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エッセイ書いたんだよ!  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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必殺シリーズの変化

 先日、アニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』が最終回を迎えました。私としては、まあ仕方ないかな……と思えるラストでした。しかし、『オルフェンズ』の最終回が気に入らない人も相当数いるようです。主人公を初めとするかなりの数のキャラが死んだ上、敗北のような形での幕引きが叩かれているようですね。個人的には、いやいや『TEXHNOLYZE』のラストに比べれば救いはあるよ……などと思いますが、一概に比較は出来ないでしょう。

 まあ個人の意見や考えについて、とやかく言うつもりはありません。色々と矛盾点もあったようですし、ああいう展開にした以上は叩かれても仕方ないでしょう。ただ、キャラの死という点については思うところがあります。時代劇『必殺シリーズ』の変化を、ついつい思い出してしまうんですよね。




 一応説明しますと、必殺シリーズとは『必殺仕掛人』から始まり今も続いている時代劇のシリーズです。「晴らせぬ恨みを晴らし、許せぬ人でなしを消す」という言葉に象徴されるように、彼らはれっきとした殺し屋であり裏社会の住人でもあります。もっとも他の殺し屋との違いは「許せぬ人でなしを消す」という一点ですが。

 故・藤田まことさん演じる中村主水が名物キャラとなり、現代も続く人気シリーズではあるようですが……実はこのシリーズ、前期と後期では大きな違いがあります。それは、殉職者の存在です。


 かつて『暗闇仕留人』という作品がありました。必殺とは付いていませんが、これも必殺シリーズです。中村主水も登場していましたが、物語の中心にいたのは……石坂浩二さん演じる糸井貢という男です。

 この糸井、もともとは蘭学者でした。ところが、開国の思想ゆえに幕府から追われる羽目になります。しかも、妻は持病があり体が弱く薬が必要な身……彼には、金がどうしても必要でした。そのため、中村主水と組んで裏稼業に手を染めていきます。

 ところが、最愛の妻を他の組織との抗争で失いました。やりきれない思いを抱えながらも、裏稼業を続けていく糸井。しかし己の内に生じていた疑問に耐えきれなくなり、最終話『別れにて候』で、中村主水に自身の思いをぶつけます。


「俺たちは今まで何をしてきた? 世の中は少しでも良くなったか? 俺たちに殺られた奴らにだって妻や子がいたかもしれないし、好きな奴だっていたかもしれないんだ」


 殺された悪党にも、それまで生きてきた背景があり、関わってきた者たちがいる。自分たちのやっていることは何だ? 悪党のやっていることと、どこが違うのだ? 糸井の疑問に、主水は即座に答えることが出来ません。

 この後、糸井は最後の仕事と決め、皮肉にも開国論者である松平玄藩頭を殺しに行くのですが……松平の「わしを殺せば、日本の夜明けが遅れるぞ!」という一言を聞いた瞬間に躊躇し、返り討ちに遭い命を落とすのです。

 ちなみに、糸井が死んだ後……ラスト間際で松平(糸井が殺られた直後に中村主水が仕留めました)の娘と、松平の手下に殺された職人の娘が雪の降る道ですれ違うシーンがあります(お互いのことは全く知りません)。どのような人生を送ったにせよ、雪は全てを平等に白く染めていく……そんな諸行無常な世の中を暗示しているように思えました。単なる私の妄想なのかもしれませんが。


 その後も必殺シリーズは続いていき、作品が終わるたびに殉職者を出していきました。

 彼ら殉職者の存在は、視聴者に対し……中村主水を初めとする殺し屋たちも、しょせんは悪の側にいる人間だということを伝える役割を担っていたのです。また生き延びた者たちも、いずれはこのような無残な死に様を迎えるという哀れな末路を暗示していた訳です……前期の必殺シリーズには、そんなハードな一面がありました。

 そう、前期必殺シリーズの根底にあるものは……どんな大義名分があろうとも、人の命を奪うなら業を背負うことになる。命を奪う稼業にいる以上、いつかは必ず報いを受けることになる。殺された善人の恨みを晴らすということは、自らが殺した悪人の家族や仲間たちからの怨念をも肩に背負うことになる……その思想が徹底されていたと思うのです。

 ですから、前述の糸井貢の最後の問いかけは、まさに前期必殺シリーズを象徴していたのですね。


 その姿勢に明確な変化が生じたのは、『新必殺仕事人』(新必殺仕置人とは違います)です。この作品に前作『必殺仕事人』より引き続き参戦していたのが、中村主水と飾り職人の秀でした。

 三田村邦彦さんが演じていた飾り職人の秀は、当時は凄い人気だったそうです。私はリアルタイムでは知りませんが、特に女性ファンが多かったとか。若かりし頃の三田村さんは、本当にカッコよかったですからね。ちなみに当時の必殺シリーズにはイケメン枠があり、秀はその枠でした。前述の糸井貢も、その枠にいたのです。

