20話 花
部屋の中央に鉢があった。
鉢には花が咲いていた。
その姿はとても美しく、可憐であった。
男は花と暮らしていた。
空虚な空間、そして机の上の鉢に生えている花以外、男は何も知らなかった。
男は花を好いていた。
花は、少年の思いに答えるが如く、一層の力強さを見せて咲いていた。
永遠とも言える時間を、男は花を眺めて過ごしていた。
その行為は開く事無く、続くように互いは顔をあわせていた。
部屋には一つだけ扉があった。
男は度々その扉を気にしていた。
「行かないでくださいまし」
花は言う。
「行かないでくださいまし」
男は花の言葉に従う。
まるで素直な子供のように。
だが、次第に好奇心で満ちてゆくのを男は感じていた。
咎められる度に沸き立つそれは、男にとってこの上ない背徳感と期待を与えた。
それを露知らない花は、男に声をかけ続ける。
ある時、それは起こった。
その瞬間は一瞬でもあり、永遠でもあるようだった。
男はついに扉を開けた。
扉の先には、此処と全く同じな空間があった。
無機質な部屋の真ん中に置かれた机、その机の上に置いてある鉢、そして花。
花。
花だけが、前の部屋と唯一異なっていたものだった。
男は無意識のうちにその花に、見入っていた。
「あんな花よりずっと美しい」
男はそう呟くと、扉を閉めた。
もうあの花の声は聞こえてこない。
あんなところよりも、ずっと素晴らしい
そう思った男は、不意に耳を済ませた。
聞こえるのだ。
聞き覚えのある声が聞こえるのだ。
「おかえりなさい」
花は、美しく咲いている。




