快速?いやいや特急!衝撃のデビュー戦
坂上大夢。
群馬の何の変哲もない高校球児である。
彼はシャイでこれといった才能もあったわけでないが、
恵まれた環境と人脈の中で彼の力は発揮されていた。
彼のデビュー戦は若駒杯の地区予選だった。
若駒杯とは、群馬県内の1年生が参加する、強化試合のことである。
大夢のボーイズ時代、チームメイトだった前田恒輝もいた。
大夢の本職は外野手で、恒輝の本職は三塁手だった。
しかし、彼らはバッテリーを組むこともあった。
キャッチボールしてたらたまたま監督に呼び止められた。
「大夢と恒輝って中学軟式出身だけど、一応中学の時に硬式球経験してるのな」
そして続ける。
「わかった、今すぐとは言わない。いずれ試してみる。一年生だし色々やってみていいじゃない」
何とも寛容な監督だ。入学した時は皆同じスタートライン。篩にかけてみるのも悪い気はしない。
もう既に2人をバッテリーにする構想はあった。
初戦は恒輝は4番サード。大夢はベンチスタートだ。
中盤で既に恒輝は2安打3打点と結果を残していた。
ワンナウト2塁。代走に大夢が起用される。
一時期陸上部に所属していたのか、親から受け継がれた遺伝子なのか、
早速野球選手としての才能の片鱗を見せつける。
相手ピッチャーが振り向くと2塁ランナーの大夢は大きく飛び出している。
2塁に牽制すると、大夢は3塁に向かった。それからしばらくランダウンプレー。
これでもかってくらい続く。2分以上は続いた。
結局大夢は2塁に落ち着いた。
しかし、ランダウンの多くは内野手によるものだから息が上がってるのは確実だった。
ピッチャー投げた。恒輝は迷わず引っ張った。
引っ張り警戒のシフトにも関わらず、三遊間の間を抜けるヒット。
サードとショートの息が上がり、足も動けずにいた。
一方の大夢。快足を飛ばして3塁を蹴る。
正直アウトになってもよかった。レフトに転がり慌てたレフトは後逸。
運よく大夢はホームイン。初戦はコールド勝ちで飾った。
大夢のいる高崎商業の1年生は30人近くおり、その中で選ばれただけでも凄い。
背番号18は喜んだ。野球する喜びを改めて知った。