タタキのリスク
年末になり、寒さもいっそう増してきました。この時期になると、トチ狂った連中が出てきます。短絡的な路上犯罪の件数が、ぐっと増えるようですね。皆さま、くれぐれもお気をつけ下さい。
こうした犯罪で多いのは、まず引ったくりでしょうね。次いでオヤジ狩りなどのカツアゲ、さらにタクシー強盗やコンビニ強盗といった犯行でしょうか。
ただ、これらの犯罪は……一歩間違うと、とんでもないことになります。軽い気持ちで犯罪に手を染めた挙げ句、人生を台無しにしてしまうこともあるんですよ。
以前にも書きましたが、強盗は非常に重い罪になります。裁判となると、ほとんどの場合、最低でも懲役五年の求刑が来ます。求刑五年となると、判決は三年半から四年となるでしょうね。
当然ながら、初犯であっても執行猶予は厳しいです。強盗という罪名で起訴された時点で、まず無理でしょうね。
さて、仮にAくんが原付に乗り、歩いている女性のハンドバッグを引ったくろうとしたとします。ところが、女性はバッグを離しませんでした。
逆上したAくんは「殺すぞババア!」などと叫びながら突き飛ばします。結果、女性は転倒して頭を打ちました。Aくんはというと、バッグを奪い原付で逃走します。
こうなると、Aくんの罪名は強盗になる可能性が高くなります。「殺すぞ!」という発言および暴力を振るった事実は、もはや言い逃れできません。単なる引ったくりなら、窃盗で済みます。しかし、引ったくりは容易に強盗へと変わるのです。
まして、この時の怪我が元で女性が亡くなってしまったら……強盗および傷害致死、下手すると強盗殺人になる可能性もあります。
強盗殺人ともなると、無期懲役もしくは死刑です。殺人罪の場合、一人殺しても死刑にはなりません(もちろん例外はあります)。しかし、強盗殺人では一人殺しても死刑になる可能性があるのです。
単なる引ったくりのつもりが、強盗殺人で無期懲役……これは、あり得ない話ではありません。
タクシー強盗やコンビニ強盗などは、さらにリスクが大きくなります。
仮に刃物を突き付け「金を出せ」と言ったとしましょう。相手が素直に金を出してくれればいいですが、抵抗される可能性もあります。
特に正義感の強い体育会系の若者や、護身術などを習っている人などは、抵抗してくる可能性が大です。得てしてこういう人たちは、加減というものを知りません。強盗に失敗しボコボコにされた挙げ句、半身不随になった人もいたそうです。
逆に、抵抗されたからといって刺してしまうと……今度は、強盗致傷になります。状況にもよりますが、最低でも六年は食らうでしょうね。ちなみに、知人は強盗未遂と傷害で懲役五年でした。しかも、素手で殴って五年です。刃物を使ったとなれば、さらに重くなるのは確実でしょう。
まして、それが元で相手が死んでしまったら……無期懲役もしくは死刑です。単なるコンビニ強盗なら、上手く逃げおおせる可能性もあります。しかし、これが殺人ともなると、まず無理でしょう。強盗殺人なら、警察の捜査の仕方も気合いの入り方も違ってきますから。
さらに、コンビニ強盗やタクシー強盗で奪える金額はといえば……せいぜい数万円ではないでしょうか。十万円にも満たない金を奪うのに、死刑の可能性があるかもしれない罪を犯す……これはまさに、ハイリスクでローリターンの極みでしょうね。
余談ですが、たまに「ナイフなど怖くない」「この技なら撃退できる」などと豪語している武術家の人がテレビ番組に紹介されたり、ネットで武勇伝を語っていたりします。
しかし、そんなことを言っている人のほとんどは「ナイフは怖くない」のではなく「ナイフの怖さを知らない」人たちですね。
中には、本当に素人のナイフ攻撃など恐れず、簡単に取り押さえられる達人もいるのかもしれませんが……。
はっきり言って、ナイフは怖いです。急所を刺されれば、簡単に死にます(当たり前ですが)。自称・武術家たちの言っていることを真に受けて、ナイフを持った強盗に素手で立ち向かったりしないでください。まあ、そんなことをする人はいないと思いますが。
人生、何をやっても上手くいかない時はあります。しかし、ひったくりや強盗のような単純な路上犯罪に手を出すのだけはやめましょう。軽く考えているかもしれませんが……ちょっとした判断ミスや想定外のトラブルにより、死刑にもなりかねません。
こんなハイリスクでローリターンな犯罪に手を染めるくらいなら、まともに働いた方が数百倍マシでしょう。もっとも、そんな単純な話が通じないのが人生なのですが……難しいところですね。
ちなみに、タイトルの「タタキ」というのは強盗の隠語だそうです。




