不思議な人たち
昔、友人に誘われ飲み会に参加した時のことです。私は完全なる人数合わせであり、当時は暇だったので参加しました。
周りはほぼ全員、知らない人ばかりでした。なので私は、仕方なく隅の方で飲み食いし、適当に周囲の人とニコニコ顔で当たり障りのない話をしていました。
そんな中、私の席の近くにいた一人の地味な雰囲気の女の子が、店の天井をじっと見つめました。
そして、こんなことを言ったのです。
「あっ、あそこにいる」
私は困惑し、彼女が視線を向けている方を見てみました。しかし、何も見えません。
すると横にいる別の女の子が、こんなことを言ったのです。
「ああ、この子、霊感が強いだよね。霊が見えちゃうんだよ」
私は正直、不快な気分になりました。こんな場で、何故そんなことを言うのか……オカルト系サークルの集まりならまだしも、一般人の集まりで、幽霊話なんぞしてどうするのだろうか、と。しかも、この場に本物の幽霊がいるなどと……店の迷惑を考えられねえのか、と思いましたね。
しかし、彼女は淡々とした様子で(恐らくはキャラ作りなのでしょう)室内を見回し、「うん、三人いるね」などと言っており、周りの人間を引かせていました……と言いたいところですが、その話題に食い付き「えっ、この店は幽霊いるの?」などと聞いていた奴がいたのも確かです。気難しい店主がいたら、「他のお客さんに迷惑なので、出ていって下さい」と言われそうですが、さすがにそれはありませんでした。
誤解されては困るのですが、私は霊や死後の世界を否定している立場の人間ではありません。はっきり言えば、霊がいようといまいと自分の人生には関係ない……と考えています。
また、巷に溢れている霊能者や超能力者といった人たちを否定するつもりもありません。あの手の人たちのほとんどはイカサマ師もしくは狂人だと聞きますが、見ている人たちがリアルだと信じているなら、それについてどうこう言うつもりもありません。
ただ、世の中には一般人に混じり、ひっそりと生活している自称・霊能者たちが存在しています。そんな、私が出会ってきた自称・霊能者を紹介します。もっとも、皆さんの周囲にも、こんな人はいたのではないかと思いますが。
高校生の時に同じクラスだった霊一(もちろん仮名です)は、一見するとおとなしい人畜無害な男でしたが……その中身は本当に最悪でしたね。「俺は霊が見えるんだ」などと、呼ばれてもいないのにアピールし、さらには「あそこに霊がいる」などと騒ぎ出す始末です。初めは、みんなも相手にしていましたが……だんだん「霊の見える俺は、お前らより偉いんだ」「俺は選ばれし者だ」的な態度を出すようになり、誰からも相手にされなくなりました。高校卒業後は、とある新興宗教に入信した、という噂を聞いたのが最後ですね。
また、バイト先にいた霊子(もちろん仮名です)は地味な感じでしたが……この娘も「霊が見える」などと、たびたび言っておりました。まあ、この霊子は大した害はありませんでしたが、彼女も時おり「霊が見えるアタシ凄い」みたいな態度を取ることはありましたね。霊一と似たようなパターンを踏襲した挙げ句、気がついたらバイトを辞めてました。
この人たちが本当に霊を見ていたのか、私には分かりません。ちょっとキツめのツッコミが来ると「見えるんだから仕方ない」などと言うばかりでした。ただ個人的には、彼らは見えてなかったと思っています。
ひねくれた見方ではありますが、彼らは結局「霊が見える」というキャラ作りをしていただけなんでしょうね。実際、二人とも何の取り柄も無い地味な風貌と性格の持ち主でしたし。そんな彼らが見つけたのが、「霊が見える」というキャラ作り……私はそう思っています。さらに、霊が見える自分をアピールすることで、特別な扱いをされたかったのでしょう。
まあ、どんなキャラ作りをしようが、それは本人の自由です。とやかく言う気はありませんが、せめて場所をわきまえて欲しいものですね。飲み屋で、ここに幽霊がいる……などと言い出すのは、完全なる営業妨害です。出て行ってくれ、と言われても文句は言えません。
さらに言うなら、自分のつまらない嘘が「本当に霊が見えている」人たちに対する侮辱になっているかもしれない、ということは自覚して欲しいものですね。
ついでに言うと、この問題はヤンキーの武勇伝に通じる部分があるかもしれませんね。本当にヤバいものを見ている人は、そのことを滅多に口にしない……というより、口に出来ないのではないでしょうか。
蛇足かもしれませんが、私は基本的には、霊や超能力といった話はほとんど信用していません。ただ実家にいた時、犬や猫が何もないはずの壁に向かい、威嚇するように吠えているのを見たことがあります。
また、猫が部屋の片隅を向いて「なぁ、なぁ」と親しげな様子で鳴いている姿も見たことがあります。この時は本当に怖くなり、猫を抱いて外に出ましたが……。
霊はいるかもしれませんし、いないのかもしれません。ただ一つ言えるのは、私にはその存在を知覚できないということです。




