始まりの森~苦手なモノ
大広間からは絶えず音楽が聞こえている。人々の声のざわめきと優雅な音色とは関係ない裏側は戦場だった。
特に台所は料理を山ほど作り続けては運び出す。メインな肉料理以外にも、デザートになるフルーツをカットしたり手の込んだ焼き菓子やトッピングに工夫を凝らしたスィーツを運び出し、絶えず大広間の減った料理を報告していた。
料理だけではなく、飲み物も注がれては運ばれ 回収されてきた皿やグラスをひたすら洗う係りも慌ただしさに疲れてはいたが 使用人たちは今日を乗り切れば多少の祝金と休みが貰える事を知っている。
本日の若様の成人の御披露目が無事済めば、旦那様の機嫌は良くなる。本日の準備で多忙を過ごした旦那様は少し不機嫌だった。
お客様にはにこやかに対応しても、失敗した使用人に容赦ないのは何時もの事だ。
とりあえずは現在を乗り切れば何時もの日常に戻れるのだから、黙々と仕事に励む。
廊下を磨きながら運ばれて行く料理をちら見した。あまりの忙しさに食事の時間に間に合わず食いっぱぐれたのだ。空腹をお腹が訴えてきゅるきゅるとアピールしている。
もっとも仕事が終わるはずがないのだが、時間で使用人たちの食堂を覗いた途端に追い出された。
「フィル! 廊下が泥だらけだよ! さぼってたんだね!」
拭いても拭いても、直ぐに泥の靴後がついてしまうのは 雨のせいなのだが 女中頭は「グズな上に言い訳だけは一人前なのかい!」とピシャリと扉を閉めた。
あきらめて、廊下に戻り仕事を続ける。何かと理由を付けて食事を抜かれるのは慣れたものの、今日はそこら中食べ物の匂いで溢れている。
だからか 誤魔化せない空腹に泣きたくなる。
ふっと窓から光が差し込み、顔をあげる。雲が白っぽく 合間から日差しが落ちてきていた。
光に目を細める。日が射せば道は乾き、この泥沼な掃除から解放されると思う。
それでも食事は貰えないと思うけど。
人は自分より劣った相手を作りたがる。群れの中で一番下など成りたくないから。
でも分からない。女中頭が自分を嫌う理由。
馬鹿馬鹿しいほど彼女は自分には少しの優しさも見せない。見張るように言われているのかもしれないとも思う。
「ねえ、演劇があるんですって。旦那様が招いたそうよ」
「知ってる。騎士様のお話でしょ? すごい人気で、私たちも見せて貰えるかしら」
料理を乗せたワゴンを押しながら話す二人と視線が合う。
「彼女、どうして食事抜かれているの?」
この日の臨時雇いの娘は 少し気の毒そうに聞く。
「馬鹿ね。紹介状が欲しければお仕えした家の事は詮索しては駄目なのよ」
「……同じ失敗をしないように気を付けようと思ったのですが、私 良く失敗するから」
相手の失敗を思い出し、組まされた方としては笑えない。
「奴隷だからよ。だからもう貴女は失敗しないでよね」
「あはは、頑張ります。……で、劇の時は少し見に行っても大丈夫よね」
あんぐりと普段なら雇われていないと思う相手に少し冷たい視線を投げかける。こんな使えない娘よりあっちの娘の方がよっぽど役に立つ。それでも給金の良い仕事場に波風は立てるつもりはない。
「自分で聞いてよ。まあ休憩は貰えると思うから進行係りに時間を聞いてから上手く時間を合わせてーー」
言われなくともペアなので 休憩は同じ時間帯で貰える。上手く使えば この使えない娘も役に立つのだから、少しだけ入れ知恵をつけることにした。
騎士の話は良くある。そこいらを歩けば自称騎士に会えるのだ。酒場を覗けばもっと居る。
ただの警備隊も 騎士っぽい格好をしていたりする。
私兵達も同じような衣装で揃え、自称○○騎士団とかも溢れている。
元々、竜王国から自治を認められたとはいえ属領の見本となるのが竜王都。
竜王国を護って居るのが 竜騎士で、若い騎士達は必ず世界を旅して回る。
なので、修行中の本当の騎士も良く居るのが普通なのだ。基本は若い騎士限定だが、細かい年齢制限はないので 良いおっさんが旅していてもおかしくない。
その為、竜の騎士でなくても 騎士っぽい格好をして騎士の尊敬だけあやかろうと言うただの人が居る。
