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牢の番人  作者: 真冬日
閑話
30/40

30※ヴァル視点5

凱旋は大々的なものとなった。

国民達は熱狂的な盛り上がりを見せる。

何万もの賞賛を身に受けるが、いまいち喜びは湧かない。

私の欲しい好意はたった一つ。

フゥディエのモノのみだ。


帰城する道中はまるでパレードのように人が押し寄せるが、それのどこにも私の愛する黒は見えない。

フゥディエ、フゥディエ、フゥディエ

お前が望んだ通り私は無事に帰って来たというのに、どこにいるんだ?

ああ、そうか。王都から孤児院までは遠いからな。

きっと私の守りで固めた孤児院で一人で待っていてくれているのだな。


必要最低限の後始末を数日で終わらせると、まだ仕事をさせようと制止する周囲を押し退け単騎で孤児院へと急いだ。

元乳母の院長にフゥディエの居場所を聞きに行けばいいものを気が急いて闇雲に孤児院の中を歩き回る。

職員が私を見て目を丸くし私の事を王弟だと職員から教えられたらしき子供達は大声で騒いでいるが、そんなことは意識にない。

どこだ、来たぞフゥディエ。

建物の中にはどこにも見当たらず苛立ちが募る中、聞きつけた院長がそっと私に耳打ちする。

フゥディエはどうやらまたしても近くの森へ出掛けていると。


そうか。ならば早く顔を見せて安心させてやらねば。

緩みそうになる頬を引き締め森へと急ぐ。



出陣前のあの時と同じようにフゥディエは泉の近くで佇んでいた。

ああ、やはり美しいな。私の勝利の女神は。

すぐにこの腕の中に囲おうとしたが、そうしなかったのはあの時と同じように隣にあの忌まわしいガキがいたからだ。

目に映った瞬間、あの男のようにすぐに斬り捨ててしまいたい衝動に駆られるが、まさかフゥディエの前でそんなことが出来る訳もない。

それに二人の様子に何か違和感を感じ、あの時同様そっと近くの茂みに身を隠した。


「おいフゥディエ。いつまでしょげてんだよ」

「…………」

「仕方ねぇだろ戦争なんだ、人は死ぬ」

「…………」


どうしたのだろうか?

フゥディエの表情が乏しい。

必死に話しかける奴の言葉が耳に届いてないかのように反応しない。

もしや私が無事だということを知らず心配からあのように儚く憂いを帯びた様子になってしまっているのではないだろうか。

そうか、だから王都にも居なかったのだな。

ふむ、随分と可哀想なことをしてしまった。

詫びにこれからフゥディエの我儘はなんでも叶えてやろう。

これでは将来嫁を甘やかす駄目な夫になってしまいそうだと苦笑するが、それも悪くないだろう。


「それよかホラ、今なんと王弟殿下が慰問して下さってるって皆騒いでるぞ」


くそ、余計なことを。

背後から抱き締めフゥディエを驚かそうというちょっとしたイタズラが台無しだ。


「国の英雄が見れるんだぞ行こうぜ」

「……」


私の無事を聞いたフゥディエはその黒い瞳から大粒の涙を静かにと溢し始めた。

感激で胸がいっぱいになった私は思わず心臓に手を当てる。

掌に伝わる鼓動の速さから自分の興奮具合がよく分かる。

私のフゥディエ。私の妃。

愛し過ぎて私はどうにかなってしまいそうだよ。


「おい、いい加減にしろよ辛気臭ぇな。国は今祝賀ムードなのに一人でメソメソ鬱陶しい」

「……ショーンは、行って…私、まだ、ここにいるから」

「チッ、いいから来い!」

「だって、私、お祝い出来ないっ……」

「死んだ奴のことなんかもうどうでもいいだろ!」

「っ、どうでも良くないっ…どうでもいいわけないじゃない……私には王弟殿下の慰問のほうがどうでもいい…放っておいてよ」


……フゥディエ? 何を言っているんだ?

私がどうでもいいなどと、何故そのようなことを?


