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メリーゴーランド戦(1)

 先制でアリスが一発撃ってきた。

 メリーゴーランドに飛び乗ると同時、アリスが向こうの端から。


 だがこれは読んでいた。弾をかすらせることなくかわす。


 回るメリーゴーランドに乗ると、今度は世界がマサムネの周りを回り始める。

 煌びやかな夜の遊園地。耳にはメルヘンチックなBGMも聴こえる。


 初弾をかわしたマサムネは、中央の支柱を盾に馬を飛び越えて前へと進む。

 アリスは動かないだろう。こちらの出方を待って、必殺の一撃を狙ってくるに違いない。


 だが、アリスはゼロ距離射撃も得意だ。

 ゼロ距離射撃とは、その名の通り相手と密着状態でライフルを撃つことだ。


 ゲームの特性上、スナイパーライフルはスコープを覗いたスコープ・ビュー状態でないと命中率は極端に落ちてしまう。スコープ・ビューにすると同時にトリガーを引く〝クイックショット〟なる技もあるが、それよりも確実なのは相手に密着してしまうこと。

 密着状態ならば、何をどうしたって外すことはない。そしてライフルの威力ならば、例え急所を外しても相手に大ダメージを与えることができる。二発も連射すれば、あっと言う間に相手を倒すことができるだろう。


 気を付けなければならないのは、お化け屋敷の時のように相手の目の前で弾切れを起こすこと。一度のリロードもすることなく、今装填されている弾で片付けなければならない。


 アリスを支柱の陰に隠しながら、慎重に進んでいく。アリスが左右に動いて姿を見せれば、マサムネは反対側に動いてすぐさまアリスから姿を消す。

 馬を飛び越えるジャンプも危ない。馬上なんてここでは最高にいい的だ。だからと言って、左右から馬を避けようとすれば支柱から見えて狙われる恐れもある。


 あらゆる行動に、慎重に慎重を重ねる必要がある。


「……なんか、もよおしてきたな」


 思わず声に出た。


「は?」

「なあ、ちょっとトイレ行っていいか?」

「撃つよ? 今離れたりしたら」

「だよな……」


 アリスが左右に動く。マサムネは右に左に動く。


「どうしてそう緊張感ないの? あんたって人は」

「バカ。緊張感あり過ぎんだよ! なんでこんなゲームにここまで神経遣わなきゃなんねーんだよ」

「……イヤ? こんなゲームに、神経遣うの」


 アリスの言葉がワンテンポ遅れた。


「ああ、イヤだね!」


 言うと同時、マサムネは飛び出した。馬に乗り、それから高くジャンプした。


「!」


 アリスが息を呑む。


 マサムネは眼下にアリスを捉える。


 二発撃った。

 だが案の定、それらは外れる。


 一瞬の不意を奪えたとて、アリスの反応は速い。すぐに馬の陰から陰へと渡って、射程から逃れた。


「びっくり」


 アリスが言う。声は楽しそうに弾んでいる。


 マサムネは追わず、馬車の裏に隠れる。不用意な追撃ほどアリスにはいいエサになってしまう。

 リロードもしない。思ったとおりこちらの弾切れを狙っているのか、アリスは既に自分からも飛び出せる中距離をキープしている。


「卑怯者」


 アリスが言う。


「こっちの動揺を突いてくるなんて」

「アホ。勝手にそっちが動揺したんだろ」

「そうだね」


 一瞬考えて、アリスが答える。


「ねえ、さっきから随分ひどいんじゃない?」

「あん? 何がだよ」

「人のこと、バカとかアホとか」

「そんなこと言ったっけ?」

「バカ」

「あれだ。言葉の弾みってやつだ」

「アホ」

「これで帳消し」


 アリスが吹く。


「トイレは大丈夫?」

「ああ、平気だ」

「じゃあ、今度は私から行くね」

「えっ?」


 アリスが動いた。

 手前の馬に飛び乗り、それから八艘飛びのごとく馬の背を飛び回る。


 今度はマサムネが不意を突かれた。


 そして迷った。


 アリスは今、何ら隔てるものがない格好の的状態。だからと言って頭を出せば、それを一瞬で撃ち抜く腕を向こうは持っている。されども、こうして隠れていたら、すぐにこちらを見下ろせる場所から撃たれてしまうだろう。


 まさかアリスが先手を打ってくるとは思わなかったし、このステージ上で後手に回ることはとんでもない危険を生むことに今気付いてしまった。


(どうする!?)


 迷いは一瞬。即座に動くことを選択する。


 アリスの銃口の向きを確認し、その反対側に飛び出す。

 迎撃したい衝動はぐっと堪えた。

 こちらを向こうとするアリスからさらに逃れるように反転を利かせ、離れた馬の向こうへ飛び込む。


 着地する瞬間、重たい銃声が響く。


 間一髪、それは外れたようだ。あそこで応戦していたらやられていたかもしれない。

 今度はマサムネが馬から馬へと距離を取る。


「びっくり」


 息を弾ませながらマサムネが言う。


「賢明だったね。好戦的なマサムネが逃げに徹するなんて」


 アリスは得意げに言う。


「勝ちたくて必死だからな」


 マサムネが言うと、アリスは嬉しそうに笑いをこぼす。


「なあ、悪い、今のもうやめてくんね? 心臓に悪い」

「やだよ。こっちだって必死なんだから」

「そっちから来るなんて想定にねえんだよ」

「へぇ、そうなんだ。いいこと聴いた」

「なあ、おい、どうしたってそんなに勝ちに必死なんだよ?」

「どうしてって……。そんなの、決まってるじゃない」


 アリスが言う。


「うん」


 マサムネは頷く。

 少し言葉を待つが、しかしアリスはそこで黙ってしまう。


「……って、おい!」


 マサムネは声を上げた。


「いいじゃない。別に、なんだって」

「……」

「そっちはどうなの? どうしてそんなに必死になってるの?」

「俺の方は、決まってるだろが」

「なに?」

「……」

「って、おいっ!」


 アリスが声を上げる。マサムネは笑う。


「まあ……、なんだ。一つ言えるとしたら、だ」

「うん」

「十二時を過ぎて、今はクリスマスイヴ。そんな夜に、俺とお前は全裸なわけだ」

「だから?」

「カメラのスイッチを、オン!」

「うるさいよ。何回言ってんの」

「やっぱダメか?」

「ダメに決まってるでしょ! バカ言ってると、速攻でヘッドショット喰らわせるからね」

「うん、まあ、だから必死なんだな」

「……は?」

「俺の勝ちの景品は決まったってことだ」

「……」

「あ、もうあと最後までそのままでいろよ? 何も着るんじゃないぞ」

「無駄だよ」

「あ? 何が?」

「どっちでも一緒」

「だから、何が?」

「だって、私が勝つもん。この勝負」


 おどけた口調で届いた言葉に、マサムネは鼻で笑う。


「言ってろ」


 調子を合わせてそう返すが、そこで思わずアリスからは無言が返される。


 その沈黙にやはりマサムネは考える。


「お前も必死ってわけだ」

「そう言ったでしょ?」


 アリスが言う。


「ああ、言ったな」


 マサムネは頷く。


「確かに言った」

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