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エッセイ書いたんだよ!  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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古武術系が好きになれない理由(裏)

 今回は、格闘技のエッセイの続き……のような内容です。そちらを読んでなくても問題はありませんが。要は「我々は格闘家と違い、人を殺せる技を学んでいる。これこそ武術の本質」と言っている人たちへの反論みたいなものです。さらに、喧嘩をしたらこうなるよ……ということを伝える意図もあります。




 別のエッセイにも書きましたが、かつて私は喧嘩で警察に逮捕されました。

 もっとも、これは喧嘩というよりは……襲われた、と言った方が正確でしょうね。何せ相手はポン中の精神異常者、しかも友だちがいきなり顔面を蹴られたのですから。

 詳しい状況を書きますと、友人が路上にてしゃがみこんでケータイで話しており、私は横にいました。すると、奇妙な男が近づいて来たのです。

 遠目からもはっきりわかる尋常ではない目付きとブツブツ呟く声……これはヤク中だろう、と私は判断しました。

 ヤク中はブツブツ呟きながら、真っ直ぐこちらに歩いて来ます。

「おい!」

 私は友人に声をかけました。危険を知らせるためです。ところが、友人は話に夢中です。そうこうしている間に、ヤク中はどんどん近づいて来ました。びびった私は、友人の頭を小突きました。すると友人は、

「んだよ!」

 と言いながら顔を上げました。その瞬間、ヤク中と友人の目が合ってしまったのです。

「この野郎!」

 ヤク中はわめきながら、しゃがんでいる友人の顔に蹴りを入れました。友人は吹っ飛び、後ろの壁に後頭部をしたたかに打ちました。その時、私はとっさに、

「何すんですか!」

 とヤク中に叫んでいました。すると、そのヤク中は私を睨みました。

「お前ら、みんなグルなんだろ!」

 そんな事をわめきながら私に掴みかかってきたのです。私はビビりながらも、必死で殴りつけましたが……向こうは薬がばっちり効いているらしく、平気な顔で殴り返してきます。チンピラ同士にありがちな、お互いに襟首を掴んだ状態での「ペチペチ」という迫力の無い殴り合いの末、我々三人は警察に連行されました。

 挙げ句、私は刑事の取り調べを受け……持ち物を全部取り上げられて留置場で一晩過ごした後、翌朝に東京地検で検事の取り調べを受けたのです。

 検事に事情を話し、どうにか解放はされましたが……最悪の気分でしたね。東京地検の検事は、とにかく偉そうなんですよ。「君、分かってるの? 公務執行妨害が付いたら帰れなかったよ」などと、さんざん嫌味を言われました。

 ちなみに、東京地検は某ドラマに描かれているような場所ではありません。一日に数百人の容疑者が訪れ、手錠をかけられた状態で数人ごとに分けられ扉が鉄格子の待合室に連れて行かれます。中にはトイレがあるだけで、何もありません。六畳くらいの部屋に、八人くらいの男が詰めこまれるんですよ。

 その後は、検事に呼ばれるまで待機です。硬い木の椅子に座らせられ、狭い待合室の中で犯罪者たちと顔を突き合わせていなければなりません。これは精神的にキツいですね。

 しかも、中では私語厳禁です。犯罪者同士で会話などしようものなら、制服のおっかない職員が「お前ら、喋るんじゃねえ!」と怒鳴ります。

 そんな状況にも関わらず、「俺は住吉会だぞ!」「住吉がナンボのもんじゃい!」みたいな喧嘩が起きることもあるとか。

 その状況は、朝の九時から夕方の四時くらいまでかかります。一応、昼食は出してくれますが……とにかく疲れますね。




 ここからが本題です。

 路上で闘えば、こういう事態になります。二言目には「実戦」「人を殺せる技」などと言っている武術家の人たちは、逮捕された経験があるのでしょうか。

 はっきり言いますが、正当防衛は成立が難しいです。相手に怪我をさせたら、過剰防衛になるケースがほとんどなんですよ。勘違いされている方もいるようですが、過剰防衛も犯罪として扱われます。したがって、一度くらいは起訴猶予されたとしても、度重なれば起訴されます。そうなると、有罪判決はほぼ確実でしょうね。