 この秀ですが、実は『新必殺仕事人』の最終回で殉職する予定でした。ところが、その話がどこからかファンに洩れました。するとファンは助命嘆願書を書き、多数の署名を集めて番組の制作会社に送ったそうなのです。結果、秀は殉職を免れて後のシリーズにも参戦していました。

 そして、これを期に必殺シリーズは大きく変わりました。ハードな部分や重苦しい雰囲気が薄くなり、代わりにふざけた描写が多くなりました。いちいち挙げていくのも面倒なほどに。

 もっとも、前期の必殺シリーズにもふざけた描写は多々ありました。しかし、それらはあくまでもスパイスの役割を果たしていたに過ぎません。前期必殺シリーズの根本の部分は、時代劇でありながらハードボイルドでもあったのです。

 例えば『必殺仕置屋稼業』では殺しの現場を見られた市松という仲間を、中村主水は別の仲間に見張らせます。「もし市松が裏切るような素振りしやがったら、構わねえから殺せ」との言葉を添えて……。

 また『必殺仕業人』では……敵対する組織に顔を知られた仲間のやいとや又右衛門に、中村主水は「やいとや! 死んでもらうぜ!」と言いながら刀を抜いています。紆余曲折の後、何とか丸く収めましたが。

 さらに『新必殺仕置人』では、その中村主水が仲間たちにより壮絶なリンチを受けます。殺すべきだった標的を主水が捕らえてしまい……仕置人である念仏の鉄は裏切られたと誤解し、主水の手足の関節を外した後に殺そうとしました。後に主水は鉄に対し「俺はてめえより長生きして、てめえが獄門に掛けられる所を見てやるぜ」と毒づいておりました。

 ちなみに、この念仏の鉄は山崎努さんの演じた名物キャラです。山崎努さんは身長もさほど高くないですし、体もゴツい訳ではありません。にもかかわらず、視聴者の目には鉄は大きく強そうなキャラに映っていたのです。これはやはり、山崎努さんの演技力でしょうね。

 この念仏の鉄の生きざまと死にざまは……必殺シリーズのファンの間では語り草となっております。『新必殺仕置人』こそが最高傑作であると評するファンも多いですが、それはやはり鉄の存在ゆえでしょうね。飾り職人の秀が後期を代表するキャラとするなら、念仏の鉄は前期を代表するキャラといっても過言ではないでしょう。


 話を戻します。前期に比べると、後期必殺シリーズは完全に家族向けでしたね。悪人が善人を泣かせ、その悪人を正義の味方である仕事人チームが成敗……という物語へと変わってしまったのです。

 その上、殉職者が出ることも無くなりました。各作品の最終回では、何か事件が起きて仕事を続けることが困難になり、最後の大仕事を終えた後あっさり解散してしまう……そこにあるのは、悪の組織を壊滅させて去り行くヒーローのようなノリでしかありません。

 必殺シリーズは『水戸黄門』や『暴れん坊将軍』のような勧善懲悪の作品へと変化したのです。見所といえば、派手な立ち回りや奇抜な殺し技だけですね。

 私は、その変化が悪いとは言いません。大衆ウケという点を考えた場合、それは仕方ないことなのでしょう。事実、それゆえに必殺シリーズは生き長らえることが出来たわけですから。

 ただ、個人的には寂しい気がします。私が必殺シリーズにハマった理由、それはハードな世界観ですから。派手な殺陣や勧善懲悪のストーリーには、欠片ほどの興味も持てないですね。


 そして私は思うのです。『鉄血のオルフェンズ』にキャラの存命およびハッピーエンド希望の署名入り嘆願書が来ていたら、制作スタッフはどうしたのだろうか……と。私にはその答えは分かりませんが、いずれにしても確かなことがあります。いつの時代であろうと、人気キャラが死ぬと叩かれるんだな……ということですね。「今は先行きが不安定な時代のため、ストレス展開は嫌われる」という意見を聞いたことがありますが……結局はどんな時代であれ(たとえバブルの時代であったとしても)、視聴者は人気キャラの存命とハッピーエンドを望むようです。

 まあ私も、ハッピーエンドは嫌いではありません。しかし、創作物が全てハッピーエンドになってしまう世界というのは明らかにおかしいと思いますね。少なくとも、私の記憶に深く刻まれた作品は……苦味のある終わり方をしているものばかりでした。

 もし、あなたの作品に……それもハードでシリアスかつキャラが容赦なく死ぬような作品に「あのキャラは殺さないでくれ。最後は是非ともヒロインとの幸せ大家族ENDで」なる感想が来たら、あなたはどうするでしょうか。まあ、どんな選択をするかは人それぞれです。読者が見たいと望むものを与えられる能力もまた、プロの重要な資質でしょうから。


 蛇足かもしれませんが、必殺シリーズは今もスペシャルドラマとして、年に一度くらいの割合で放送しております。

 私の正直な気持ちを言わせていただくなら、前期必殺シリーズの功労者である火野正平さんに対する扱いの酷さと迫力のないジャニタレのお粗末さには憤りすら感じておりますが、必殺シリーズの入り口としてはちょうどいいのかもしれません。興味を持たれた方は観ても損は無いかと……。







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