だいたいお前と俺のせい
罪を犯すような人間によく見られる特徴の一つに「全てを他人のせいにする」というものがあります。サイコパスにも同じ傾向があるようですが、犯罪者が全員サイコパスかというと、それはまた違う気もしますね。
まず、『武勇伝を語る男』の章でも登場した与太郎ですが、この男は何かあるとすぐに人のせいにしていました。
バカみたいな話ですが、与太郎は不愉快なことがあると、まるで駄々っ子のように近くにいる者を責めるんですよ。
「お前がちゃんとしていれば、こんなことにはなってないんだよ!」
知らねえよ、としか言い様がないのですが、与太郎にとっては理不尽でも何でもないのです。場合と相手によっては、こんなことまで言い出したとか。
「お前がちゃんとしていれば、俺はこんなヘマをしなかったんだよ!」
自分のヘマを他人のせいにする、まったくもって理不尽な話ではあります。しかし、こういうタイプは世の中に少なからず存在しています。十人以上が集まる集団の中に入れば、確実に一人はいるでしょう。
ただ、この与太郎は本当に極端でした。恐らくですが、これまで詐欺に遭った被害者たちは皆、この男の「俺は悪くない。悪いのはお前だ。だから金払え」という理屈で金を払わせられてしまったのではないか、と私は思っております。
さらにもう一人、『ギャンブル必勝法』の章に登場した名取ですが……この男もまた、自身のいい加減さを棚に上げて他人を責める男だったそうです。何か問題があると相手を口汚く罵り、精神的に徹底的に追い詰めるとか。
これはあくまで私の想像ですが、名取はギャンブルの相手を罵りまくって平常心を失わせたのも、勝因の一つではないかと思っております。さらに負けた相手を罵りまくり「悪いのは俺じゃない、負け分を払わないお前だ」的な思考に追い込んだのではないかと。
言うまでもないことですが、ギャンブルの負け分など、法的には払う義務はありません。にもかかわらず、払わない自分が悪い……そんな精神状態へと追い込んでいった可能性もありますね。
与太郎と名取、この二人に共通する部分がもう一つあります。それは、外面がやたらといいことです。
与太郎に関しては、私は数日間そばで暮らしていたので嫌というほど知っていますが、この男は初対面の人間には、不気味なくらい礼儀正しく接します。そのため、他人には意外とウケがいいんですよ。
ところが、身内や後輩あるいは手下のような人間に対しては、態度が一変します。ちょっとしたことで相手を口汚く罵り、執拗に責めます。時には暴力も振るいます。特に、相手が自分よりも腕力において明らかに劣っていると判断したら、容赦なく暴力を振るうとか。
名取もまた、似たような傾向があったそうです。私は、この名取とは二度か三度くらい顔を合わせていましたが、確かに年下の私に対しても異様なくらい丁寧な態度でした。もっとも、名取という男の正体については既に聞かされていたので、騙されることはありませんでしたが。
最近、DVが話題に上ることがあります。男性からのものが多いそうですが、実は女性からのものも少なくないとか。いずれにしても、こういう「全部お前のせい」という精神構造の人間には、往々にしてDVが付き物です。何かあると、原因に関わらず他人のせいにする……その矛先は、身近な人に向かいます。それも、自分より弱い立場(と勝手に判断している)の者に。
しかも外面はいいので、端から見れば「あいつは、いい奴だ」という評価を得ているケースがほとんどなんですよね。
こういう他人のせいにするタイプを、どうやって見分けるか……それは、かなり難しいですね。私も与太郎には騙されましたし。外面が良すぎる人には気をつけて、としか言い様がありません。
ただし、全てを自分のせいにするような性格が素晴らしいかというと、それは違うと言わざるを得ないですよね。
例えば、ミスをしてしまったら、すぐに対処しなくてはなりません。ところが、全てを自分のせいにしてしまう性格の人は往々にして「俺はなんてことをしてしまったんだ……」とミスに打ちのめされ、立ち直りに時間がかかるケースが少なくないんですよね。全部がそうだ、とは言いませんが。
私は仕事などでとんでもないミスをしてしまった時「俺だけが悪いんじゃねえや。俺にこんなことをさせた、あいつも悪いんだよ」などと考えて開き直り、平静さを取り戻すことがあります。客観的に見れば、最低のサイコパス的思考ですが……これまた、生きていく上では必要かもしれないと思うんですよね。
そんな訳で、結局はバランスということになるのでしょうか。全てを他人をせいにする、あるいは全てを自分のせいにする、どちらも行き過ぎれば身の破滅に繋がるでしょうし。
ですから、何か不快な出来事があったら「だいたいお前と俺のせい」くらいに思っているのが、ちょうどいいのかもしれません。




