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牢の番人  作者: 真冬日
逃亡中
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視点がコロコロかわるので読みにくいかもしれません。そのうち書き直したいです…。



「王子、もう満足でしょう。陛下も王妃も心配しておられます。魔界へ帰りますよ」

「俺らも暇じゃないんでね」


フゥディエが水を汲みに離れた隙に、木の上から降りたったのは二人の男。

かつて逃亡前にフゥディエが城の廊下で遭遇したローブの二人組と同一人物である。


「嫌だ我は帰らぬ」

「まだ遊び足りないのか? そうだ。王子を監禁していた人間共の城をもう一度破壊しに行くのはどうだ。王子あの時参戦してこなかっただろ? 逃げ惑う人間って笑えるぞ。最後にそれで遊んで、そしたら帰ろうな?」


大柄な方の男が言い聞かせるように提案するが、アクスは不機嫌そうに首を横に振る。


「我はまだフゥディエと愛の逃避行を続ける」

「フゥディエというあの子供は恐らく私の姪、そして淫魔族です。本人に確認したところまだ16だというではないですか」


フゥディエという名に反応して眉を寄せるのは妙に色香の強い方の男だ。


「身体は王子同様、光宿の日を済ませたかのような成体ですがアレはまだ乳飲み子と変わりません。そのような者に世話をさせるとは恥ずかしくはないのですか王子。貴方よりも34も年下の赤子に負担を強いてどうするのです」


嘆かわしいと吐いた溜息にアクスは気まずそうにモジモジする。


「で、でもフゥディエも我と居て楽しいと…」

「あの子の身体は最早限界が近いのです。今のまま精気を摂取させずにいると栄養不足でいずれ倒れるでしょう。王子も気付いているでしょう、あの小さ過ぎる角に。新生児でももう少しマシなものを生やしています。なんと不憫な」

「倒れる……そうか分かった。フゥディエを早く魔界へ連れて帰ってくれ」


男の話を聞いて顔を青ざめさせたアクスは、哀しげに頷いた。


「そういえばフゥディエ、遅いな」

「あの子ならば、少し食事させようと思い放置しております。人間の精気など何人いようが腹の足しにはならないでしょうが、急に魔族の強い精気を取り入れ身体が驚いてはいけませんからね。離乳食代わりに丁度いい。戻って来るまでしばらく待っていましょう」






*********


さて、そんなやり取りをアクス達がしている時、フゥディエはまさに窮地に立たされていた。


(うっ……ここ…どこ?)


酷い頭痛に頭を押さえながら起き上がる。


「おう目が覚めたかいお嬢ちゃん。乱暴しちまって悪かったな」


先ほど草むらに隠れていた男が無造作に置かれている木箱に座ったままニタニタと笑っている。


「どこですかここは?」

「ここは俺らのアジトさ。汚ねぇ掘っ建て小屋だがまぁ住めば都だぜ」


重い頭を抱えたまま周囲を見渡す。

木で囲われた荒い作りのその空間は本当に汚い。

床には酒瓶や食べカス、脱ぎ捨てられた服が放り出されている。

薄汚れた窓からは光が入りにくく部屋の中は暗く更に空気はどこか淀んでいる。

そんな部屋の中には数十人の男達が床に転がる自分を嫌な笑みを浮かべて見下ろしていた。


「あ、あなた達は一体……」

「なに、怯えるこたぁねぇよ。俺達はただこの山周辺で生計を立ててる集団さ」

「そうそう。通りかかりの優しい人間から恵んで貰うボランティア団体みたいなもんだ」

「まぁ集まったモンはそっくりそのまま恵まれない俺達が頂いちまうんだけどな」


男達からどっと笑いが起こる。

その空気の悪さに危険を肌で感じ震えが止まらない。

しかしここで弱い姿を晒すわけにはいかない。

男達を真っ直ぐ睨みつける。


「……私に何かご用ですか?」

「おっとそんなに怖い顔するなよつれねぇな」

「しかしいいなその目。なんかゾクゾクする」

「お前山賊のくせにマゾかよ」


再び男達から笑いが起こるが、全員獲物に狙いを定めた鋭い光を目に宿している。

リーダーと思しき木箱に座る男はそんな周囲に苦笑しフゥディエに語りかける。


「あの男が来てから仕事がやり難くてよ。久々の女なんだ。皆手加減してやれねぇだろうが勘弁してくれや」


むさ苦しい髭面の間から凶悪に歪む口元が見える。


「しっかし珍しいもん拾ったな。黒とか俺達みたいな奴にはピッタリじゃねぇか?」

「ああ、いいもん落ちてたぜ」

「悪くねぇよ黒。胸はちっと足りねぇがこんだけの美少女に黒目黒髪とか神さんも罪作りなことなさる」

「アンバランスなもんって、なんかこう、メチャクチャにしてやりたくなるよな」


男達のガサツな手が一斉にフゥディエに迫る。


「っ!? いやっ……やめっ…」


フゥディエのあらゆる場所を触れ、掴み、揉みしだく。

ささくれ立った男達の太い指は乱暴で痛い。

あまりに不快なその感触に背筋の寒気が止まらない。

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

異常に興奮し息の荒い男達に囲まれる中で凄まじい嫌悪の渦に飲まれる。


しかしなんだろうかこの得体の知れない感覚は。

嫌悪の中に灯る一点の熱。

いや、これ知ってる。

そうだ、ヴァルの時にもこの不可思議な感覚を味わっている。

気持ち悪いのにそれだけではない。

自分を各々好きに弄る男達から立ち昇る熱気。

それが堪らなく……美味しい?

