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エッセイ書いたんだよ!  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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頼り頼られ

 以前、私はこのエッセイにて「日本が貧しいとは思えない」と書きました。すると「見えない部分で貧困は深刻化している」という意味の意見をいただきました。

 まあ、私は日本の貧困については……正直いうなら、あまり分かっていません。ただ、「見えない部分」という点に関しては、思うところがありますね。




 以前、このエッセイに登場したイーサンですが……この男は、本当に困り者でした。覚醒剤の依存症であり生活保護をもらう身分でありながら、パチンコに出かけたり時計などのアクセサリーを買ったり……さらには、覚醒剤も買っていました。

 挙げ句、金が無くなると「苦しい」「つらい」「飯が食えない」などとメールしてきたのです。普通なら、こんな男とは関わらないでしょう。

 ところが私は、月に一度か二度くらいの割合で数千円ずつ送っていました。いつかは立ち直ってくれる、そう信じていたのですが……結局は逮捕され、刑務所に行きました。その後は音信不通です。


 ネットを見ていると「つらい」「苦しい」「死にたい」と安易に口にする人が多いですね。ただ、その中で本当にピンチな人間が、果たして何人いるのでしょうか。中には、同情を引くため若しくは世間の注目を集めるために、そんなことを言っている人もいるような気がしますね。

 犯罪者の中には、他人の同情する気持ちを利用するような人間が少なからず存在しています。彼らは自らの苦しい生活を大げさに語り、他人からの援助を当てにします。借りた金を踏み倒すなど当たり前で、しかもそのことに何ら恥じるところがありません。

 さらに、この手の人間の周囲には、たいてい優しい人たちがいます……いや、優しさというものを履き違えた人たちがいます。

 そうした『優しい』人たちに向かい「つらい」「苦しい」「死にたい」などと毎日のように呟き、同情され優しい言葉をかけられて悦に入る……そうしたことが日課になっている人も少なからずいるようです。

 まあ、他人が何をしていようが私には関係ありません。しかし、私はこの手のサークルには興味はありませんし、関わりたくもありません。自分を救える者は、最終的には自分である……私は、そう信じていますので。




 話は変わって……以前このエッセイに、スミスという男が登場しました。

 私とスミスとは、小学生の時からの付き合いです。どちらかというとヤンチャなタイプではありましたが、他の連中に比べると真面目でした。何せ風俗もキャバクラも行かず、ギャンブルにも全く手を出しません。ドラッグの類いもやらない男です。

 このスミス、不運な偶然が重なり二十代の半ばで仕事をクビになりました。その後、生活苦から強盗をして六年の刑を受けることとなったのです。

 その知らせを聞いた時、私は驚きました。すぐさま警察署に行き、スミスと面会したのです。

 警官に伴われ、面会室に現れたスミスはやつれていました。どちらかというと強面のいかつい顔でしたが、今は顔の肉が落ちていてポン中のようでした。

 そこで私は、こんな質問をしたのです。

「そんなにキツかったのなら、何で言ってくれなかったんだ?」

 すると、スミスは下を向きながら答えました。

「お前らに、迷惑かけたくなかったから……」


 スミスは、昔から弱音を吐かない男でした。昭和の時代の「男はかくあるべし」という価値観を引きずって生きていまして……生活に困っても周りに頼らず、自力で解決しようとしたのです。

 その結果、強盗をやらかして刑務所に行く羽目になりました。




 私は、「苦しい」「つらい」「死にたい」といった弱音を周囲に撒き散らす人間が嫌いですし、関わりたくありません。また以前にも書きましたが、「病気の俺にもっと気を遣え」と主張する者とも関わりたくありません。

 さらに、そうした人間を甘やかすような者たちとも関わりたくはないですね。馴れ合い、という言葉を嫌う人種がいますが……こうした優しさを履き違えている人たちこそ、馴れ合いの悪しき側面を表していると思います。


 弱音を周囲に撒き散らす人がいる一方で、スミスのようなタイプの人もいます。根が真面目で他人に頼らず、問題があっても自力で解決しようとします。結果、上手く解決できればいいのですが……にっちもさっちもいかなくなり、スミスのように犯罪に走る者もいます。あるいは、誰にも相談できないまま孤独死を迎えるケースもあるかもしれません。

 本当に危険なのは、スミスのようなタイプではないでしょうか。真面目で我慢強く、「迷惑がかかるから」という理由で周囲の人たちに相談しない。それどころか行政にも頼らず、最後には孤独死……今の御時世、ありそうです。

 イーサンのようなタイプは、弱音を周囲に吐きながらも図太く生き延びることでしょう。「つらい」「苦しい」「死にたい」などと言いながら、最終的には私より長生きするかもしれません。

 しかし、今の日本における貧困問題について考える時……スミスのような弱音を吐かない人たちこそが、一番助けを必要としているのでしょう。

 スミスのようなタイプは声を上げないため、周囲の人は気づきません。もちろん、マスコミに取り上げられることもありません。貧困を恥じるため周囲に相談せず、プライドゆえに生活保護も申請せず、最終的には体と心が病んでいき……という負のスパイラルに陥る気がするんですよね。

 真に助けるべきなのは、スミスのような声なき人々である……と私は思います。少なくとも、ネットで「つらい」「苦しい」「死にたい」と言っている人たちは、翌日もまた同じことを言い続けているでしょうから。







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