ヤクザ屋さん
日本の映画やドラマなどでは、ヤクザの人たちがちょいちょい登場します。その描かれ方ですが……弱きを助け強きを挫く義賊のような存在か、もしくは徹底的な悪役か、のどちらかですよね。主人公の親友であるヤクザが、ピンチの時に助けに来る……なんてのは有りがちな展開です。
そういえば昔『ごくせん』なるドラマが大ヒットしてました。まあ厳密に言えば、この作品はヤクザではありませんが……日本人の意識の中には、ヤクザに対し「怖い」という意識と同時に「憧れ」も持っているのかもしれません。
さて、現実のヤクザはどうかと言いますと、正直なところ今の私は全く接点がありません。そのため、最近の詳しい事情などは全く知りません。しかし、以前にはヤクザの知り合いもいました。そこで今回は、私の知り合いのヤクザについて語ります。
なお、これはノンフィクションです。したがって、チャカ(拳銃)を見つけたり抗争に巻き込まれたり……などという面白おかしい事件はありません。むしろ、セコい話ばかりです。面白味はありませんが、ヤクザのたちの悪さを理解する助けにはなるのではないか、と思います。
かつての知人である石野さん(仮名です)はヤクザでした。本人は「俺は百人の子分を使っている」などと言っていましたが、恐らくはチンピラに毛の生えたようなポジションだったのでしょうね。
この石野さん、ヤクザといいながらも、普段は何をやっていたのかは分かりません。確かなのは、当時の石野さんは覚醒剤依存性……俗にいうところのポン中でした。私の目の前で注射器を取り出し、射ち始めたのも一度や二度ではありません。
この時点で、普通の人はかかわりたくないと思うことでしょう。しかし、それだけではありません。
一時期、私のケータイに石野さんから定期的に連絡が来ていました。こんな内容です。
「赤井、ネタを仕入れたんだけどよお……買わねえか?」
一応、説明しますと……ここでいうネタとは、覚醒剤のことです。もちろん、私は断りました。
数時間後、またしても石野さんから電話がかかってきました。
「赤井、まいったよ……ネタ買いに来るはずだった奴が、たった今パクられちまったんだよ。兄貴分に金を渡さねえと、俺はヤキ入れられちまう……」
こんなことを言って、いかにも悩んでいるような素振りをします。素振りと言っても、電話越しなのですが……ため息をついたり「あーあ」などと、わざとらしく声を出したり。
勘のいい方なら気づいたでしょうが、この後に石野さんはこう言います。
「赤井、すまねえが金を貸してくれ。金が無いと、俺も兄貴分にヤキ入れられるんだよ」
こんなことを言ってくるのです。そして、私から金を借りていきます……数千円から二万円ほどの、端金を。
「ありがとう。赤井、何か困ったことがあったら俺に言えよ」
いや、あんたの存在こそが今もっとも困っていることだよ、と私は心の中でツッコミました。
初めのうちは、こんな電話が月に一度だったのですが……やがて週に一度くらい来るようになり、付き合いきれなくなった私は電話番号を変えました。
後で知ったのですが、石野さんはあちこちで似たようなことをしていたそうです。その手口は、犯罪者としても実にセコいやり口でした。
その後、また別のヤクザと関わるようになったのですが……その男こそ、『ほんのちょっとした差』の章にも登場した小英さん(もちろん仮名)です。この人は以前にも書いたように、チンピラに毛の生えたようなポジションの人です。もらった名刺にも、役職は書かれていませんでした。ただし、石野さんよりは立場が上であるようには思えました。もちろん、真相は不明ですが。
この小英という人、当時は月に一度ほど、私に電話をかけてきていました。内容は他愛のないものです。「赤井、何か困ったことないか?」とか「誰かと揉めてたら、俺に相談しろ」などといったものでした。たまに「口座を売ってくれ」みたいな話も来ていましたが、基本的には距離を置いた付き合いをしていたのです。
ところが、ある日のことです。突然、小英さんから電話がかかってきました。
「赤井、悪いけど○○社の××会に入ってくれ」
十年近く前に、電話で一回だけ説明を受けただけなので、詳細には覚えていませんが……○○社の××会(一応は堅気の会社です)に入ると、年会費の数千円と引き換えに、会報らしきものが月に一度、家に届くとのことでした。さらに、会員ならではの特典もあると言っていた気もします。
私は気が進みませんでした。話を聞く限りでは、××会もヤクザ絡みではないようです。しかし、そんな得体の知れないものに関わりたくはありません。後で、何が起きるか分からないですし……。
「すみません、そういうのは勘弁してください」
私は、そう言って断りました。ところが、こんな言葉が返ってきたのです。
「いや、駄目だ。入ってもらう」
その言葉に、私は混乱しました。この人、いったい何を言ってるんだ?
「えっ……ちょっと勘弁してください。そういうのは――」
「いや、駄目だ。お前はもう、人数に入ってるんだ」
「ですから、勘弁してください――」
「無理だ。こっちとしても、お前を頭数に入れてるんだよ」
こんなガキ大将が子分に命令しているようなやり取りが延々と続き、付き合いきれなくなった私は電話の電源を切り、番号を変えました。
まあ年会費数千円で済むなら、痛くも痒くもなかったのですが……絶対に、それだけでは終わらないだろうという考えもありましたので。それに、小英と縁を切るには、ちょうどいい機会であったのかもしれません。
私の付き合いのあったヤクザは、皆チンピラに毛の生えたようなランクの人間でした。なので、これが全てのヤクザの実像だとは言いません。ヤクザでも上に立つ人は、人格者もいるのかもしれません。
しかし、こんなタイプの人間が圧倒的多数なのは間違いないです。こんな連中と、わざわざ付き合いたいと思うような人はいないでしょうね。
「俺はヤクザの知り合いがいるんだぜ」
こんなことを言って自慢(?)する人がいますが、ヤクザと知り合いになっても、ロクなことになりません。言うまでもないことですが、関わらないのが無難です。
もし万が一、ヤクザと関わってしまったら……絶対に住所だけは教えないでください。住所を教えてしまったら、とんでもなく面倒なことになる可能性があります。私も、前述の二人には住所を教えていなかったために助かった部分はあります。住所を知られていたら……『闇金ウ○ジマくん』みたいな人が家に来ていたかもしれません。まあ、こんなことは言うまでもないことでしょうが、念のため。




