秘めた心はいつか花開きますように
部室の中が何やら騒がしい。
裕登とベンチ外のメンバーが負け試合のことでもめていた。
「てめぇ火に油注ぐ真似しといてこの態度かよ」
「あと2回勝てば俺たち決勝トーナメントでベンチに入れたのによ」
裕登は黙っていた。
「お前別に打たれたっていいよ、でもあのミス連発はないだろうよ。小学生に笑われるぞ」
「勝てる試合潰しやがって、てめぇふざけんなよ。試合出なかった俺たちの気持ちも分かれよ」
「一応負けの責任投手はお前だからな」
裕登はやっと、声に出した。
「あの」
「は?何があのだよ、文句あんなら言ってみろよ。」
「俺は・・・好きで負けたんじゃない。」
「はぁ?負けといてその態度はありえねーよ、負けの責任はお前以外に誰がいる?」
「お前しかいねぇだろ。俺たちもこの目でお前が投げてる間に負け越しのホームイン間近で見たよ。事実は覆らんねぇんだよ!」
裕登はぼろくそに言われる悲しみよりも怒りと憎しみで相手を殴りたい気持ちになった。
しかし、自身のやせ細った体では到底複数人をやっつけるほどの力はなかった。
そもそも暴力はいけないことだと分かっていた。
「マウンドに立ってなかったくせに、何を偉そうに・・・」
むしろ不敵な笑みを浮かべていた。
「なんだその態度はぁ!」
ベンチ外の1人が裕登の胸ぐらを掴んだ、その瞬間だった。
「坂上・・・大夢・・・」
一連の話は聞こえていた。
「お前ら・・・気持ちわかってねぇだろ」
「は?」
「は?じゃねーだろ!」
小柄な大夢とは思えない程物凄い雄叫びが部室内、グラウンドにも響いた。
「相手の気持ちをわかる前から、わかってもらおうとする奴の神経がわかんねーんだよ!」
裕登は同じマウンドに上がった立場として、安堵したのかふと涙目になった。
「大夢・・・」
大夢は声のトーンを通常営業に戻した。ベンチ外のメンバーに
「確かなのは、負け投手は裕登なのだが、負けの原因は裕登じゃない。」
「は?何をこの俺様がかばってやるよ的な」
「そうじゃない」
大夢は反論を制した。
「負けの原因を探ったって意味ないじゃん。むしろ追い上げたことを褒めたらいいんじゃないのか」
ベンチ外の1人が、
「そうだよ、大夢の言う通りだ。あれはベストメンバーが代打に出てくれたおかげで打点を稼ぐことができた。相手が雑魚ピーとはいえ、打席での集中力は凄かった、あれには感動した」
「だろ?雑魚ピーは余計だけどな。」
「あっ、あぁ・・・」
「まぁ今回の結果を糧にこれから練習していけば良いんじゃない。俺も課題は見つかったから課題克服のための努力は惜しまないよ。」
「同調してた俺がバカだった。すまん、大夢、このあとトスバッティングに付き合ってくれ、俺もあいつに負けないようにたくさん打ち込むよ!」
「良い心がけだ。他に練習したい人は?」
「あぁ、俺も協力するよ、悪いとこばっか見てたって良い結果生まれやしないしさ」
「おし、今からバットとボールとネット用意して打ち込むぞ!ベンチ外メンバー反省会はトスバッティングだ!」
あとから大夢の雄叫びを聞いた顧問らが駆けつけた。
「一体何事だね」
大夢は
「あっ、あぁ、今話します。裕登とそこの君らは残ってて」
大夢は事細かに話した。
しかし、事は解決したことを知ると周囲は和気藹々としていた。
とりあえず、1年生だけでの揉め事は、1人の勇敢な青年によって収まった。
そう、それが、彼、坂上大夢である。
おまけ。
恒輝、悪かった。俺の意識が朦朧としてる時に、
「5番の前田恒輝です、ベンチで選手の看病してます、代わりに誰かキャッチャーお願いします」
って自ら途中交代を志願してまで、俺につきっきりで看病してくれたなんて、マジで良い奴だわ。
悠平は幸せ者かな?目立たないだけかな?最後のバッターで打ち取られても戦犯扱いされなかったんだぜ。試合終わって並んで挨拶してる時に掛けてくれた声、今でも覚えてるわ。
「じゃぁな、大夢、俺のことは気にするな」
反省くらいしろよ悠平・・・バカだなぁ・・・俺も悠平も同じメンバーで甲子園行こうぜ!!