【物語】竜の巫女 剣の皇子 2 ルチェイ
環竜歴742年。
季節は秋に入った頃。
竜と巫女の国、世界の中心と謳うアーサラードラの姫巫女ルチェイは、次代の光皇女となるべく大巫女・聖上ハリュイに慈しみ育てられていた。
彼女は16歳となる翌年の春分に新しき光皇女となるために『竜の儀』を控えている。
ルチェイは長い金色の髪をゆるやかな三つ編みにし、元気よく宮城を駆け回り、青い瞳は笑顔と共に煌めいている。
とてもおてんばな姫巫女ではあるが、そそおおらかな優しさは宮城の者から愛され、国を守ることを期待されている。彼女もみんなを大切にしたいと思い、日々様々な修練に励んでいた。
ルチェイにも聖上と同じく『世界の秩序』となり得る竜を与えられている。その竜はまだ小さく、彼女が背負うことができる程度だ。
しかしながら、その竜の角や翼、全身の毛並みは雪のように白く美しい。
姫巫女の竜には、まだ名がない。
姫巫女の試練として
『竜の卵を孵すこと』
『竜と共に成長すること』
『竜に真の名を与えること」
がある。
『竜の義』まであと半年あまりだが、ルチェイはまだ竜の『真の名』を見つける事ができない。
山脈にも守られるアーサラードラの豊かな自然は、穏やかにその色を鮮やかな赤や黄色に変えていく。
ルチェイの心も同じように少しずつ色を変える。
ちび竜も姫巫女にゆっくり寄り添っている。
(つづく)