【物語】竜の巫女 剣の皇子 3 ソロフス
ここは巫女と竜の国アーサラードラ。
秋も深まりつつある神無月の中頃。
あたたかな昼下がり、ルチェイはイルサヤ城内庭園にちび竜といた。
ふと、後ろから大きな生き物の足音が聞こえてきたので振り向くと
白いたてがみの美しい黒馬と、黒髪に黒衣の青年がいた。腰には黒剣を帯びている。
青年は黒い瞳でこちらをじっと見ているので、彼女もしばらく見返した。
ルチェイは思い当たりがないので
「はじめまして。どなたでしょうか?」と尋ねてみた。
黒衣の青年は彼女のことばにちょっと間を置き
「はじめまして。私は聖上より招かれた者。名をソロフスと言います」
微笑みながら言った。
ルチェイは聖上より「近々客人が来る」と知らされていた事を思い出し「ああ、それでしたら女官に申しつけましょう」とお付きの者に指示をしようとした。
「お話で伺っておりましたが」彼が言うのでルチェイが向き直ると
「本当に、アカホッペヤマザルにそっくり」
ソロフスがルチェイの顔をじっと見つめながら笑顔で言った。
直後、横にいた黒馬が軽く鼻を鳴らした。
ルチェイはしばらく考えて……自分の事を言われていると気が付き
そのほっぺが怒りで膨らんだ。
ちび竜はそんなふたりの間を飛び回り、あたふたするしかなかった。
(つづく)




