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エッセイ書いたんだよ!  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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ギャンブル必勝法

 皆さんは、ギャンブルが好きですか?

 私はここ数年、全くギャンブルをしていません。かつてはパチンコや麻雀などをしていたのですが……今はきれいさっぱり足を洗いました。「足を洗いました」などと言うと、若い頃のワル自慢をしているアホなオヤジのようですが、単に色んなことに忙しくなって時間が取れなくなっただけです。


 さて、対人ギャンブルにはごく簡単な必勝法があります。それは何かと言いますと、自分より下手な人間とだけやる……というものです。特に麻雀などは、一見すると運の要素が強いように見えますが、あれは上手い人には絶対に勝てません。一時的なツキにより、下手な人が上手い人に勝つこともありますが……長い目で見れば、上手い人が確実に勝っているはずです。

 また、ポーカーやブラックジャックのようなカードゲームもそうらしいです。私はやったことが無いので分かりませんが、出る引くのタイミング、賭ける金額の濃淡の付け方、相手のハッタリを見抜く眼力などなど。詳しいことが知りたい人は、故・阿佐田哲也先生の小説や福本伸行先生のマンガを読んでみるといいかもしれません。

 対人ギャンブルはよほど単純なものでない限り、上手い人には絶対に勝てない……この事実だけは覚えておいてください。上手い人とやり続けるのは、金をドブに捨てているのと同じです。もっとも、付き合いというものもありますから、難しいところではありますが。


 さて、今回登場する名取(仮名です)という男は、ギャンブルで稼いでいた時期がありました。とはいっても、名取さんは凄腕のギャンブラーでもなんでもありません。むしろ、ギャンブルの腕は三流以下ではないかと思われます。

 そんな名取さんが、なにゆえにギャンブルで稼げたか……言うまでもなく、自分より弱い人間のみを相手にしていたからです。

 この名取さんという人、一見すると人の良さそうな雰囲気を醸し出しています。アメリカ人俳優のマシ・オカを痩せさせたような感じですね。とても悪さをしそうなタイプには見えません。事実、人当たりはとても良いです。

 ところが、その腹の中は真っ黒でした。名取さんは一昔前、自分の家にカモを呼び出しては、ギャンブルをして金を巻き上げていたのです。

 そんな名取さんの手口ですが、まずはあちこちに顔を出し、カモとなりそうな人物を物色します。

 カモとなる人物の条件ですが、第一に気が弱いことです。これはある意味、ギャンブルの腕よりも重要な条件のようですね。気が弱く、NOと言えないタイプでしかも友だちが少ない……そんな人間を見つけると、名取さんは言葉巧みに近づいて行きます。

 そして、名取さんはカモと親しくなります。カモは友だちが少なく気が弱いため、名取さんとあっという間に仲良くなる訳ですね。

 ここから先が凄いのですが、名取さんはカモを完全に支配するような、そんな人間関係を作り上げてしまうそうなのです。どんな手段を用いるかは不明ですが、気が弱くNOと言えない人間が相手ですから、さほど難しくないのかもしれません。私には無理ですが。

 さて、名取さんの言うことには逆らいにくいような、そんな主従の関係にも似た間柄になった時……名取さんは手のひらを返すのです。

 その後、名取さんは暇が出来ると、カモを自宅に呼び出します。そしてカードゲームや花札をやる訳ですが、これはもう酷いものだったとか。相手はルールもよく知らないような素人です。当然ながら、名取さんには勝てるはずがありません。

 そんな人間を相手に、名取さんは連日大勝ちし、容赦なく金をムシリ取ったそうです。時には大麻などを相手に吸わせ、判断力を低下させてからゲームをすることもあったとか。

 はっきり言ってしまえば、こんなものはギャンブルとは言えませんよね。カツアゲするチンピラと同レベルです。しかし、カモになった人間は、名取さんに素直に金を払い続けます。この時の心理状態はどんなものなのか……私は精神科医ではないのでわかりません。ただ、カモになる人間は基本的に気が弱く真面目なので、払えと言われれば払ってしまうのでしょうか。