 相手に怪我を負わせ、傷害で起訴されたとしたら……喧嘩の原因や怪我の程度にもよりますが、初犯ならば執行猶予付きの有罪判決で終わりでしょうね。

 ただし、武術家がよく言うような「目潰し」や「金的」などを使い怪我をさせたら実刑は免れないです。目潰しなんか使い失明させたら、果たして何年くらうか……。


 これは刑務所に入っていた知人の話ですが、元プロボクサーが傷害で入っていたそうです。

 話を聞いてみると、ちょっとしたことから口論になり、相手がいきなり殴りかかって来たそうです。相手のパンチを避けそこね顔を殴られた元ボクサーは、おとなしくさせようと相手の腹を殴りました。

 ところが、その一撃で相手は倒れ……挙げ句に懲役二年です。元ボクサーという経歴を重視され、一般人より重い罪を科されたわけですね。

 なお、これはボクサーだけではありません。柔道や空手のような武道の経験者は、一般人より重い罰を科せられます。また武道の黒帯であるか否か、は量刑を決める際に関係してくる……という話を聞いたことがありますが、帯の色に関係なく一般人より確実に重いという説もあります。

 いずれにしても、武道や武術の経験者が怪我を負わせたとなると……裁判官の心証が悪くなるのは確実でしょうね。


 様々な例を挙げましたが、私が言いたいのは……古武術を習っている方々は、前科という烙印を押される覚悟を持って危険な技を学んでいるのか? ということなんですよ。

 誤解されてる人も多いのですが、相手に先に殴られたくらいでは、正当防衛は成立しません。過剰防衛はれっきとした犯罪ですし、怪我をさせれば逆に傷害罪で訴えられる可能性があります。

 しかも、相手を殺してしまえば傷害致死です。殺人罪よりは軽いですが、それでも実刑は免れないでしょう。さらに、被害者家族から民事で訴えられる可能性もあります。

 もっとも、それ以前に……どんな状況であれ、人の命を奪うということは軽く考えてはいけないことなんですよ。

 とある格闘技マンガの作者は単行本にて「本当に危険なテクニックは紹介していない。使って欲しくないからだ」と書いています。また、ある古武術家は「人殺しのための技なんか、無くなった方がいいんだよ」と言っていたそうです。もちろん、個人の考え方は色々あって然るべきですが、人殺しという言葉については軽く扱うものではない……これは断言できますね。

 人殺しの技について語ったり指導したりしながら、それを行使した場合のリスクについて何の説明もしない……これは、薬を売りつけておきながらアレルギーや副作用について説明しないのと同じくらい、片手落ちな行為ではないでしょうか。




 最後になりますが……目潰しや金的蹴りさらには耳削ぎや鼻裂き(あえて説明はしません)のような危険な技を指導したり、クボタンだのメリケンサックだのといった凶器を用いた武勇伝を語るような人たちは、実際に技を行使すれば確実に逮捕される……という事実を知っているのでしょうか。また、その事実も生徒たちに教えているのでしょうか。

 危険な技を指導するのなら、そういう知識を最初にきちんと教えるべきでしょう。

 さらに付け加えますと、合気道のとある流派の先生は実戦的な技を謳い文句にしていながら、入門を希望した前科のある人間に対し、本人と直接の面談も無いまま「技を悪用する恐れのある者の入門は許可できない」と会員を通じ言ったそうです。

 当人と直接の面談もせず、前科があるという理由から技を悪用すると判断し入門を断る……しかも先生が言うのではなく、弟子にあたる一般人の会員に断らせる。この態度は、果たして武術家として相応しいのでしょうか。私の目には、事なかれ主義のサラリーマンの対応のようにしか見えません。







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― 新着の感想 ―
[気になる点] 死んだり障害負うよか刑務所のがマシでしょ。ヤク中でなくともアホは殺す気がなくても喧嘩すりゃ当たりどころが悪かったり転んで打ちどころが悪ければ人は死ぬって理解してないから油断だの手加減だ…
[一言] 個人的な体験談ではありますが危険な技を習ったら「使いたくなる衝動を抑えられるか」が極めて重要だと思います。危険な技であればあるほど実際に使ったら有効打となりうるのかという好奇心と理性が常に葛…
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