「国が勝とうが、どこの誰が帰って来ようが、ダンさんが帰って来ないなら意味ない…………ごめんなさい、酷いこと言ってるって分かってる。でも今は考える余裕ないの、そっとしておいて」


ダン? ダンだと!?

あの男のことを言っているのか!?

信じられない裏切りの言葉に、目の前が真っ赤に染まる。

あり得ない、私とフゥディエは愛し合っていた筈なのに、フゥディエに付き纏っていたあの男のことで涙を流しているのか!?

それに私のことがどうでもいいとはどういうことだ!


……私は騙されていたのか?

こんなに愛しているのに、狂おしいほど愛しているのに。

フゥディエに裏切られたというのか。


「ダンさん……会いたい……」


フゥディエの可愛らしい口から紡がれる浮気の言葉に耳が腐り落ちそうだ。

美しくも禍々しい黒で男を惹き込む淫乱な化け物め。

よくも騙してくれたな。

私は、私はお前の為にアイデンティティを歪めたというのに。

他の男を心に住まわせるとは許しがたい。

業火が渦巻く激しい怒りに身の内が焼け焦げそうだ。

今すぐその胸から心臓を抉り出し他の男の存在を取り除きたい。

裏切りを紡ぐ喉を締め上げたい。

お前の全てを喰らい尽くしてしまいたい。


「くはは……」


自分の口から小さく笑いが漏れた。

何が可笑しいかと言うと、自分自身の愚かさだ。

フゥディエの本当の姿を知って尚、この身を支配するのは彼女への想いだ。

どんなに裏切られようが、結局のところ私は彼女を愛し続けることしか出来ないだろう。彼女から逃れられはしない。

最後の何かが壊れる音がしたと同時に、胸にドロドロとした粘着質な膿が溜まる心地がする。

私を支配するこの想いを懐かせるのはフゥディエ、そなただ。

この責任は必ずとって貰おう。






******



それからすぐにフゥディエは私の部屋の掃除係として城で働き始めた。

全ては予定調和。

もうこれ以上私のような被害者を出さないよう、可能な限り彼女を見張らせる。

不吉な黒を持つがそれを上回る美貌のフゥディエに少しでも下心を持つ者はすぐさま遠ざけたが、逆にフゥディエに悪意ある者は放置した。

奴らは美しさではなく禍々しくも蠱惑の力の潜む黒に魅入られた者達だろう。

あの黒は見る者に凶暴な独占欲を懐かせる。

彼女の気を引こうとする様は甘言で搦め捕ろうとする者らより一層必死で滑稽だ。

そんな醜い者で周りを囲われた彼女を見ると少し安心出来る。

外は恐ろしい場所だということを今のうちに身体で覚えておけば、いずれ来る未来でも私達の寝室から出ようとはしないだろう。

可哀想だが、浮気をする可能性がある以上無制限の自由を許すことは出来ない。

金銭面においても院長から手を回して貰い彼女の給金の殆どを回収しておく。

流石にやり過ぎかとは思ったが、広範囲で動き回られては堪らないからな。

活動範囲を狭める為にも必要なことだ。

それに彼女には自覚して欲しいのだ。

自分一人では生きて行くことも出来ないのだと。

私が隣に居れば何不自由なく安心した生活が送れる。

私達が結ばれた暁には栄耀栄華を約束しよう。

どんな貴婦人より着飾りどんな富者より豪奢な寝室で日々を過ごして貰おう。

それまで暫しの辛抱だ。



しかしフゥディエの浮気癖は一向に治る気配を見せない。

あんな男一人を始末したところで意味などなかった。

彼女に近付こうとする男を常に阻止し再犯せぬよう手を打っているというのに、何故自分から声を掛ける。

どうでもよい使いなど他の者に任せ、男との接触は避けるのが筋ではないか。

修練場の清掃をしていた時など唖然とした。

ここには男しか居ないというのに、多数の男の目を惹きつけそれが当たり前かのように気にした素振りも見せず飄々と掃除をこなしてしまう。

舐め回すように見られて平気でいるなどあり得ない。なんとはしたない女だ。


フゥディエの淫乱さにほとほと困り果てている最中、ついに決定的な事件が起こってしまった。

それは所用で城から離れていた時だった。

フゥディエと甥である王太子のシェイルが密会しているという情報を帰ってそうそう耳にした瞬間、頭が真っ白になった。

フゥディエとシェイルが何故?

