アニメとプロレス好きな先輩
かつて、私の先輩にスッポンさん(もちろん仮名です)という人がいました。年齢は私より四歳くらい上であったと記憶しております。
スッポンさんは、とにかく喧嘩早い人でした。ある日、私と友人とスッポンさんが友人宅に集まっていた時のことです。外からブンブンブブブンと、バイクのエンジンをふかす騒音が聞こえてきました。どうやら、ヤンキーが外にいるようです。
すると、スッポンさんが立ち上がりました。
「るせえぞゴラァ!」
叫びながら、部屋にあったバット(友人の物です)を片手に表に出ていったのです。しかし、バイクは既に走り去っていました……スッポンさん、当時すでに三十歳を過ぎていたはずですが、血の気の多さは若い時のままです。本当に困った人でしたね。
このスッポンさん、実はアニメ好きでした。かなり多くの作品を観ていたのですが……残念なことに、スッポンさんは恐ろしいくらいのバカでした。特に国語能力および表現力は致命的でして、観た作品の面白さを説明することが出来なかったのです。
そもそも私が、スッポンさんの残念さを知るきっかけとなった出来事は……『伝説巨神イデオン』でした。当時の私はイデオンを観たことがなく「イデオンてどんなアニメだったんですか?」と聞いたら、こんな答えが返ってきたのです。
「イデオン? あれはな、最後にイデの力が発動して、みんな死ぬんだよ。ほんで、みんなでスッポンポンになって宇宙を飛び回るんよ」
この説明を聞いて、イデオンというアニメの内容が理解できる人がいるでしょうか……。
少なくとも、私には無理でした。ヘラヘラ笑いながら、「そ、そうですか。衝撃のラストですね」と答えるしかありませんでした。「意味わかんないんですけど」などと言ったら、ぶん殴られそうな気がしましたので。
余談ですが、後に調べたところ、イデオンというアニメの最終回はスッポンさんの言った通りでした。ただし、そこまでの過程をはしょられては話になりませんが。
その後も、スッポンさんは様々なアニメ作品を説明するのですが……ことごとく途中をはしょるのです。
「バルディオス? あれはな、マリンが仲間になって合体してロボットになるんだよ。ほんで最後、地球が水浸しになってみんな死ぬんだ」
「昔、ミンキーモモってのがあってな、変身する時にモモがスッポンポンになるんだ。ほんで最後に、バスに轢かれて死ぬんだよ」
「バクシンガー? あれはな、族のバイクが合体して巨大ロボになるだよ。ほんで最後に、ジャッキーとファンファン以外みんな死ぬんだよ」
「ベルサイユのばらはな、オスカルとアンドレがスッポンポンで抱き合った後、戦争が起きてみんな死ぬんだよ」
「ダンバイン? あれはな、ラストでショウとバーンが相討ちになった後、みんな死ぬんだよ。ほんで、エンディングではスッポンポンの妖精が駆け回るんよ」
とにかく「最後にみんな死ぬ」という鬱展開が好きなようでした。スッポンさん自体は、とても陽気な人なんですけどね。さらに、スッポンポンという単語も好きなようです。まあ、これは年頃の男子なら仕方ないですが。
この人、観ていたアニメの本数はかなりの数になるのですが……途中の過程を全部はしょり、最後にどうなったかだけを説明する人でした。なので、最終的には自分で調べるしかなかったのです。
またスッポンさんは、プロレスも好きでした。しかし、プロレス会場での武勇伝がまた凄かったです。
「キラー・カーンに唾をひっかけたら、怒って追いかけて来た」
「入場してくるスタン・ハンセンの足に蹴り入れたら、ブルロープでひっぱたかれた」
「場外に落ちてきたブッチャーの背中に蹴り入れたら、タイガー戸口に首根っこ掴まれて席に座らせられ、説教された」
全て小学生の時の武勇伝だそうです。ちなみにタイガー戸口は、キム・ドクという名でアーノルド・シュワルツェネッガー主演『レッドブル』という映画に出演しています。映画の序盤、雪の中でシュワルツェネッガーとド突き合っておりました。興味のある人は観てください。
このスッポンさん、中学を卒業すると同時に就職したそうです。一応、高校受験はしたらしいのですが……ことごとく落ちたようです。当時は、名前さえ日本語で書ければ合格できた学校もあったはずなのですが、進学を選ばなかったようでした。
その後は職を転々としたようですが……ほとんどの職場でモメた挙げ句にクビとなり、数年間のニート生活をしていたと聞いております。
しかし、十年ほど前に突然「北海道に行ってカニ漁をする」などと言って姿を消したとか。その後は、全く連絡が取れなくなったそうです。
ものすごいバカでしたが、ここに載っているような他のチンピラより遥かに付き合いやすかったスッポンさん。今、何をしているのかは知りません。ひょっとしたら、本当に北海道でカニ漁をしているのかもしれません。さらに船の上で「スッポンポンで宇宙を飛び回る」などと言っているのかもしれません。