どこもかしこも騎士だらけ。だから、本当の騎士は稀なのだ。
「お伽の国の竜騎士さま」
騎士が世界中を旅する理由は 劇だけでなく絵本にもなっている。
簡単な理由だ。自分達の竜王様の生まれ変わりを探して居る。
それだけ。
騎士なら 見てわかるらしい。だから憧れの騎士様が迎えに来る だけの話が大好評だ。
自分が選ばれるかもしれない。そう思えば心踊るのかもしれない。
でも。
本気で調べるなら、一年に一度でも生まれた子供を集めて確認すれば良いだけなのに そうしない騎士も効率をわざと捨てていると思う。
そもそも 竜王はもう数百年も見つかっていない。
だからそろそろ見つかるかもしれない。という期待もあるらしい。
乙女のトキメキより、目の前のご飯が大事だと自虐的に空腹を意識から追い出すと、昔は大好きで良く読んでもらったと思い出す。
母はいつもどこか遠くを見ながら最後に笑い、「騎士様はお仕事で世界中旅ができるの。見つけてしまったら旅ができなくなるわね」と付け足した。
ほとんど旅とは無縁な領民は住みかの町とか村とかから移住したりしない。商人達が一応の流通街道を作ってはいたものの商売敵との競争で近道を秘匿していたりするのだ。公開されている大きな街道は騎士がのんびりと旅してまわり、合間に害虫駆除をしていたりする。危険な野生の獣や魔物退治である。点在する大きな街にはギルドがあり、登録者による討伐もされてはいたが 騎士の仕事の方が早く人災も出ない。もし竜王が見つかり世界を旅する騎士が減った場合の維持管理に悩まされるのは明白だった。竜騎士は新米でも優秀だった。
幸か不幸か竜王は数百年も見つからず、旅する騎士は多く安全の維持はされている。もっとも騎士が手を出すのは獣や野獣 たまたま襲われた商隊の保護。盗賊退治は騎士の役割でない。
もし正式に竜騎士に魔物の討伐依頼を出すとなると面倒な手続きが必要となる。勝手に処理してくれる旅の騎士は有難い存在の便利屋だ。
絵本に書かれて居るのは大抵 可哀想な子供。貧しい生活をしていたが心優しく誰にでも手を差しのべ せっかく貰ったパンも隣の子供に分けてしまう。いつも通り街角で歌っていると 騎士が現れて片膝を付き 誰も見向きをしなかった子供に言う。
「我が君、お探ししました」
ーーそう、こんな感じ。
ふんふんと鼻唄を奏でながら、床を磨く。外が晴れたからか新しい足跡はついていない。どうやら掃除が終わりそうだとフィルは安堵する。
劇が始まったらちょっとぐらい見れるかもしれない。話題の騎士の役者は麗しいと。
ーー麗しの騎士。ってどんな感じだろう。
酒場の呑んだくれ騎士は良く見た。荷物運びにも的さない、ぶよぶよな腹をしながら横柄な態度で酒を煽る。醜態で騎士のイメージを最低にしているのを理解できていない。
若いときは多少見られたのかもしれないけれど。
薪割りもできぬような肉体を晒して、騎士を名乗るのはどうかもと思うような輩が呑んだくれて居る。
絵本の挿し絵は、可愛い感じの騎士が載っていた。
そして選ばれた少女は当たり前に普通なーー。
視線をあげたさ気にいたのは、銀髪に緊張した面立ちの美少年だった。
この容姿で優しく微笑み、手をとってお茶に誘えば大抵口説き落とせそうだと思う。
しかし強張ったぎこちない表情では、威力も半減する。まああからさまに慣れた口説き台詞や馴れ馴れしい態度ではなかっただけフィルの警戒心も半減していた。
半減はしていたが、基本的な警戒心は高かったので 好意を引き出すことは失敗する。もっとも声をかけた方は 女の子の好意を引き出す声のかけ方や仕草など練習したことが無かった。彼は彼で異性対人会話スキルが頑張りましょう判定ではあるが、日常では困ることはないので口説き方面のスキルを習得する必要性に遭遇したこともなかった。
相手の警戒心が必要以上に高いのが見てとれた事に 戸惑いが出る。咄嗟に声をかけたもののその次がどうすれば良いのか 白くなりかけた思考回路が自分の行動に一番驚いてた。
