暴力による反撃
先日ツイッターを見ていたら、こんなツイートを発見しました。
「いじめは、いじめられている側が暴力で反撃すれば解決するという意見がありますが……皆さんはどう思いますか? この意見に対する、皆さんの考えを聞かせてください」
私は、この意見には何も言えません。正しいかもしれませんし、正しくないとも言えます。暴力で反撃して解決したケースもあるでしょうから、一概に否定は出来ません。
ただ、暴力を振るうリスクについては、多少は知っているつもりです。そのリスクについては、ちゃんと知っておくべきでしょう。以前に書いたことと重複する部分はありますが、もう一度考えていただきたいんですよね。
まず知らなくてはならないのが、人を殴るのは簡単ではないということです。
喧嘩の強い人、もしくは喧嘩をしたことのない人には分からないでしょうが……気の弱い者が人を殴るというのは、非常に困難なんですよ。
単純な敵に立ち向かう勇気とか、そういう話ではありません。喧嘩慣れしてない者が人を殴ろうとすると、ほとんどがガチガチに緊張します。極度の緊張状態により、腕は上手く動きません。また舌はもつれますし、心臓はバクバク鳴ります。
この状態で人を殴ろうとすると、肩や腕に力が入り筋肉が強ばり、上手く動きません。速くて威力あるパンチを打つコツは肩の力を抜くことですが、格闘技経験の無いいじめられっ子がいざ人を殴ろうとしたら……ほとんどが力んだ手打ちのパンチになるでしょう。
また、打撃以外の技に関しても同様です。これ以上、詳しく書くと格闘技のエッセイとかぶるので、ここまでとしますが……とにかく、いじめられっ子がいじめっ子に立ち向かっていった場合、勝つのはかなり難しいでしょうね。緊張のあまり体が思うように動かないいじめられっ子と、暴力慣れしたいじめっ子……勝負にすら、ならないのではないかと。
もう一つ言っておきますが、喧嘩の後「お前も、なかなかやるじゃねえか」などと言いながら握手し、友情が芽生える……ヤンキー漫画などでよくある展開ですが、現実にはありません。むしろ、勝った側の使い走りになるのが現実です。
ましてや、いじめられっ子の場合「こいつ、俺に向かって来たからボコッてやったよ」などと、事あるごとに言われるようになります。そうした事例を、私は幾つも見ておりますので……逆に、喧嘩して親友になった、という事例は見たことがありません。
まあ、私の経験のみで全てを判断するのは間違いでしょうが、一つの参考にはなるでしょう。
話は変わって……友人は、かつて少年院と少年刑務所に行っておりました。少年院、などと一言で語っていますが……実のところ、そこそこの悪事をしないと少年院には入らないんですよ。店で万引きしたとか、町で喧嘩したとか、その程度では少年院には行きません。覚醒剤などの違法ドラッグをやったとしても、大概は保護観察処分ですみます。
つまり、少年院に行くケースは……よほどの悪さをしない限りありえません。その少年院に、いじめた相手を刺した者が入ってしまう……これ、珍しくないらしいんですよ。
いじめられっ子は、基本的に暴力が嫌いです。喧嘩の経験もありません。そんな子が、暴力で立ち向かおうとしたら……彼は恐怖ゆえ、過激な手段に出ます。
その手段の一つが、武器での襲撃です。いじめられっ子が、いじめっ子を刃物で刺す……これは、珍しいことではありません。結果、相手を殺してしまえば……少年院行きは避けられないでしょう。
ちなみに少年院は、成人刑務所よりもずっと陰湿な場所だという噂を聞きました。精神的に未熟な犯罪傾向のある少年たちを隔離し、一ヶ所に集める……それが、某ネズミーランドのような楽しい場所でないことは容易に想像できるでしょう。
実際、少年院に行くと……確実に性格が歪む、とまで言われました。さらに周囲の影響により、入る前より悪くなるとも聞いております。まあ、施設にもよるのかもしれませんが。
ここまでを読んで、大げさだと思われるかもしれませんね。確かに、私は事態が悪い方向に転がった場合のみを書いています。
しかし最悪の事態について触れず、最良の事態のみを言いたて「だから、いじめには暴力で立ち向かえば解決する」という意見は……間違っている、と言わざるを得ないです。
ですから、このエッセイを読んでいる人の中に、いじめに対し暴力で立ち向かおうと考えている人がもしいたなら……これだけのリスクがある、ということだけは理解してください。
最後に、私はいじめをなくせるとは思っておりません。某国営放送が「いじめをノックアウト」などという番組を放送していましたが……「いじめをノックアウト」などというタイトル、さらに元アイドルをMCに起用している時点で、認識の甘さが理解できるでしょう。
それよりも、まずはいじめられっ子に逃げる場所を教えてあげることの方がよっぽど有益ではないでしょうか。さらには、相談に乗ってくれるようなNPO法人の存在を子供たちに知らしめる方が遥かにマシでしょう。少なくとも、テレビ番組で語られるような綺麗事で解決するなら、誰も悩んだりしません。
 




