詐欺師の怖さ
先日、交流のあるユーザーさんが詐欺まがいの手口に引っかりそうになる、という活動報告を書かれているのを見ました。
何人ものユーザーさんが、その活動報告にコメントされていて、みんな優しいな……などと思ったのですが、中には「騙されるのは老人や純粋な人だけで、俺は騙されない」というような意味のコメントをされている人もいたのです。
まあ、このコメントをされた人も善意から言ったのでしょうし、特定の誰かを叩くのが目的ではないので、これ以上は何も言いません。
ただ、私はこのコメントを見て考えてしまいました。人間には、騙される方がバカ……という意識があるのではないだろうか、と。
私はこれまでに、詐欺まがいの手口に引っ掛かったことはあります。もっとも、私は貧乏人なので金は失いませんでしたが……しかし、詐欺師もしくは詐欺まがいの犯罪者連中の手口の怖さは、少しは理解しているつもりです。
なので今回は、私の体験および見聞きした話の一部をこちらに紹介します。もっとも、これを書いたところで、その手口の怖さが伝わるかどうか不明ですが。
以前にも書きましたが、私は拉致され、軟禁されたことがあります。とはいっても、相手は暴力を用いてはいません。与太郎(仮名です)という男は、私の先輩だったわけですが……例えば、あなたの先輩にあたる人が連絡してきて「ちょっと会わないか」と言われれば、会ってしまいますよね? 「俺は会わない」と言われたら、それまでですが。ただ、そんな人が他人と良好な関係を築けているのかは疑問ですが。
話を戻します。私は、与太郎と会った直後に車に乗せられました。「ちょっと付き合ってくれ」の一言で、私は数時間ほど車に乗せられていたのです。その間、ずっと与太郎の武勇伝を聞かされ続けながら。
今にして思えば、これは一種の軽い洗脳だったわけですね。車という密室に近い状態の中で、延々と自身の武勇伝を聞かせる……これは、宗教団体やネズミ講っぽいインチキ商法が用いる手口と共通する部分があります。同じ曲をずっと聴かされているうちに、その曲が何故か好きになっている……こんな現象は、よくあることです。私もまた、同じような状態に、知らず知らずのうちに陥っていたわけですね。
この後、私は与太郎により軟禁されるわけです。逃げようと思えば、逃げられない状況ではありませんでした。しかし私は、言われるがまま大人しく軟禁されていたのです。その理由の一つが、車の中でのやり取りにあったのは間違いありません。思考力のほとんどを奪われていた状態だったわけですね。
昨今の裏社会の人間は、暴力を実に上手く用いるそうです。とはいっても、被害者に直接手を出すわけではありません。そんなことをすれば、訴えられて終わりです。
では、どのように暴力を用いるかと言いますと……自分の仲間もしくは子分に暴力を振るいます。目星を付けた人間の前で、仲間や子分をボコボコにするわけです。
それのどこが怖いのだ、と思った人がいるかもしれませんが……そういう人は、自身が暴力の怖さについて無知であることを自覚すべきです。
すぐ目の前で、いきなり見知らぬ他人同士が殴り合いを始める……これは、よほど暴力慣れしている人間でない限り怖いものです。その場で、急に体が動き対応できる人は少数派でしょう。
ましてや、相手方の事務所にいる状態で、向こうの人間が子分らしき者を一方的に殴っている光景を目の当たりにする……これは、思考が停止してしまうでしょう。
そんな時に、まともな話し合いが出来るでしょうか? 一般の学生や勤め人では、まず不可能でしょう。相手のペースに呑み込まれたまま、言いなりにハンコを捺すなりサインをするなりしてしまうものと思います。
ちなみに、私の知人は三人のヤクザにラブホテルの一室に連れ込まれたそうです。当時の知人は、ヤンチャが過ぎて地元のヤクザに目を付けられていたそうですが……それはともかく、部屋の状況はカオスだったそうです。一方的に子分格らしきヤクザAを殴りまくるヤクザB。
その横で何事もないかのように、知人はコンコンとヤクザCに説教されたそうです。「あのなあ兄さん、ヤンチャするのもいいけどな、いい加減にしとかねえと後悔することになるよ。両親を泣かせたくないでしょ?」のようなことを言われ、知人は思考停止状態でウンウンと頷くことしか出来なかったそうです。
基本的に犯罪者もしくは犯罪者に近い連中は、相手の心の隙を突くのが非常に上手いです。正直言って、プロの詐欺師に狙われたら、一般人ではどうしようもありません。詐欺師の相手の思考を停止させる技術は、まさにプロレベルです。一度目を付けられてしまったら、我々で対抗するのは非常に難しいでしょうね。
もちろん、騙されやすいタイプというのは存在します。そういうタイプの人は、常人より詐欺の被害に遭いやすいと言えるでしょう。だからと言って「騙される方がバカ」などと言って切り捨てるのは……あまりにも短絡的だと言わざるを得ないですね。
現実の詐欺は、画面に文字で表示されるものではありません。ニュースのように他人事として気楽に見ていられるものでもありませんし、常に平静な状態で対応できるものでもありません。
例えば振り込め詐欺はかれこれ二十年以上前からありますが、未だに引っ掛かる人が後を絶ちません。引っ掛かった人の大半が「まさか自分が」との思いを抱いたそうです。振り込め詐欺の被害者数は、トータルで見ればかなりの数になるでしょうが、その被害者の全てが「バカ」だと決めつけるのは無理があるでしょう。
最後に「俺は詐欺師なんかに騙されたことはない」と豪語している人は、私から見れば「俺はケンカで負けたことがない」と豪語するチンピラと同じものを感じますね。そういうチンピラは、見栄でそのセリフを吐いているか、本当に危険な相手とケンカをしたことが無いかのどちらかでしょうね。