ふんふんと鼻唄を奏でながら、掃除をして居る使用人。少し先を見知った青年が女性をたくさん引き連れて華やかに進んでいき あれが居れば自分に女がよってこないのは大変助かることだった。なので少しホッとして ふと鼻唄に興味が行く。広く伝わる只の子守唄だ。年長者が子守りをするのが当たり前なので 特に女の子がなんとなく呟いていても普通だった。
しかし 何となく視線を移し少女を認識した途端に 極めて理解できない衝撃に絡めとられる。
その結果、声をかけて 思いっきり不信な目で見られる現状だった。
その時になって、彼ははじめて会話スキルの必要性を理解していた。
こんな固まった不審者に ホイホイ攻略されるようなバカは居ない。商人など押し売りし放題だろうし 逆に金目のものを安く買い叩かれたり 格好のカモがネギ背負って鍋持参な好きに料理してくれな心理状態に陥っていた。
二人とも固まって強張ること数分 少女の表情が少し和らぐ。
不審者を見るキツイ瞳から 少しだけ優しい笑みが作られる。作り笑いーー営業スマイルである。
一応 声に気がつき、見上げて視線を合わせてしまった相手を観察してみた。今現在 お屋敷に来ているのは大体はお客様である。下手な対応をして後で旦那様に大目玉など遠慮したい。
そもそもお客様が廊下を掃除している使用人に声をかける事など あり得ない。普通はだけど。
ならば普通でないのなら、どういう状況なのかを考えた。
身なりの整ったきれいすぎる子供。何故か衣装は騎士っぽいかもしれない。
きれい? 何か閃いた。
「あの、大丈夫ですか?」
時折 使用人を連れ込んで酷いことをするボンボンが居る。最初こそそんなことかと身構えては見たが、相手がどう見ても 見る見る顔色が悪くなって居る。緊張も そこまで何故固まって居るのかと考えて年若い事に気が付き出た結果である。
廊下で緊張のあまり倒れられては困るのは 廊下の掃除担当の少女だった。
なので相手の緊張を解して さっさと広間に誘導すれば良いのだ。
「ご気分が優れないならもう少し待合室にいた方が良いと思いますけど」
時間が決まっているなら休んでいる時間がない。
相手の瞳が数度まばたき、少しだけ落ちついたように見えた。
見えただけだった。相手はいきなり崩れ落ちた。
廊下で踞る少年に 焦ったのはフィルの方だった。注目を浴びているのが分かる。
誰か男の使用人をつかまえて、目立たないところで少し休ませないと劇が始まらない。
立っていられないような状態で 流石にとっとと広間に追いたてるほど冷酷では無かった。
少しぐらい開始時間が遅れても、これが愛想を振り撒けばどうとでもなるハズと、見目のよさの許される虚量範囲を算出する。
「あの、あちらで少しお休みした方がーー」
視線の先に 美形が居る。
人目が集まって普通である。普通に佇んでいても きっと注目を浴びるであろう相手の苦し気な表情は 誰もがうっかり手を差しのべてしまいそうである。
しかし、何故か注目しているのに声をかけて来ない。普通なら真っ先にとんでくる自分を見張っている女中頭とかが全然来ない。
やはりお客様ではないから他の使用人たちの対応が違うのだと フィルは判断した。
「わ……き……っ」
何か呟いているのに気が付く。うん。立っていられないような具合が悪い時とか、極度の緊張状態の時とか 落ち着きたいときには 水でも飲んで落ち着きたいよね。
美形を前に固まって居る場合でないと 安心させるために微笑んだ。
「待ってて 今、お水持ってくるから!」
ひらりと駆け出そうとした手をとられる。相手は反射的に動いた相手を捕まえてしまったらしい。
「待ってください。我が君!」
少年は余りの緊張に混乱しているようだった。
余りの緊張は 状況判断が鈍る。真っ白の思考回路がここに居る理由のお仕事を消化して緊張の元を終わらそうとしたらしい。出番前に気分を悪くしてしまうようでも、へっぽこでも 多少はしょっても めでたしめでたしで終了させれば、彼の仕事はーー プレッシャーはなくなるのである。
「わ? 我が君って」
しかし、いくらなんでも 廊下で 使用人相手に開始していいのだろうか?
