生まれもった性質
以前オフ会の時、とあるユーザーさんにこう言われました。
「赤井さんは、この中では実は常識人。本当にヤバいのはAさんやBさん(どちらも当日に参加していたユーザーさんです)」
その言葉を聞いた時、私は苦笑しました。見抜かれてしまってるな……と感じたからです。私はこんなエッセイを書いてますが、良く言えば常識人、悪く言えば小市民です。普段は信号無視すらしませんし、外を歩いていて他人と肩がぶつかれば「すみません」とすぐに謝ります。
体重が八十五キロ以上あり、見た目は「プエルトリコの囚人」などと評された私ですが、中身は本当に小市民なんですよね。
誤解されている人がいると困るので、この際はっきり言いますが、私は「俺は格闘技やってて超強くてヤバい友だちも多い危険な男だぜカッコいいだろ」的なアピールをしている訳ではありません。まあ、私のエッセイをちゃんと読んでいただければ分かると思いますが……曲解する人もいるかもしれないので。
ただ私も、若い時は違う思いを抱いていました。
まず中学生の頃は、ヤンキーになろうとしていました。武闘派のヤンキーに憧れ、学校のヤンキーとつるんでいましたね。
しかしヤンキーという人種の実態は、結局のところただのバカなんですよね。徒党を組んで町中でふんぞり返り、タバコを吸ったり酒を飲んだりバイクに乗ったり、たまに自分より弱い人間に暴力を振るったり……まあ人間としては、最低の部類ですね。
ヤンキーという人種の実態を知るにつれ、私のヤンキーに対する憧れは急速に消えていきました。
高校に入ると、今度は大薮春彦『野獣死すべし』や馳星周『不夜城』などの影響により、ガチのアウトローに憧れるようになります。それゆえ校内のヤンキー(多かったです)を軽蔑し、他校の連中とつるんでいました。
当時、都内ではマンガの『ビーバップ・ハイスクール』に登場するような昔ながらのヤンキーが減り、代わりにドラマ『池袋ウエストゲートパーク』に登場するようなチーマーやギャング系の不良が増えてきていたのです。
しかし私の周囲には、そんな連中ともまた違うタイプの者がいました。
例えば、そこそこ偏差値の高い学校に行っている真面目少年なのに麻雀狂で、フリーの雀荘にニコニコしながら通っていた男(もちろん法に触れます)。
あるいは教師を殴って高校を中退しましたが、実は作家志望のヤク中。
さらに、このエッセイにも何度か登場したグンジなどなど。本当に、統一性のない連中が集まってましたね。
もっとも、普段は溜まり場にしている友人の家に集まり、しょうもない会話や麻雀などをしていただけですが。
そんな連中とつるんでいるうちに、自分はひょっとしたら凡人なのだろうか……という思いが芽生えてきました。少なくとも個性的な他の連中に比べると、私という人間はあまりにも平凡に思えます。
そこで、私はさらにヤバい連中とつるむようになります。ヤクザの予備軍やヤク中やチンピラのような者たちと行動をともにするようになりました。そんな連中と一緒にいるだけで、自分もアウトローになったような気分になっていたのです。
しかし歳を重ねるにつれ、私は自分と他の者たちを隔てるものの存在に気づいていきました。
はっきり言うと、アウトローな連中は、私とは根本からして出来上がり方が違うんですよね。
彼らは人を殴るのに、何のためらいもありません。薬物などの違法な行為に関しても同様です。また、警察に逮捕されることにも抵抗がありません。刑務所に行くことに関しても同じです。
また、彼らは幼い頃から悪さを重ねており、警察に何度も補導されています。さらに成長するにつれ、鑑別所や少年院そして少年刑務所……と、いわば悪のエリートコースを歩んできています。私のような半端者とは、まるで違うんですよね。
正直に言えば、私は逮捕されるのは嫌です。また、刑務所に行くのは怖くて仕方ありません。以前、私は留置場で一泊した経験がありますが……色んなことを考えてしまい、不安で眠れなかったですね。周りの連中は、グーグー寝ていましたが。
この逮捕されるのが怖いという感覚……それこそが、私とアウトローの知人たちとを分けるものだった気がしますね。
さらに言うと、持って生まれた性質もあったのかもしれません。よく言えば常識人、悪く言えば小市民……そんな私だからこそ、一線を踏み越えずに済んだ部分もあります。
そして、私がアウトローになれなかった最大の理由が……二十代のニートだった時期に、中学時代の同級生と高校時代の同級生が立て続けに死んだことです。二人とも、覚醒剤の依存症でした。
この二人について詳しく語るのは、別の機会にしますが……片方は覚醒剤の射ちすぎで体力の限界を迎えて亡くなり、もう片方は覚醒剤により精神をやられて駅に入って来る電車に飛び込みました。
さらに同じ時期、周りの連中が次々と逮捕されていきます。警察署に面会に行ったり、刑務所から手紙が来たり、刑務所から出てきた友人と再会したり……。
そんなことを繰り返しているうちに、私はつくづく嫌になってきました。こんな世界、俺には無理だ……私は心底からそう思い、真面目に働くようになったのです。
はっきり言って、私はヤクザになろうが半グレになろうが、出世できなかったのは間違いないでしょう。これも、持って生まれた性質ゆえでしょうね。ひょっとしたら、それもまた才能と呼ぶのかもしれませんが……。
最後に一つだけ、理解していただきたいことがあります。私は、前科のある人を差別して欲しくないと思っています。
しかし同時に、前科のある人に対し油断しないで欲しい……とも思っています。矛盾しているようですが、これは私の本音ですね。
実際、私は刑務所を出て立ち直った人間を見ています。しかし同じような罪を犯しては、何度も刑務所を出入りしている人間も見ています。
また、生まれつきの性質はそうそう変わりません。世の中には、生まれながらの人間のクズ……としか言い様の無いタイプの者がいます。刑務所に何度も出たり入ったりしている者の中には、そんなタイプの人間が確実に存在しています。
かつて安部譲二さんが『塀の中の懲りない面々』という本を書きました。実際、何度パクられても懲りない人間は少なからず存在しています。更生するふりをして巧みにカモに近づき、隙あらば食い殺そうと牙を磨ぐ者が……くれぐれも、油断しないでください。




