高校初登板カウントダウン
「明日の先発は大夢で行く。」
順調に若駒杯の地区大会を勝ち抜いている中で突如監督にこう言われた。
「エースを温存したいのもあるが、中学の時どうだったとかそんなのは関係ない。チャンスは誰にでも平等に与える。」というチーム路線によるものだった。
恒輝自身も危機感を常に感じている。
本職の三塁にも有力選手は数多くいる。
ライバルが結果を残し、恒輝が試合すら出なかったこともあった。
そんな恒輝にチャンスが訪れる。
マウンドに立つ大夢を引っ張る役目だ。
キャッチャーとしての初出場だ。
背番号18の坂上と背番号5の前田が、ボーイズ以来にバッテリーを組む。
そんな事情もあり、大夢は毎日のように受けていた妹のピッチング相手を断らざるを得なかった。
「悪いけど明日は大事な初先発だ。俺の自慢はコントロールと集中力。明日のために今日くらいは早めに寝させてくれ。」
「わかった・・・」
何故かあゆみはさみしそうだった。
いや、兄貴とキャッチボールができないからではない。
あゆみは日頃の練習に不満を感じていた。
中学のソフト部では上級生のピッチャーが複数いることもあり、投手陣は困らない状況だ。
でも、経験させる、ということもできるはずだが、やはりあゆみの出る幕はない。
バッティングが好調なあゆみでも、ピッチャーとしてのこだわりは捨てきれなかった。
主に内野を守る。守備では打球反応の良さが光っており、マウンドに上がったところで、
守備が手薄になるのは間違いない。
だったらどうすべきか。
守備が守りやすいピッチングがすればよい。
強い打球が来ないように力ずくで抑えればいい。
そのために何をすべきか、毎回のように投げながら考えていた。
スピードもコントロールも申し分ない。
しかし、まだまだ足りないと感じている。
あゆみは常に妥協しなかった。
翌朝。大夢は朝一のバスで学校を経由して、試合会場に向かった。
恒輝が話しかけた。
「昨日は眠れたか?」
「うん、ぐっすり眠れたよ!」
「そこは嘘でもいいから、ワクワクしてて眠れなかったって言えよ(笑)。どこまで俺を不安にさせるんだ(笑)」
「てことは、恒輝は眠れてないってことだね」
「はっはっは、まぁそういうことだな」
とは言うものの、お互いの体のキレは良さそうだった。
「今日の勝負球はどうする?」
「全部(笑) 今日ばかりは色々と欲張ってもいいかな?試してみたいんだ。」
「全ての球種を把握してるのは俺ぐらいなもんだもんな」
「まぁな。恒輝、信じてるよ。」
「あぁ、信じろ。」
試合開始はもうすぐだ。