いくらサプライズでも選ばれるのは 何処かの麗しの貴族の姫君で 多分若様の今後の相手である。
多少はしょっても、選ぶ相手の候補はきっちり決められて居るだろうから、それは省略出来ないだろう。
「駄目よ。いくら顔で許されるとしても、頑張ってあっちの広間ではじめてよ」
へっぽこでも この顔である。なんだかんだと、甘やかしてちやほやされて来たのだろう。
「は? 顔で許される?」
「そうよ。リハーサルでもこんなところでやらないでーー」
自覚がないはずない美形は 困惑の表情を見せた。当初の緊張からは立ち直ったみたいであったが 今度はどうやら言われて不愉快になる言葉があったらしい。
この顔に難癖付けれるようなのが居るのだろうか?
「あ、ごめんなさい。顔だけ男とかじゃないわよ。でももっとほんわかと微笑んだら、もっと世渡り上手く行くから眉間にしわ寄せないで……ね?」
そうツンツンと、皺のよった額をつついてから 我に返った。
男の額をつついている場合でない。注目を浴びているのだ。周りはもう人だかりである。
額をつつかれた方は、再度固まった。
額をつつかれるような暴挙に出た娘など居なかったのだろう。
指先に文字が見える。知らない記号のような文字。見たことのない文字なのに理解できた。
「る……」
「ルーク、床に引っ付いて 何してるんだ?」
後ろからの声にビクンと反応する。振り返れば女性を大量に引き連れた青年がいた。
春の陽射しのような微笑みを振り撒く。女性たちはお互いを牽制しながらも目をハートにしているあたり 優男に心酔しているみたいだった。
「アル……」
青年は確か少し前に 女性を引き連れて廊下を通っていった。ぐるりとまわって来たらしい。
目の前の少年が、苦虫を飲み込んだような微妙な表情をする。
「なんだ? 女の子口説いてたのか? 珍しい事もーー」
視線があった。青年も固まる。
それは多分打ち合わせと違う状況に動揺したのだろう。似た衣装で登場した輝く青年はお互いの名を知っている。お客様でない相手の名前を気軽に呼びあって居るなら仲間なのだろう。
段取りをすっ飛ばしているのに遭遇して固まっても、歳上の経験を廻らせて持ち直してくれるだろう。
と、フィルは考える。
さっさとこのへっぽこ劇団員を回収して広間で劇を始めて貰わねばならない。
でも、何故に彼の額にも文字が出ているのだろうか?
