実際に体験した怖い話
今回は、まだ実家に住んでいる時に体験した話です。とっても怖かった、ですが実話です。
その日、家族はみな出かけており、家にいるのは私だけでした。暇だった私は、二階の自室でゲームなんぞをしておりました。
ふと気づくと、妙な音がするではありませんか。何かが、階段を昇ってくるような音がしているのです。
私は、飼い猫が外から帰って来たのだろうな……くらいにしか思わず、そのままゲームを続行していました。
ちなみに当時、実家には猫二匹と犬一匹がいました。猫はオスとメスの夫婦でして、メスの方はおっとりしていましたが……オスの方は若干ではありますが血の気が多く、犬に猫パンチを食らわしたりしていたのであります。
さて、私はそのままゲームを続行していましたが……ふと気づくと、オス猫のゴルゴ、通称ゴルが何かを咥えたまま歩いて来るのが視界の端に映りました。
ちなみに、猫を飼っている人なら誰しもが知っていることですが、猫は獲物を捕らえると飼い主に見せに来る習性があります。
うちのゴルもまた、外で虫などを捕らえて見せに来ることがありました。仕方ないので「おお、よくやったぞ」と誉めてあげていたのです。
そのため、今回もまた何か捕まえてきたのか? と思ったわけなんですよ。
で、私は横を向きました。半死半生の虫でも放置されたら困る、そう判断したからです。
しかし次の瞬間、私は硬直しました。
うちの猫が咥えていたものは、細長い紐のような何かでした。ワニ革のベルトのような色をしており、明らかに虫ではありません。
さらにゴルは、咥えていたものを落としました。すると、その紐はバッタンと跳ねるような動きをしたのです。
つまり、それは紐などではありません。蛇だったのです。
当時、私の実家は東京にありました。下町の汚い場所でしたが、一応はギリギリ二十三区内なのです。たまにネズミが道路を横切ったりはしますが、実物の野生の蛇など見たことがありません。
なのに今、家の中に蛇がいるのです――
「ひゃああ!」
私は思わず悲鳴を上げました。すると、ゴルは怒られたと思ったらしく、びっくりしたような表情で私を見ました。「えっ、ちょっと何? もしかして怒ってるの?」とでも言いたげな様子です。
当然ながら、私は怒るどころではありません。蛇を何とかしてくれ、と思っています。しかし、ゴルには通じません。私の様子を見ています。
その時、救世主が現れました。どこからともなく現れたのはメス猫のベルベット・通称ベルです。ベルは普段はのんびりやさんですが、ご飯が絡むとゴルを押し退けていく強さは持っていました。
このベルは、悶えている蛇を見るや否や、嬉々として飛びかかって行ったのです。一方、ゴルはベルと蛇との戦い……いや、蛇をなぶり殺しにしているベルの姿をじっと見ています。
そんな中、私は蛇をいたぶる猫らの姿を震えながら見ていました。情けない話ですが実話です。瀕死の状態で、バッタンバッタン暴れる蛇をいたぶる猫……私は、怯えた幼子のように見ていることしか出来なかったのです。
しかし、突然ベルは動きを止めました。何かを察知したらしく耳をピンと立てたかと思うと、大急ぎで下に降りて行きます。
続いて、ゴルも動きました。しかし、ゴルは何を思ったか死にかけの蛇を咥えたかと思うと……階段をとことこと降りて行ったのです。
その時、私は悟りました……ああ、誰か帰ってくるんだな、と。
猫を飼っている方には説明不要でしょうが、猫は聴力が凄く、人の足音やちょっとした息遣いなどを聞き分けます。飼い主が帰って来た時には、玄関で出迎えてくれたりします。
その時も、猫夫婦は帰ってくる誰かを出迎えるために、玄関へと向かったのです……死にかけた蛇のおまけ付きで。恐らく、蛇を捕まえたことを誉めてもらいたかったのでしょう。
で、私はどうしたかと言いますと……何事もなかったかのように、ゲームを続行しました。自分の部屋さえ無事なら、それでいい。後は親たちが何とかするだろう……当時の私は、こんなロクデナシでした。
やがて、下から母親のものらしき声が聞こえてきました。罵声のような声です。すると今度は、下にいるはずのバカ犬ブッチャー縮めてブチャが、何を思ったのかワンワン吠え出しました。
ブチャは恐らく、蛇の匂いや母親の罵声から我々が犬を仲間外れにして遊んでいるものと誤解し「やい! お前ら、何遊んでるんだ! 俺にもやらせろ!」と言っていたようです。
一方、私は聞こえないふりをしながらゲームで遊んでいました。面倒くさかったからです。
しかし、この騒動にも終わりが訪れます。
うちの母親は烈火のごとき態度で、私に蛇を始末しろと言ってきました。仕方ないので、手にゴム手袋をはめ、さらに腕にぐるぐるとバスタオルを巻きつけました。警察犬の訓練で犯人役が腕に付けている、プロテクターのような感じですね。
ゴム手袋とバスタオルで武装した私は、まず猫夫婦に猫用ウェットフードの缶詰を開けてあげました。すると、猫夫婦は蛇を無視し、ウェットフードへと向かって行きます。二匹並んで、美味しそうに食べ始めました。
次いで、私は蛇を拾い上げビニール袋に入れ、口を縛って外へ出ました。蛇は死んでいるのか生きているのか、動こうとしません。
どうしようか迷いましたが……仕方ないので、公園のゴミ箱にビニール袋ごと捨てました。
ちなみに、バカ犬ブチャはずっと吠え続けていました。自分だけ蛇と戦えなかったのが、よほど悔しかったようです。仕方ないので、帰った後にブラシで背中の毛を撫でてやりました。
ダジャレのつもりはありませんが、蛇足です。数年前に近所の公園で蛇が出たのですが、保健所の人たちが数人来て結構な騒ぎになっておりました。都内の人間にとって、蛇は天敵なのであります。




