私の中学時代
今回は、私の中学生の時の話をします。プライバシー保護のため、若干ではありますが事実とは異なる部分がありますが、基本的なラインは実話に則しております。私は小説という嘘を書くのは好きですが、実話と称した嘘を書くのは大嫌いですので。
私の中学校は……意外にも、学校ではおとなしい生徒ばかりでした。バイクで校舎内を走ったり、教室内でタバコを吸ってるような奴はいませんでしたね。
また、変型した学生服……いわゆるボンタンを履いたり短ランなどを着ている者も、あまりいなかったように記憶しております。
というのも、私の中学生の時は……渋カジと呼ばれるファッションに身を包んだ、いわゆる「チーマー」が台頭してきた時代だったからです。
基本的にチーマーは、従来のヤンキー文化とは一線を画する連中でした。リーゼントやパンチパーマのヤンキーを「ダセー」と言ってバカにし、校内でもそんなに暴れたりはしません。
その代わり、私服で町に出ると無茶苦茶やる……そういった人種でしたね。とはいえ、基本的な精神構造はヤンキーと代わりないのですが。
そのため、私の中学には昔ながらのヤンキーとチーマー系とが混在していたのです。実際、当時の都内の中学や高校では、校内で暴れる不良というのはかなり少なくなっていたように記憶していますね。
余談になりますが、バイクで校舎内を走る……というような騒ぎを起こした連中は、基本的に四十代以上の昭和生まれの人たちがほとんどです。
ただ、当時の私はその違いを考察している余裕などありませんでした。
私は当時、いじめを受けていました。いじめの内容について、あまり多くは語りませんが……私の左手の甲には、未だに消えない丸い火傷の痕があります。これは、タバコの火を押し付けて消した痕(俗にいう根性焼きです)です。この話から、当時の状況を少しは理解していただけたでしょう。
そんな中で私は一念発起し、いじめっ子に逆襲しようと決意しました。
そして運良く、いじめっ子グループの主要メンバーであるダック(もちろん仮名です)が人通りの少ない廊下で、一人歩いているのを見つけたのです。
私は後ろから近づいていき、声をかけました。
「お、おいダック」
今もはっきり覚えていますが……この時、私は極度の緊張状態にありました。心臓はバクバクし、舌はもつれ、呼吸は乱れまくっております。
ダックは振り返り、私の存在に気づきました。
「おう、赤井じゃねえか。何か用かよ」
言いながら、いかにも人を小馬鹿にしたような表情で私を見ています。
この時、私は何か言ってやろうと思いました。しかし、緊張のあまり舌がもつれ言葉が出ません。そこで先制攻撃を食らわすため、殴りかかろうとしました。
しかし、そこで愕然となりました。肩と腕に力が入りすぎ、腕がスムーズに動かないのです。喧嘩慣れしていない人が、いざ他人を殴ろうとすると……必要以上に力んでしまい、パンチがスムーズに打てないというのは実はよくある話なんですよね。
仕方ないので、私は無言のまま掴みかかっていきました。すると、ダックは意表を突かれたらしく仰向けに倒れたのです。つまり、私がタックルで倒したような状態になった訳ですね。
で、私はその状態から頭突きを食らわしました。腕がスムーズに動かないので、頭をぶち当てるしかなかったのです。
数発の頭突きを食らわしたら、ようやく腕も動くようになりました。そこで私は、馬乗り状態で何度か殴りました。
すると、いきなり羽交い締めにされ引き離されました。気がつくと、周りを他の生徒たちに囲まれていたのです。私を羽交い締めにして引き離したのは体育教師でした。
一方、ダックは顔から血を吹きながら逃げて行きました。
その件以来、「赤井はいきなり不意討ちしてくる頭おかしい奴だ」という評判が立ち、私はいじめられなくなったのです。
ただ勘違いされては困るのですが、私はいじめを受けた場合……やり返せばいい、とは思っていません。はっきり言うと、私の場合は運が良かったのと相手が弱かった、ただそれだけです。
喧嘩慣れしていない少年が人を殴る、これは非常に大変なのです。体に余計な力が入りますし、緊張のあまり呼吸すら難しくなります。そんな状態でいじめられっ子が立ち向かって行ったところで、勝てるとは思えません。
しかも、いじめっ子は最初から精神的に優位な状況にいます。喧嘩慣れしてないいじめられっ子が、この圧倒的に不利な状況を覆すには……本当に相手を殺すつもりで行かないと無理でしょうね。
さらに、喧嘩の後「お前、なかなかやるな」などと言って友情が成立する、というマンガのような展開はまず有り得ないですね。喧嘩に勝てればいいですが、負けた場合はさらに悲惨な状況が待っています。
かつて私は喧嘩に負け、公園の土の上で土下座させられたことがあります。また友人は、対立していたグループの連中にボコボコにされた挙げ句、公園の便所の便器をなめさせられたそうです。
喧嘩した後で仲良くなる、などという話はヤンキー漫画の中だけのフィクションの世界でしょうね。はっきり言うなら、戦争と同じで勝った側が「俺たちは仲良くなった」と言っているだけのことです。
とにかく、中途半端に抵抗すれば確実にいじめは酷くなります。しかも、逆に相手に怪我をさせたら……こちらが訴えられる可能性もあります。そうなるくらいなら、最初から抵抗などせず通学を拒否する方がまだマシでしょうね。
最後になりますが、ダックという男は身長が百四十センチ(当時)、体重も四十キロあるかないかという小柄な男です。そんな奴にいじめられていたのですよ……中学一年の時の私は。
今回は時間が無かったので、ここまでとしました。次回に続きます。




