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たとえばの話

作者: 奏多ハル

この世界には不思議な鳥が住んでいる。

鳥たちは口に小さな封筒を咥えて空を舞い、人々の元へ降り立つ。

その数は数えきれなくて、鳥たちを熱心に追いかける者、

見向きもしない者、自ら鳥に封筒を与えて飛ばす者

人々の対応は様々だ。


私は鳥たちにすこしばかり興味があって

その日、ふと目の前に降り立った鳥の、

その小さな可愛らしい嘴から、封筒をそっと抜き取った。


開けてみるとそこには写真と言葉が入っていた。

そして、それを見て、私はひどく後悔したのだった。


鳥が持ってくる封筒を、開けるか開けないかは自分次第。

受け取らずにそっと空に返してもいいし、破り捨ててもいいのだ。

もう二度とここには飛んでくるなと、柵を立ててもかまわない。



でも私は、開けてしまった。

何も考えずに、衝動的に、あるいは癖のように。

はらりと落ちた写真と言葉に、私は懐かしい胸の痛みを感じた。


そして私は思い出す。

そうだ、私は前にもこうして泣いたのだ。

鳥たちが持ってくる封筒を、疑いなく開けてしまうのだ。

そして、ズキリと胸が、まさにそうとしか言えない音をたてて痛む。

少し手も震えて、思考はピタリと停止する。

それからの一日は何をしていても、その封筒の中身のことで

頭がいっぱいになって、ふとしたきっかけで

泣き出してしまう。


ああ、あのときもそうだったのに。

私はまた、やってしまった。


でも、この痛みに対して、誰を責めることもできない。

これは、私自身の過ちなのだ。

鳥から封筒を受け取った、そしてそれを開けてしまった、私の過ち。



受けとらなければ知らなかった。

開けなければ知らなかった。

あの人が、私の知らないところで、青春ごっこをしてること。


楽しそうな笑顔に、心がぐにゃりと折れ曲がる。

思考停止から3秒後、涙がぽろりと落ちてくる。


楽しそうだなって。

楽しかったんだろうなって。

青春ごっこの最中に、あなたの心に欠片でも私はいたかなって。

いなかっただろうなって。

こんなことで妬くなんて情けないなって。

みっともないなって。

なんで開いちゃったのかなって。

なんで私はいつも私を傷つけてるんだろうって。

私の心を傷つけるのは、鳥でもなくて、あなたでもなくて

いつも私だなって。


いろんなことを考えながら

ぽろぽろと涙を流しっぱなしにしている。

止め忘れた水道の水みたいに、ぽたりぽたりと落ち続ける。


黒々とした大きな雲が、胸の中で渦をまく。

吐き出したくて、今すぐあの人に伝えてしまいたいと思う。


でも、できない。いつも。

息を吸い込んで、その雲を心の奥深くにしまう。

前もそうだったな。


ぶつけたりなんかしたら、きっとあの人は、逃げてしまう。

あの人はきっと、こんなに弱くて醜い私がいやになって

ずっと遠くに逃げてしまう。


だから

こんなに心が痛んでも、どれだけ大きな雲が渦巻いても

すべては私のせい。

そう思って、今日も私は涙を止めて、雲を一息で飲み込んで

鳥を大空へ返すのだ。


何事もなかったかのように。

心が痛む音など聞こえなかったと。

真っ黒な雲などどこにもないと。




静かに目を閉じて、

あの人の声を探す。

今日はこの近くにはいないみたいだ。


今度いつ、私の元まで来てくれるのか分からない。

その間に、何度青春ごっこを繰り返すのかも。

あの子たちと、私は確かに違うかどうかも。

私のことを、まだ本当に好きだと思っているのかさえも。

私には何もわからない。


ただ私は、胸についた傷痕を見て

私はまだ懲りずにあの人のことが好きなままだと

実感するのだ。





厄介な鳥たちが飛ぶこの世界では、私のような女の子が

毎日どこかでうまれて消えてを繰り返している。


泣いたり笑ったり、愛したり嫌ったりしながら

女の子たちは今日も鳥を捕まえようと

空に向かって、手を伸ばしている。



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