既に止まっている。零畏は後ろを振り返った。そこには音も無く迫っていた『負』があった。


(どうするっ!! そうだ。コレには質量があり実体を持っている。ならっ!!)


「『処撃(しょげき)』!!」


 ――ズドンッ!!


「重いっ!」


 振り返り様に回し蹴りの要領で叩き込んだ蹴りは、凄まじい衝撃音を響かせながら『負』を押し返した。だが、その代償に零畏の蹴りに使った右脚が痺れ、力が入りにくくなった。だが、この時の零畏は気付かなかった。全耐性が巧く発動していない事に。


「「「零畏(さん)!!」」」

「速く行って! ......アルフレードさん!! その魔法陣に触れて!!」


 零畏は魔言を使いながら言った。アルフレードへはパンドラの函の開錠をした時に上昇した聴覚で聞き取った、先頭付近で喚いている男子女子の言葉から推測したものだ。


 零畏の言葉に従ったアルフレードが魔法陣に触れると、その身体が一瞬で消えた。零畏はその様子を聞き取ると、再び魔言を使用して叫んだ。


「皆その魔法陣に触れて!! 早く!!」


 右脚が回復し、走れるようになった零畏はどんどん転移され減っていく皆を追いかけた。後方にはピッタリとくっ付く様に『負』が迫っている。


「そのまま魔法陣に触れて!」


 残りが目の前に居るリア達だけになった時、零畏は振り返る事を許さず魔言を放った。そして、魔法陣に触れた三人は一瞬にして消えた。それを見た零畏は、雰囲気が変わった。


 現在の零畏は体の半分が『負』に飲まれていた。能力(スキル)狂乱の影響で体自体には何ともないが動けないのだ。零畏は優し気な垂れ目を細める。


「持つかな。持てばいいな......さて、吹き飛ばす!!」


 零畏が叫んだと同時、その通路内に圧倒的な光量が発生し、全てを白く照らし染め上げた。




――――――――――




 魔法陣に踏み込んだリア達は浮遊感を一瞬感じた後、視界が変わり転移させられたことが分かった。転移させられた後、バランスを崩して倒れそうになったが、何とか醜態を晒さずに済んだ。


 転移してきた場所は袋小路(ふくろこうじ)状になった場所だった。周囲は『青光石(ブルーライトストーン)』で出来ていた事から、少なくとも先程まで居た階層とは違うのだろう。そこまで行きついて、篠が辺りを見回し始めた。


「どうかしたの? 篠」

「篠さん......?」

「......零畏、は? いない?」


 リアとリナが不思議に思いながら篠に問うと、辺りを見回すのをやめ、魔法陣に視線を固定しながら言った。脊髄反射のレベルで魔法陣に触れようとした三人だが、それはシャタアルとアルフレードによって止められた。


「ッ!! アルフレードさん! 何で止めるんですか!」

「そうです! まだ零畏さんがっ!」

「シャタアルも、そこ、どいてっ」


 魔法陣に触れることが出来ない様に遮っている二人(一体と一人?)に、焦燥をにじませた声音で抗議の様な声を上げる。周りに居る者達は話しを聞き取る余裕はない用だ。力なくへたり込み、荒い息を繰り返している。


「この魔法陣には触らせない。もしお前達がこの魔法陣に触れてあの場所に転移したら――」


 アルフレードが言葉を続けようとした時魔法陣が凄まじい光を発した。一時的に視力を奪う程強力な光。そして、パリーンッ! っとガラスが割れる様な音と共にドサッ! っという鈍い音が響いた。


「「「「零畏(レイ)(さん)!」」」」


 視力が回復した四人の目の前で、零畏は横たわっていた。








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