 さらに名取さんは、金払いの悪くなったカモにこんなセリフを吐いたとか。


「負けたら、きちんと負け分は払えよ。俺だって、罪悪感を感じてるんだよ。こんなこと言わせる前に払ってくれよ」


「お前がちゃんと金を払ってくれれば、俺ももっと楽な生活が出来るんだよ」


 おいおい、と言いたくなるような言葉ですよね。悪いのは全て、負け分を払わないお前だ……というのが名取さんの理屈なのでしょう。自分の行動が卑怯だとは、全く思っていません。悪いのは全て他人……サイコパスの思考ですね。

 そもそも、まともな貸借関係ではないギャンブルの負け分など、払う義務もないのです。ましてや、この場合はギャンブルですらありません。例えるなら、大人と子供が腕相撲をやって、勝ったからといって子供の小遣いを巻き上げているようなものです。

 しかし、カモになった人間は名取さんに金を払い続けました。こんな人間関係は、端から見れば異常だとしか言い様がありません。この関係は、カモが金を払えなくなるまで続いたそうです。

 

 こんなことをしていたにもかかわらず、名取さんは今まで一度も警察に捕まっていないようです。それどころか、私の目の前では……自分は善人であるというアピールをしつこいくらいに繰り返し、善人エピソードも語っていました。もちろん、そのほとんどが嘘ですが。

 ここまでのところを読んで、名取さんにいい印象を持った方は一人もいないでしょう。ところが、名取さんの凄さはもうひとつあります。それは、カモ以外の人間に対しては、間違いなく善人だということです。

 名取さんは、会った人間を二種類に振り分けます。その内訳は……カモと、そうでない人です。この「そうでない人」に対しては、名取さんは気のいい人として接します。礼儀をわきまえた喋り方をして、態度も丁寧です。実際、周囲の評判は悪くありません。

 ところが、カモの部類に入れた人に対しては、かなり傍若無人な態度で接します。平気でこき使い、金を巻き上げ……その辺りの、顔の使い分けは凄いらしいです。

 噂では、DV傾向がある人も外面はいいそうですが、名取さんも似たような部分がありますね。

 ちなみに、私はこの名取さんに二回ほど会いましたが……初めて会った時、何か心を許すことの出来ない人間だ、という印象を受けました。前述のように、俳優のマシ・オカを痩せさせたような風貌ですが、目の動きや言動からは、小狡い性格の持ち主であるのを感じましたね。


 罪を犯せば、当然ながら罰を受けます。警察に逮捕され、刑務所に行くわけですが……罪を犯しても、罰せられることなく生活している人たちもいます。この名取さんは、やっていることはセコいですが、善か悪かで言うなら悪でしょう。にもかかわらず、のうのうとシャバで生きています。今は結婚し家庭を持っているようです。

 こういう人間を見ると、因果応報なる言葉がなんと当てにならないものか……と感じますね。


「のさばる悪を何とする。天の裁きは待ってはおれぬ。この世の正義も当てにはならぬ。闇に裁いて仕置きする。南無阿弥陀仏」


 時代劇『必殺仕置人』の前口上ですが、本当に天の裁きもこの世の正義も当てにはなりません。世の中には、我々の想像以上に多くの悪人がいます。名取さんは人間のクズであり、セコい小悪党ですが、誰からも裁かれずに平和に暮らしています。犯罪まがいの手段で、かなりの数の人間から金を巻き上げたにもかかわらず。

 皆さんも、世の中にはこんな人間もいる……ということだけは覚えていてください。これを読んでくださった皆さんが今後、この名取さんのようなクズ人間に出会うことのないよう祈ります。


 最後になりますが、名取さんと『悲しき前科者』の章で登場した小橋川さんとは同一人物です。






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