殺人事件の被害者
なろうでは以前から見られる現象ですが、作品に辛口の感想……というより誹謗中傷に近い感想を書く人は、大抵の場合このセリフを言います。
「こんなことを書かれたくらいで傷ついているようじゃ、プロの作家にはなれない」
形や用いられている言葉は微妙に異なりますが、言わんとしていることは同じでしょう。
私は、この言葉は決して間違いではないと思っています。が、同時に幼稚だとも思いますね。幼い子供は悪口を言って叱られた時、「本当のことだから仕方ない」などと言い訳したりしますが、それと同種のものを感じるんですよね。
ニュースなどで殺人事件が報道される時、「口論になり、かっとなって殺した」などというケースは少なくありません。また「日頃から不快な言葉を浴びせられ、不満が溜まっていた」というケースもあります。
いずれにしても、殺人事件は基本的に顔見知りの犯行である場合がほとんどです。快楽殺人者に殺された、もしくは通り魔に殺された、というケースはまれでしょう。
顔見知りの犯行の場合ですが、これもまた複雑な事情があるでしょう。当人同士でなければ分からないことがあり、それはいちいち報道されることはありません。
たまに「バカと言われて、かっとなって殺した」などという事件がありますが、バカと言われただけで人を殺すバカは……まずいないでしょう。ほとんどの場合、そこに至るまでには複雑な過程があります。しかし、マスコミはその部分を綺麗に無視します。
ここからが本題です。今から書くのは、目新しいことでも何でもありません。むしろ、ごく当たり前のことです。したり顔で偉そうに書くような内容ではありません。ただ、当たり前すぎて時に忘れられがちなことでもあります。なので、自分への戒めの意味もこめて、あえて書かせていただきます。
究極の護身術、それは危険な状況に身を晒さないことである……と言っていた人がいました。
この言葉は本当に正しいですね。自分が今、置かれている状況を冷静に判断し、危険をいち早く察知しその場から離れる。それは、瓦を素手で割る力よりずっと重要なことです。
また、日頃からの言動に気を配るのも大切ですね。「口は災いのもと」という言葉がありますが、個人間の争いの中でも、ちょっとした一言が原因となるケースは少なくないですね。何気ない一言がきっかけで口論になり、挙げ句に刺したり刺されたり……これ、意外と多いのではないでしょうか。
たまに「俺ははっきり言うタイプだから」などと自慢気に言う者がいます。ヤンキーや元ヤンキーには多いタイプですね。俺は言いたいことは、いつでも言ってやるぜ……という武勇伝的な発言なのでしょう。
確かに問題のある人間には、誰かが言わなくてはならないこともあります。ただし、言い方には気を配るべきでしょう。相手を傷つけることなく問題点を指摘し反省を促すことが出来る物言いが出来てこそ、一人前の大人ではないかと。
問題点を剥き出しのまま、荒い口調でずけずけ指摘するのは、「本当のことだから仕方ない」という言葉を振りかざしていじめを行う子供と同じレベルではないでしょうか。仮に相手のことを思う言葉であっても、それが相手にストレスとなっているのなら、何の意味もありませんから。
人には誰しも、触れられたくない部分があります。そこの部分を突いてしまえば、相手は確実に怒るでしょう。いや、怒るだけならまだいいですが……それが暴力へと繋がる可能性があります。
そして、暴力がきっかけとなり殺人事件が起きる……これは、世の中にはよくある話です。
逆鱗に触れるという言葉がありますが、相手の逆鱗がどこにあるのかを把握し、その部分だけをきちんと避けて注意したり問題点を指摘したりする……これは結局のところは、大人でないと出来ないでしょうね。
歯に衣着せぬ言葉で問題点をズバズバ指摘する、それはフィクションの世界ならばカッコよく見えるかもしれません。しかし、現実の世界でそれをやってしまうと……決して良い結果をもたらさないでしょう。
傷害のような事件は、基本的に言葉に気をつけていれば防げるものが大半です。ましてや、殺人ともなれば……そこに行き着くまでには、相当つもりつもったものが有ったはずです。
もちろん、殺人事件は加害者の方が悪いことは間違いありません。どんな理由があれ、人を殺せば罰せられます。ただ私が言いたいのは、日頃の自身の言動にもう少し注意を払い、余計なトラブルを招かないようにしましょう……ということだけです。
世の中、いろんな人間がいます。『簡単に人を殺す人たち』の章でも書いたように、キレた挙げ句に殺人を犯すような人間もいるのです。そんな連中を相手に、プライドを振りかざしても何もなりません。
ですので、言葉には気をつけて生きていきましょう……面白くも何ともない結論ですみません。
と、ここで終わらせようかと思ったのですが、最後にもう一つ。ヤクザやチンピラ相手に暴言を吐くのは非常に危険です。たまに、ヤクザに強気の態度で立ち向かい敗走させた……などという武勇伝を、したり顔で語る人がいます。
それが真実かどうか確かめる手段はない、という点はひとまず置きます。一般人がそうした武勇伝を真似するのは、絶対にやめるべきですね。彼らには、面子を重んじる部分があります。ナメられたら終わり、という意識もあります。さらに我々一般人と違い、刑務所に行くことに何のためらいもありません。
そんな連中と関わったところで、百害あって一利なしです。謝ってすむのなら謝り、さっさとその場を離れることを考えるべきです……って、これもまた当たり前のことですね。




