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エッセイ書いたんだよ!  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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記憶の改竄

 人は皆、自身の思い出を美化するものです。こんなことは、今さら書くべきことではありませんが。

 仕事などで付き合いのある、いい年齢になったオッサンたちと話すと、たいがい「俺たちの若い頃は〜〜」「それに比べて、今時の若い奴は〜〜」などと言い出す人が、必ず一人はいるんですよね。

 そんな人に、若い頃にどんなことをしていたのか聞いてみると……まあ、とんでもない武勇伝が次から次へと飛び出したりします。その話の最後には「今の若い奴は、便利すぎて可哀想だよな」などと言ったりもします。

 結局、こういう人たちは今の自分の生活がつまらないからこそ、そんなことを言うのかもしれません。今の生活が刺激的で楽しいものであるなら、若い者のことなど気にはならないはずなのですが。


 さて、少年あるいは青年たちが何かしら罪を犯したとしましょう。罪名は何でも構いません。

 で、その犯罪がワイドショーなどで取り上げられたとします。

 そんな時、たまに元ヤンキーという経歴の有名人が登場したりしますね。この元ヤンキーの有名人は、大抵の場合こんなコメントをします。


「俺らの時代には、こんな奴はいませんでしたよ。みんな、それなりに仁義ってものを知ってましたし」


「今の若い奴らは、限度ってものを知らないんですよ。俺たちも昔はさんざん悪さしましたけど、限度はわきまえてました」


「いじめ? そんなの、やったことないですよ。俺らは、強い者に向かって行ってナンボでしたから」


「今時のガキのやってることは、はっきり言って情けないですよね。俺も相当ヤンチャしましたが、卑怯なな真似だけはしたことないですから」


 などのようなコメントをする人が多いですね。

 この元ヤンキーの人たちが、本当に立派で筋の通った人間であるかは不明ですが……一つ言えるのは、元ヤンキーという人種は自身の過去を美化する癖があるということです。


 以前、私は友人のジャン(もちろん仮名です)と飲んだことがありました。その場には、ジャンの彼女およびジャンの同僚もいたのです。さらに、ジャンはかつてヤンキーでした。極端に悪い奴ではありませんが……かといって清廉潔白な人格とは言えない男です。はっきり言ってしまえば、中途半端な奴でした。もっとも、私も似たようなものでしたが。

 そんなジャンですが、酒が進むにつれ、彼女の前で自身がいかに凄い男であるかを語り始めました。

「俺はいじめなんか、したことねえよ。むしろ、いじめなんかする奴を、後ろからぶん殴ってたからな」

 そんなことを言っていたかと思うと、ジャンは私の方を向きました。

「なあ、そうだろ赤井?」

 私は唖然となりました。ジャンは、断じてそのようなタイプではありません。むしろ真逆です。ヘラヘラ笑いながら弱い生徒を殴ったり罵倒したりする姿を、たびたび目撃したことがあります。

 なのに「いじめなどしたことがない」などと真顔で言い、しかも私に同意を求めてくるとは……正直、呆れました。

 ただ、そこで「おいおい、嘘つくな」などと言ったところで、誰も得はしません。仕方ないので、

「あ、そうだったかな。俺、ちょっと覚えてない」

 と言っておきましたが。


 このジャンという男は嘘つきである、と言ってしまえばそれまでです。ただ、そんな単純なものでもないような気がするんですよ、私は。ひょっとしたら、ですが……ジャンは、自分の記憶を改竄してしまっているのではないかと考えています。

 恐らくジャンには、自身の行動(弱い者いじめ)を取るに足らないもの……と認識しているのでしょう。あるいは、弱い生徒を殴ったことを「あいつは悪い奴だから凝らしめてやった」などと、自身にとって都合のいいように記憶を改竄している可能性もあります。

 この記憶の改竄というものは、本当に厄介でして……嘘をつきまくっている人の中には、自分の嘘を真実であると思いこんでしまうタイプの人間がいます。恐らくジャンも、自身にとって都合のいいような記憶しか残していないのでしょう。さらに、都合の悪い記憶は忘れ去る……被害者にしてみれば、なんともふざけた話ではありますが。

 仮にジャンのような人間がおっさんになり、少年犯罪に対しコメントを求められたとしましょう。彼は、きっとこう言うでしょう。

「こいつら最低だね。俺たちの時代には、こんなことする奴は一人もいなかったよ。みんな、仁義ってものを知っていたからね」

 こんなことは今さら言うまでもありませんが、少年犯罪は過去の方が遥かに多く、また凶悪です。特に『名古屋アベック殺人事件』『女子高生コンクリート詰め殺人事件』などは、今の少年犯罪など比較にならないのでは……と思わせてくれます。

 この他にも、凶悪な少年犯罪はあります。調べれば、いくらでも出て来るでしょう。それらのほとんどが、昭和に起きた事件です。

 にもかかわらず、ワイドショーなどでは今の少年犯罪について派手に報道しています。あたかも、少年犯罪が酷くなっているかのように。

 これは結局、ワイドショーを作る側が観ている側に対し媚びているのでしょうね。

 テレビのワイドショーを好んで観る世代は、今や昭和生まれのおっさんおばさんばかりです。そんな彼らにとっては、今の若者たちは「なっていない」存在であって欲しい……そこで登場するのが、冒頭に登場したようなコメンテーターです。

「今時の少年は、本当にどうしようもないですよ。俺たちの時代では、考えられないようなことをやりますからね」

 その言葉にうんうんと頷き、「今の若い奴は、本当にどうしようもない」などと飲み屋でぼやく……そんな世代の人間たちに媚びた番組を作っているのではないでしょうか。

 そういえば、とあるコメンテーターが「少年犯罪は増えていない。むしろ減っている」との意見に対し、こんな発言をしました。


「何も分かっていない。昔の少年犯罪は金目当ての単純な犯行が多かった。しかし今では、動機の分からない危険な犯罪が増えている。今の少年たちの方が危険だ」


 動機の分からない……調べてみると、昔も訳の分からない少年犯罪はあったのですが。百歩譲って、このコメンテーターの言っていることが本当だとしても、犯罪の件数自体が減っているのは、実にいいことだと思うのですが……そう思うのは、私だけでしょうか。






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― 新着の感想 ―
[一言] 昨日から今日にかけて、こちらのエッセイを少しまとめて拝読致しまして。(あ、感想欄が複数に渡り、面倒なことになっていて申し訳ないです……←でも書く) この『記憶の改竄』以前にもいくつか近いこ…
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