1話 キチガイ
「はーい、グループ活動するぞ~。近くの人で4人の班つくれ~」
うげっと僕は露骨に嫌な顔をした。
僕の隣の席はクラスでもキチガイで有名な中島君なので、どうあがいても僕は中島君と組まなくてはならないからだ。
『あーあ、嫌だなぁ。クラスで除け者にされてる中島くんと一緒の班になるなぁ。でもあのミカちゃんと一緒に会話できるし我慢だな』
そう、僕の後ろの席はクラスのアイドルことミカちゃんがいるのだ。
ミカちゃんと仲良くなれるチャンスがあるというのは中島君の件を差し引いても大分ありがたいものなのだ。
そう思ったとき、
「○○君、よろしくね」
と、不意に声をかけられた。
すごく嬉しかった。
授業の内容は、50分間の間にグループでポスターを作るというものだった。
だが、中島君が2分おきに奇声をあげたり奇行をとったりするので、なかなか作業は進まなかった。
中島君が7回目の奇声をあげた時、僕の堪忍袋の緒が切れた。
「中島ァァァ!!!いい加減にしろよ!お前みたいな奴がいるせいでみんな迷惑してるんだよ!このキチガイめ!!」
そう怒鳴ると、クラス中が静まり返った。
みんな固唾を飲んで僕らを見ている。チクショウ、全部中島のせいだ。
「あのさ」
最初に静寂を破ったのは中島君だった。
「みんなは僕のことをキチガイって言うけどさ、本当に僕はキチガイなの?」
その問いは数ヶ月間クラスに居た人ならば誰でも眉をしかめ、殴りつけるような、わかりきった質問だった。
だが、中島君の言葉は、軽々に表現できないような威圧感を含み、僕らが答ることを許さなかった。
「僕は他の人から見たら変に見えるのかもしれない。でも、僕はこれらを当たり前の事だと思ってやっているんだ。君たちは君たちで正常だけど、僕は僕で正常でもある。君たちは自分が不快に感じたからといって、不当に悪人を決めつけ、罰するというのか。何がキチガイだ。何の根拠があって君たちはそんなことが言えるんだ」
論理としてちぐはぐながらも、中島君の主張はどこか哲学的だった。
中島君が言い終えて数秒後、彼の隣に座っていた渡辺君が辞典を開いて、
「発狂した人間、端的に状態が著しく常軌を逸した人間を表す。ほかの人と違う考えを持っている、あるいは若干ずれた考えを持っているという意味も含むという本来の趣旨とかけ離れ、単に世間から見て異常な行動を取る人物が当てはまる」
と、呟いた。
「やっぱりキチガイじゃねーか!」
と、突然ミカちゃんが叫び、おもむろに立ち上がり、どこからか出した機関銃で中島君を撃ちまくった。
中島君は体に無数の穴を開けて死んだ。
「キチガイは皆殺しだ!!」
ミカちゃんが機関銃を撃つ。渡辺君が爆ぜた。ミカちゃんが撃つ。隣の班の子達の頭が吹き飛ぶ。ミカちゃんが撃ちまくる。清楚系女子や草食系男子からキモオタまで皆死んだ。僕も死んだ。
カチッ、カチッと機関銃の弾丸が切れた時、ミカちゃんは我に返った。
「あー、やっちゃった!みんなごめんね!」
教室が肉塊や血で溢れかえっている中で、ミカちゃんは軽く舌を出し、ウインクした。とても可愛い。
ウインクしたと同時に、笑顔の先生がミカちゃんの顔面を斧で叩き割った。