この感覚はそう、食欲。空腹が満たされていく充足感だ。


「な、で……? なんで……?」


何故今この時にそんなものを感じるのか。

自分の身体なのに理解出来ない。

でも美味しい足りない少ないもっともっともっともっともっとチョーダイ。


目の前の男達よりも信じられない己の思考に恐怖を感じた。

自分は本当に化け物だ。

この感覚に支配されて思考まで塗り潰されてしまうのか。


目の前に闇が広がる中で、ふと気になったのは木箱に座る男。

傍観を決め込んでいるのか座ったまま頬杖をついてニタニタと楽しそうに笑っているだけでフゥディエに触れようとしていない。

この男だけが、唯一美味しそうに感じない。


「あ…あ……た、すけて……助けて……」


恐怖に濡れる黒い瞳で思わず男に懇願する。

この男に縋るしかマトモな神経を保っていられる術が見つからなかったのだ。




多くの仲間達に囲まれ乱暴されるフゥディエが、濡れた瞳で助けを求める姿に男は見惚れた。無意識に喉が鳴る。

なんだか急に仲間達にフゥディエを分けてやるのが惜しくなってきた。


「どけ、俺が最初だ」


最初は手を出さずに獲物が苦しむ様をいつも離れた所で嘲笑う趣味の悪い男が珍しく押し分けてやってきた。

周囲はリーダーである男に対して抗議することはなかったが、不満げなのは明らかだ。

なにせ久々の獲物。

隣国との戦で敗戦して以降、景気が悪くて仕方ない。

かつては戦を逃れる為、人や荷が大量に移動していたというのにこのところ獲物はパッタリと減った。

オマケに最近やたらと自分達の仕事を邪魔する男が現れるようになったのだから、もういよいよ商売上がったりだ。

隣国との境にあるこの山で、タイミング悪くいつも狩りの最中に出くわし交戦することになる。

向こうは正真正銘狩りの途中といった様子から、最近ここらを縄張りにし始めた新米猟師と推測出来る。

若くでかい図体とは言え相手はたった一人で、こちらは多数で襲っている山賊だ。

すぐに始末出来るかと思いきやこいつがとんでもない手練れで、毎回どこからともなく現れては獲物を逃す時間をきっちり稼ぎ後は上手いこと巻かれてしまう。

毎回毎回煮え湯を飲まされメンバーの中にも暗鬱とした空気が流れていたのだが、今回の獲物はどうだ。

黒い髪に黒い目、それにこの美貌。

禍々しいのに美しい神秘的なこの生き物を、好色な貴族にでも売りつければいくらになるだろう。

考えただけでも笑いが止まらない。


その前の味見は当然の権利で、商品の味を知らなければ売り込みも上手くいかないというものだ。

それにしたって今回は役得過ぎる。

濡れた黒い瞳に写る己の顔は酷く醜いがそんなことは気にならない。

この黒い瞳に自分が写っていることがとんでもない興奮を引き起こす。


震える唇に顔を寄せる。

驚きに見開かれた黒の瞳からは涙が溢れ落ち頬へと伝う。

柔らかく甘いそれは、経験したことのないほどの性的快楽と同時に、胸のうちから温かな感情が溢れ出る。

久しく感じたことのないこの感情はなんだったろうか。

そうだ、愛しさだ。

山賊である男には不要なもので、若い時分にとうに捨て去ったものだと思っていたが、一体どこに隠れていたのか。

もう一時も手早したくない。

口付けだけでこんなにも気持ち良い。

まるで魂を吸い取られるような夢心地だ。

ずっと永遠にこうしていたい。

絶望に染まっていたはずのフゥディエの舌が艶めかしく男の舌を迎い入れる。

嬉しい。受け入れてくれた。気持ち良い。幸せだ。

歓喜と快楽が混ぜ合わさったとんでもなく心地良い感情で胸が埋まる。

フゥディエの舌が求めるように動く度に喜びが増す。

もっと必要として欲しい。もっともっともっともっともっともっともっともっともっと。


『全部吸い取ってくれ』


捕食者だったはずの男はいつの間にか弱い被食者と成り果てていた。

それも自ら被食を望み、フゥディエに吸収されることこそ自分の存在意義であるとさえ感じている。

幸福な感情とは反対にどんどん身体の力が抜けていく。

周囲の男達が皆次々にドタドタと床に崩れ落ちていくのが目に入るが一向に気にならない。

ただ力が抜けていく為に口付けを続けられないのが非常に残念でならない。

フゥディエから唇が離れ男の身体も傾いていく。


「……おいし」


それは重畳。

小さく呟かれた言葉に喜びを感じながら、最後に目に入ったのは二本の角を生やし黒い羽根を広げて唖然としている美しいフゥディエの姿だ。

こんなにも美しい生物の糧となれるとは、本当に幸せだと喜びを噛み締め目を閉じた。

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