大きな夢を果たすまで
大夢は中学時代の恩師である井上の言葉を思い出した。
「能力や才能だけじゃやっていけないよ。人脈や運もリンクして初めて自分の思い通りになる」
確かにそうだ。どれだけ力が強く、他を寄せ付けない特技があったとしても、
それについてくる人や財産を築き上げた人の賛同を得なければこの世では勝てないのである。
要するに人間性が大事なんだと。
野球部員である前に、お前ら1人の人間なんだろと。
ある春のこと。
大夢は幸せのひと時に浸っていた。
「ねぇ、ひろくん、聞いてる?さっきからぼーっとしてるけど・・・」
実は大夢は莉香子とデートしていた。
彼女、と言うほどではないが、2人きりで会話するのが落ち着くのである。
大夢は窓を眺めていた。
「も~、ひろくんったらー!」
莉香子はいきなり大夢のほっぺをつねった。
「いたいいたい、なんだよう、暴力反対~」
「だってあたしの話聞いてくれないんだもん」
「ちょっと考え事してたんだよ・・・」
「あたしの話と大夢の考え事どっちが大事なの」
「それは~・・・」
大夢もまだ子供だ。異性との関わり方がよくわからないのだろう。
まぁ大夢に限らず誰にでも起こりうることである。その場面に遭遇するかしないかの違いで。
「真面目な話なら応じるよ、浮ついたのは苦手だからね」と大夢。
「何よ~、男のくせにピーしたーいとか言わないの?」
「ちょっ、一体何の話してんだよ」
「わかんなーい」
「わかんなーいじゃないでしょ、そーやっていつも逃げる~」
「じゃぁ逃げなかったところで解決できる?物事をあいまいなまま放置したっていいことってあるでしょ」
「うむ、正論だな。」
「それで思い出したんだけどさ~、この読書感想文、こんな感じでまとめてみたんだけど・・・」
「あぁ、そうか、人それぞれで良いと思うんだが・・・まぁ考えてやらないこともないか」
大夢と莉香子は同じ榛名中から高崎商業に進学することが決まっている。
クラスも3年間一緒だった。
それぞれ野球部とソフト部で高い目標に向かって精進する。
大夢は甲子園を目指して野球部に入部しようとするも、大きな壁にぶち当たっていた。
体力はずば抜けているが、筋パワー系で後ろから数えた方が早い結果だった。
弱点を克服するのが先か、特技を見つけて伸ばすのが先か悩んでいた。
妹のピッチングに付き合うことも多くなった。
ソフトボールとはいえ、体感速度は野球よりも早い。
丁度夜中なので眠気覚ましにもなっていた。
ただし学校でピッチングできなかった日に限る。
学校では野手としての練習がほとんどなので投手としての出番はない。
だから大夢妹は物足りなさを感じていた。
つまり、毎日のように・・・。