収穫
無死満塁のピンチを背負う大夢の心の声。
あぁ、確かにそうだ。
群馬の高校野球ファンやそれぞれの高校のOBから何となく見に来ている人も含めて、
そういう人達から見たらやっぱり俺は高校球児の1人なんだと。
色々プレッシャーだよ、でもそういう時こそ楽しまなきゃ。
しかもこの絶体絶命のピンチ、抑えたらカッコいいよなフヒヒ。
「ズバーン」「ボール」
「なんだあいつすっぽ抜けてるのに笑ってるぞ」「おいおい正気かよ」
野球選手である前に高校生、人間であり、まだ子供だ。
所詮親のすねかじって生きてる時点で俺はまだまだひよっ子だろうよ。
「ブンッ」「ストライク!」
「うっわ・・・」「速球投げる顔しといてスローカーブかよ、怖いな」
坂上大夢個人として、わがまま許されるかってそうじゃねぇんだよな。
中学時代に陸上部に転部してから俺は荒れまくりだった。
あのまま引きずってたら今頃ヤンキーになってた。
「三塁にけん制だ」「満塁なのに珍しい」
親は有名人っていうプレッシャーもあるさ。
主張したいことは山ほどある。でも俺は隠し続けている。
内気な奴ってレッテルまで貼られてさ。何度もムカついたさ。
「またけん制だ!」「用心深いなあのピッチャー」
恒輝や裕登や悠平はまだわかってくれる。
莉香子もホント良いやつだからいいんだけども。
「カキーン」「ファールボール」
「すごい飛距離だったぞ」「あれだけ大きな当たりでも飄々としていられるもんだ」
あゆみは・・・とりあえず死んどけ、って思いたいところだけど血を分かつ家族の一員だしなぁこれでも。
「バシッ」「ボール」
「今のきわどかったなー」「これは鳥肌感じるぞ」
大吉じいさんの果たせなかった夢を俺が果たしてやるんだ・・・。
(シュッ)
この俺様が・・・
「カッ」
俺が・・・
「カッキーン」
「わー!バックスリーン入ったか!?」
「すごい大きな当たり!」
あ・・・あ・・・
・・・これで良いんだ。
4-6か・・・な・・・?
何だろう、誰かに声掛けられてる気がするけど・・・
よく見えないや・・・
とりあえず歩くか・・・
悔しいけど、悔しくないかな。
今後の指針が見つかった・・・。
「おい、大夢!」
「シーッ、大夢、俺だ、恒輝だ、大丈夫か?」
「あっ、あぁ・・・」
大夢の消耗仕切った体ではチームの現況を把握するのに時間がかかった。
この後チームが打線につかまり、必死の追い上げを図るも12-10で負けたことを知った。
大夢は人目はばからず号泣した。
大夢の高校初登板は5回途中4失点というほろ苦いデビュー戦だった。