これが普通の者であれば密室で二人きりになどさせぬように動けたが、王太子が相手では部下達は手が出せないと告げてくる。

二人で篭って結構な時間が経過していると聞き、急いでその部屋へと向かう。


扉の前まで来た時、部屋の中からシェイルの笑い声が聞こえた。

シェイルは普段王太子としての教育により、激しく感情を表すということをしな い。

大きな声を立て笑うなどあり得ない筈だった。

それなのに何故あのように楽しそうに、一体中で何をしているのか。

ドアノブに手を掛けたが…回すのを止めた。

中に踏み込めばシェイルを殺してしまいそうだ。

他の男ならば始末してしまえば済むがシェイルだけはそうもいかない。

シェイルには次代の王となって貰わねばならぬからだ。

王弟の妃ならば私の権限でどうあっても認めさせてみせるが、王妃となればフゥディエは認められない。

未来の国母が黒の色を持つ孤児では不味い。

よって実質王となれる人間はシェイルただ一人。

姉上の息子も存在するが、あれの父親は元々他国の人間なので継承権は持たない。


私は王家が滅ぶ事を望んでいる訳でない。

だからどうかシェイルだけは間男に選んでくれるな。

だが私の願いを嘲笑うかのごとく二人の密会は続く。

この頃の私の情緒は不安定で毎晩のようにシェイルの首を刎ねフゥディエの手脚を斬り落とし国を滅ぼす夢を見た。

限界だった。

夢の中の私は手脚のないフゥディエを抱き締め酷く満たされた心地に酔いしれているのだ。

どこにも行けぬよう、誰にも会えぬよう、雁字搦めに束縛してようやく安堵出来る。


そしてとうとう、シェイルはよりにもよって私にフゥディエの相談を持ちかけて来た。

しかしそこで初めてシェイルがフゥディエの黒に気付いていないことを察する。

私達の仲やフゥディエのどうしようもない浮気癖も何も知らされていない。


そうか。ならばお前にチャンスをやろう。

もしフゥディエの黒を受け入れなければお前は次代の王。

だがもし受け入れるならば、夢の通り首を刎ねてやる。


フゥディエは……どのみち運命は変わらない。

どこにも飛べぬようにしてやる。

愛しくて愛しくて、憎くて堪らぬ運命の人よ。

甘やかした為に傲慢になってしまったフゥディエには調教が必要だ。

私自ら孤独に突き落とし、私が居なければ生きてはいけないことを再確認しろ。



そうしてより一層惨めな姿となったフゥディエに、私の欲はこれでもかというほど掻き立てられる。

だがフゥディエはなかなか私の元へは堕ちては来ない。

泣いて謝り私以外の男とは接触しないと誓えば許してやるのに。

ここまで追い詰められて尚、私を蔑ろにするのは何故だ!






*******


「フゥディエェェェェ!!!!!」


一体、どこで間違ったというのか。

テルーニ前日、私は一夜にして私の全てであるフゥディエを奪われてしまった。

突然現れたポッと出の男によって。

その男の正体は気紛れに地下牢で飼いフゥディエに面倒を見させていた魔物だ。

フゥディエのあの姿といい、魔物に変化する男といい、重要なのは恐らく魔物の森に違いない。

幸いあの男はフゥディエへのテルーニの贈り物の首輪も私の腕ごと飲み込んだ。

あれには大まかな位置が分かるような術を施してある。

だったら、やる事は一つ。


治療もそこそこに兄上の元へと急ぐ。


「陛下、私の婚約者が魔物に攫われました。取り返すべく、どうか異世界人の召喚の許可を頂きたい」


待っていろフゥディエ。

すぐに取り返してみせる。










以上で閑話は終りですがこれからもヴァル視点はちょくちょく挟みます。

自分で書いててもヴァルが何言ってんのかよく分かりませんでした。

ちなみに首輪はファンタジーなのでう○こしても出ません(笑)

フック船長のところのワニ的なイメージです。

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