首を傾げ、見上げた青年の文字を詠む。
「アルシュ……ア?」
青年がスッ転んだ。フィルは青くなった。
足腰の丈夫な青年が滑って転んだ。これがお年寄りやお洒落な靴を履いたお嬢様が転んでしまったら怪我をしてしまう。良くて捻挫、骨折でもしたらと思うと血の気がすーと引いていく。
「わ、我が君ーー」
うん? さっきも聞いたような台詞が聞こえて ゴクンと、生唾を飲み干す。
どうやら 見事に転んでしまったらのを誤魔化すために、このリハーサルに便乗することにしたらしかった。
「我が君、私と一緒に竜王国へいらしてください」
「いいえ、こんなポンコツではなく、私と一緒にーー」
ガシガシッと、二人の美形に手をとられ、なんと言うことでしょう。普通なら夢見心地であろう状況に、フィルの心の中は恐怖が渦巻いていた。
目が笑っていない。周りのお客様の 特にお嬢様達の下げずんだ冷ややかな視線に 女の嫉妬を感じる。しかもどう考えても、その羨望を受けるのは自分では無かった筈なのにである。
「ちょっと、止めて! リハーサルはもういいから あっちの広間で 若様の婚約者候補の誰かとやり直してよ」
間近に居る二人には聞こえる小声で ひきつった笑顔で提案をしてみる。
「は? リハーサル?」
「やり直し?」
美形二人が顔を見合う。
うん。絵的にはOK。しかし手を握っているのが合間にちんちくりんな余計な者が混ざってなければ もっと良し。ということで もう二人で手を取り合って 波乱万丈いけない騎士物語でもはじめてくれ。と、どうでもいい事に現実逃避しかけた。
目が怖い。が、二人が見つめ合った時は流石に二人に視線が行く。
その間に逃げ出してしまおうと、腰を浮かしたところで 別の声がかかる。
それは一番恐れていた相手だった。この舘の主、領主様だ。
折角呼んだ見世物が 何故か廊下で開始されたら、その上 何故か注目させるはずの選ばれるの姫に只の使用人になって居るのだ。怒り心頭ーーである。
「申し訳ありません。騎士様、我が家の奴隷が何か粗相をーー」
お客様の手前で怒鳴る訳にもいかなかったのだろう。領主は穏やかな口調で近づいてきた。
ここで上手く解散させて、再度広間で劇を始めればなんとかなるかもしれないーーと巡らせた思考の横から、緊張で青くなって崩れ落ちていたへっぽこが 凛とした声で返した。
「奴隷? バカを言うな」
ゆっくりと優雅に立ち上がる。銀色の冷ややかな視線が部屋の温度を下げる。
「我が竜王国に奴隷などいないぞ!」
表向きはそうなっている。各領主に裁量を任されてはいても、勝手に奴隷制度の導入等は許されていない。
ビクンと一同が強張る その横で金色の髪の青年も ゆっくりと立ち上がった。
先程までは 暖かな煌めきを放っていた微笑みが消えている。
この場では どうやらあくまでも騎士役に徹するらしい。
例え後で報酬額を減らされそうでも、雇い主の不評を買っても 先程までも情けない姿とはおさらば出来たみたいだ。
まあ、それでも彼らはいい。仕事が終われば別の地へ行ってしまえるのだ。
でも残される使用人は 旦那様の機嫌は命に関わる。
とても焦っていた。昼も抜かれて、また抜かれたらたまったものでない。
お腹は既に、情けない状況なのだ。
「やめて」
にらみ合った背後で、少女がゆっくりと立ち上がる。
ビクンと、へっぽこ見習い劇団員が反応する。
「とっとと あっちの広間で 一番可愛い姫君で やり直しーーて下さい。騎士様」
前半は怒濤のごとく発したものの だんだん声も小さくなり聞こえなくなる。
「いいですか 騎士様。あちらには素晴らしい姫君がいらっしゃいます。お二人に選ばれるとても素晴らしい方ですわ。ですからあちらで」
ギャラリーに聞こえるように、素晴らしい姫君を強調してから微笑む。
「劇を始めてください」
その一言は二人のへっぽこだけに聞こえるように囁き、お辞儀をする。
「……」
「ーーっ」
めらめらと黒い怒りのオーラを背負い、青筋のマークを額に 嘘笑いを浮かべて くいっと視線を広間に向ける。
へっぽこの二人は視線を交差させ、周りを見回してから 小さく咳払いをする。
「申し訳ない領主殿、西領は麗しの姫君が多いと噂通りでしょうか」
金髪の青年が優しげに笑う。その反対側に移動して 銀色の微笑みが加わり、ゆっくりと広間に戻って行く。フィルは他のお客様も戻って行くのを見送り、ホッと胸を撫で下ろした。
しかしクルリと向きを変えた先にいたのは、女中頭だった。
我が君(竜王の魄の生まれ代わり)フィリシア 金目 銀髪
アルシュア(金の騎士) 金髪 翠の目
ルーク(銀の騎士) 銀髪 青い目
クロロロフィード(辺境警備隊長)黒竜 黒目 黒髪
フィリシアの母 金髪 金目